第98話 南に……
しばらくその場に留まり様子を窺う。けれど、それ以上の変化は起こらなかった。地面の光も、一定の強さを保ったまま、静かに明滅を続けているだけだった。
一度、ガレットたちの元へ戻り、状況を説明する。
「どうだった」
「発光する地面がありました。あとは、魔獣が近づかないことくらいで」
心春の報告を受け、ガレットたちも表情を引き締めた。
「もう一度、全員で向かってみよう」
再び現地に戻ると、様子は先ほどと変わらなかった。地面の光もそのままの状態を保っている。
ただ一つ、違っていたことがあった。
先ほどまで周囲をうろついていたはずの魔獣たちの姿が、綺麗に消えていた。
「あれ?」
思わず声が漏れる。
「さっきまで、魔獣が周りにいたんですが」
周囲を見回しても、気配すら感じられない。まるで、何かに追い払われたかのようだった。
その事実がますます違和感を深くしていく。何かが起きている。ただ、その正体が掴めない。もどかしさが、じわじわと胸に積もっていった。何かに怯えるというよりも、見えない相手と対峙しているような、落ち着かない気持ち悪さだった。長年培ってきた勘が、これは一人で抱え込んでいい話ではないと告げている。
結局、しばらく監視を続けたものの、それ以上の変化は見られなかったため日が傾き始めた頃、一行はギルドへと引き上げることにした。
「今日のところは、ここまでにしよう」
「はい」
報告を終えガレットたちに向き直る。
「また何か異変を感じたら、すぐに呼んでください」
「分かった。世話になったな」
その夜、心春はギルドの通信室を訪れた。魔力を用いて遠方のギルドと連絡が取れる、簡易的な設備が置かれている。
「すみません、スクエアランクの心春です。こちらの街に住む、すずなさん宛てに連絡をお願いできますか」
受付の職員が、心得たように頷いた。水晶を通して、短い文面が向こうのギルドへと送られていく。
翌朝、すずなが迎えに来る。
「大丈夫でしたか」
その声に、心春は思っていたよりも肩の力が抜けるのを感じた。一人で抱えていた違和感が、誰かと共有できるというだけで、少しだけ軽くなった気がした。
「わざわざ来ていただき、申し訳ありません。特に何もなかったんですけど。ちょっと気になることがあって」
心春はそう言いながら、昨日の出来事を手短に説明した。
「発光する地面、ですか」
「はい。それに魔獣が急にいなくなったのも、気になって」
すずなは真剣な表情で話を聞いていた。
「念のため、エルフィさんに相談してみましょうか」
その提案に心春は頷いた。
すぐに移動し、二人はエルフィの家を訪ねた。事情を説明し始めると、エルフィの顔色が、みるみる変わっていった。
「なんだと」
いつもの落ち着いた様子が、嘘のように消えている。視線が一瞬、宙をさまよい、何かを思い出そうとするように細められた。それから、記憶の糸を手繰るように、ゆっくりと目を伏せる。
しばらくの沈黙があった。
「エルフィさん?」
心春が恐る恐る声をかける。エルフィは答えない。ただ、その指先が、無意識に自分の腕をきつく握りしめていた。
「南に……」
その一言を最後に、エルフィは言葉を失っていた。
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