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婚約者が病弱な幼馴染ばかり優先するので慰謝料をふんだくる  作者: リーシャ


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02嫉妬に狂って水をかける?私は人間なので理性があるのですが

 ちなみに今日のドレスは、急遽クローゼットの奥から引っ張り出してきた数年前の型落ちの、文字通り平凡な紺色のドレス。

 並んで歩くと二人の引き立て役の侍女にしか見えない。


「ええもちろんです。どうぞお二人で、楽しい夜をお過ごしください。私は少し喉が渇きましたので、あちらで休ませていただきます」


 これ以上、哀れな脳内お花畑カップルと同じ空気を吸うのに耐えかねて優雅にその場を辞した。壁際に移動し、給仕から受け取ったグラス。中身は普通の水を傾ける。


(はぁ。お茶会ドタキャン、夜会ドタキャン、挙句の果てにドレスの強奪。これで婚約者面されてるのはボランティアの領域を超えてる。いや待てよ?)


 グラスの中の透明な水を見つめながら、冷徹に思考を巡らせる。平凡に生きたい。SSS級魔導士なんていう、国家最高戦力であることがバレたらそれこそ王家や他国から政治利用されるのがオチ。

 だから、極力目立ちたくないけどこのままマージンと結婚したらどうなる?


 結婚後もカラメーリアの体調が悪いからと放置され、公爵家の激務だけを押し付けられて女に正妻の座まで脅かされる未来が解像度共に、高画質で予想できる。


(うん。やっぱりこの婚約いらない)


 死ぬ気でサビ残した前世を思い出す。教訓はブラックな環境からは、限界を迎える前に相手を合法的に破滅させてからバックれることだ。

 指先でグラスの縁をなぞる。微弱な魔力が水に伝わり、グラスの中の水が目に見えないほどの超高速で微振動を始めた。超音波カッターと同じ原理だ。


 水を一振りすれば二人の足元の床だけを綺麗にくり抜いて、下の階へ文字通りドロップキックすることだってできる。でもやらなくていいと思案した。


(いやいやまだよローベル。泳がせるの。特権を使って婚約を破棄するなら、言い訳の余地が一切ないほど衆人環視の中でマージンの不貞と無能を証明しなきゃ。幸い自爆特攻の才能があるみたいだし)


 会場がにわかに騒がしくなった。ファンファーレが鳴り響き、王太子殿下の御登壇が告げられる。マージンとカラメーリアは、あろうことか婚約者と同伴者として一番目立つ中央のエリアへ進み出ていった。

 自分という婚約者が壁際に放置されているというのに。周りの貴族たちの哀れみの視線が突き刺さる。


「……ふふ」


 グラスの水を一気に飲み干したら、喉を潤す冷たい水が体内でフツフツと滾る怒りと計算を加速させる。溺れさせてあげるんだから、マージン。平凡で無力な女だと侮っていられるのも今のうちだし。


「ローベル様!お話し中急に近づいてこられたかと思えば……ドレスにわざとお水をかけるなんてっ……酷い!酷い酷い」


 静まり返った王宮のパーティー会場に、カラメーリアの悲痛な悲鳴が響き渡った。手には空になった水のグラス。カラメーリア、元はこちらの物だった純白のドレスの胸元には、大きな水のシミが広がっている。やったなこの女。


 周囲の貴族たちが「ああいよいよ嫉妬で……」「平凡な伯爵令嬢が、公爵令息の愛を引く令嬢に嫌がらせを」とひそひそと囁き合う声が聞こえる。マージンがこれ以上ないほど冷徹無慈悲で軽蔑に満ちた目で私を睨みつけた。


「ローベル……お前がカラメーリアに嫉妬しているのは知っていたが、公の場で浅ましい真似をするなど!ドレスを奪われた腹いせのつもりか!?」


(はいはいテンプレ冤罪キタ)


 内心大爆笑しながらスタンディングオベーションを決めている。


(近くにある給仕台に、おかわりを貰いに行こうとしただけ!そしたらカラメーリアがわざわざこっちに突進してきて、自分で私のグラスにぶつかりにいって自分で胸元に水をバシャァしたんだっての!無駄にキレのある自傷ステップとアクロバティックすぎて逆に感心する)


「マージン様、ローベル様を責めないであげてください。マージン様の隣にふさわしくない、病弱で身分の低い女だから……ローベル様がお怒りになるのも当然なのです……ううっうううう」


 カラメーリアはこれ見よがしに濡れた胸元を隠すようにして、マージンの胸に顔を埋めて泣き出した。


(いや、だから胸の病どこ行った?さっきから一番肺活量使って喋ってるでしょ?あと身分低いって自覚あるなら公爵令息にベタベタすんな。私のドレスにシミ作って、クリーニング代請求するから)


「ローベル!謝れ。カラメーリアに謝れ。今すぐ。彼女は体が弱いんだぞ!冷たい水をかけられてもし万が一のことがあったらどうする!?どう責任を取る!?どうなのだ!?」


 マージンが声を荒らげると騒ぎに気づき、人だかりを割って国の第一王子である王太子殿下が歩み出てこられた。うーん、不要なんだけどな。


「騒々しいな一体何事だ、マージン」


「王太子殿下!申し訳ありません。我が婚約者ローベルが……嫉妬に狂い、大切な幼馴染であるカラメーリアに故意に水をかけるという暴挙に出たのです」


 マージンは自信満々に指差した。言い返せない大人しい女だと信じ切っているから、ここで罪を認めさせて婚約破棄の優位に立とうとでも考えたのだろう。浅はかすぎてヘドが出る。ははっと笑う。

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