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婚約者が病弱な幼馴染ばかり優先するので慰謝料をふんだくる  作者: リーシャ


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03その人あなたより健康ですけどね

 王太子殿下はじっとこちらを見つめた。実は王太子殿下は、国家最高戦力SSS級魔導士であることを知っている数少ない人物の一人。殿下の目が「おい、何やってんだお前」と言っている気がするがあえて、悲劇のヒロインのような儚い笑みを浮かべてみせる。こういうのも令嬢の嗜みだったりするのだ。


「マージン様……私が何を言っても、信じてはくださらないのですね」


「当たり前だ!現にカラメーリアのドレスは濡れているじゃないか!」


「そうですか……はぁ」


 深く深くため息をついた。心の中で。


(舞台は整った。衆人環視、王太子殿下の御前、言い逃れのできないレベルの暴言侮辱の数々。マージンはローベルが嫉妬に狂い、故意に水をかけたって言ったよね?もうこれで終わりってことだね)


 すっと濡れたカラメーリアのドレスに視線を向けた。


「マージン様。カラメーリア様のドレスが濡れているのは確かに事実です。ですがそれが冷たい水だと、いつ私が申し上げました?」


「は?何を言って」


「カラメーリア様、お怪我はありませんか?……お胸のあたり、とても熱かったのではないですか?」


 カラメーリアの身体がピクンと強張った。科学知識を舐めないでほしい。水分子の振動を極限まで高めれば、水は一瞬で沸騰する。カラメーリアがぶつかってきた瞬間、グラスの中の水を、魔力でピンポイントにぬるま湯に変えていた。


 なぜかって?本当に冷たい水をかけたら自称病弱女が本当に風邪を引いて、ローベルのせいで悪化したと一生ネチネチ言われるから防御策である。


「熱い?何を馬鹿な。それは給仕の」


 マージンが確かめるようにカラメーリアのドレスに触れようとした時。


「待ちなさいマージン」


 王太子殿下が声でそれを遮った。殿下の目が鋭くマージンを射抜く。


「……お前は今国家の至宝に対して、随分と無礼な口を利いたか?」


 マージンとカラメーリアがきょとんとした顔で固まった。


「こ、国家の至宝……?殿下、一体何をおっしゃっているのですか?ローベルは魔力も人並みの女です」


 マージンは完全に状況が理解できないといった風に、間抜けな声を漏らした。隣のカラメーリアも涙をぴたりと止めて目を白黒させている。王太子殿下は呆れ果てたように盛大なため息をついた。


「マージン、節穴の目は飾りか?彼女がその気になれば国を囲む大河の水をすべて操り、隣国ごと押し流すことすら容易い。我が国が誇る唯一無二のSSS級魔導士。通称水神の愛娘。ローベル嬢だ」


「は……?え?えええっ!?」


 マージンの口が限界まで開き、顎が外れそうなほど驚愕している。


(いい顔をする。もっと驚けもっと絶望してみせて)


 内心ポップコーンを食べながら特等席で映画を観ている気分だ。


(人並みの魔力?誰が測定器の魔力水晶を水圧で誤魔化して、平凡に見せかけてたと思ってんだよ。全部血の滲むような隠蔽工作の成果。無能だの平凡だの、ドレス横流しする免罪符にしてさ!)


「そ、そんな嘘です!殿下、何かの間違いでは……!ローベル様が凄い方だなんて、私聞いたことも……っ」


 カラメーリアが必死に割り込んできた。自分の優位性が揺らぐのを察知したのだろう。ドレスの胸元をぎゅっと握り、またしても悲劇のヒロインの表情(かお)を作ろうとする。


「あ、頭が、クラクラします……マージン様、やっぱり私冷たいお水をかけられたせいで発作が……ゲホッ、ゲホッ!」


(ぬるま湯だって言ったのに。湯冷めするにも早すぎるでしょ)


 心の中で盛大にツッコミを入れながら、すっと一歩前に出た。お淑やかに慈悲深い聖女のような微笑みを浮かべて。


「大変カラメーリア様、そんなに胸のお苦しみが激しいの?」


「え、ええ……苦しくて、息が……」


「可哀想に。水神の愛娘である私の特別な水魔法で今すぐ楽にして差し上げます」


 優雅に人差し指をスッと上へ向けた瞬間。


 ピキィィィィィン!


 カラメーリアの足元の床から一瞬にして半透明の水の檻、球体が湧き上がり、彼女の身体をすっぽりと包み込んだ。水は彼女の首から下まで。顔はちゃんと水面から出ている。


「な、な、何これ!?水が、動けな……ひゃっ!え?」


「カラメーリア!?ローベル何をするんだ!」


 マージンが血相を変えて剣の柄に手をかけたが、王太子殿下の鋭い視線に射抜かれて動きを止めた。


「マージン様、落ち着いてください。カラメーリア様の体内にある悪い水分を循環させ、体調を整える私の治療魔法です。ねえカラメーリア様?魔力が浸透して体の悪いところがよぉく分かります」


 ニッコリと笑い、指先を小さく捻った。水の檻の中でカラメーリアの体に触れている水圧が、じわじわと均等に高まっていく。

 痛みはない。科学知識を応用した嘘発見器のようなものだ。人間、嘘をついて緊張すると心拍数が上がり、発汗し、血管が収縮する。変化を水を通じて完全に感知していた。


「……あら?おかしいです」


 首を傾げた。


「カラメーリア様。心臓の鼓動は至って力強く、肺の機能も一般的な成人女性より遥かに健康。それどころか先ほどからマージン様に寄り添うために、かなり無理な姿勢をとっていらしたせいで少々肩が凝っているだけのようですけれどね」

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