第95話 銀髪幼女
久しぶりに、四人で日本へ向かうことになった。心春は実家に立ち寄ると言って、途中で別行動を取った。
「行ってらっしゃい」
すずながそう声をかけると、心春は小さく手を振って歩いていく。心春が家の玄関を開けると、正一が驚いた顔で出迎えた。
「おかえり。今日は急だったな」
「ちょっと、皆さんと日本に来る用事があって。せっかくだから、顔を見せに寄りました」
「そうか」
正一はそう言いながら、しみじみとした表情を見せた。
「なんだか不思議だな。お前がこんなに気軽に帰ってこられるようになるとは」
「私もまだ慣れないです」
心春はそう言いながら苦笑する。以前は片道切符で二度と戻れないかもしれないと思っていた場所だったはずが、今は思い立てば数秒で辿り着ける距離になっている。
「ゆっくりしていきなさい」
「はい。でも今日は皆さんと合流するので、少しだけ」
心春はそう言いながら、リビングで少しだけ父との時間を過ごした。
一方、すずな、紬とエルフィの三人は、近くのショッピングモールへと向かっていた。
「ショッピングモールに来るの久しぶりです」
「今日はイベント広場で何かやっているみたいですね。」
すずなが掲示板のポスターを指差した。子供向けのキャラクターショーが開催される、という案内だった
モールの中央広場に近づくと、着ぐるみを着たキャラクターが子供たちに囲まれていた。案内係のスタッフが楽しげに声をかけている。
「小さなお友達こっちにおいでー!」
スタッフの視線が、ふとエルフィの方に向いた。
「あ、そこの可愛いお嬢ちゃんも、一緒に写真撮ろうね!」
「え?」
エルフィが怪訝な顔でスタッフを見上げた。
「ちょっと待ってあの人」
紬が慌てて口を挟もうとした瞬間、スタッフはもうエルフィの手を取っていた。
「はい、こっちだよー!」
抵抗する間もなくエルフィは着ぐるみの隣に立たされていた。
「あの……この方は」
すずなが慌てて説明しようとしたが、スタッフは既にカメラを構えていた。
「はいチーズ!」
シャッター音が鳴り、エルフィは無表情のまま着ぐるみに肩を抱かれる形で写真に収まった。
「え、これ、私は」
エルフィが状況を把握しきれない様子で呟く。
「お嬢ちゃん、可愛いね!お名前は?」
「......エルフィ」
「エルフィちゃんね!また遊びに来てね!」
スタッフは満面の笑みでそう言うと、その場で印刷された写真をエルフィに手渡し、次の子供の対応へと移っていった。
残されたエルフィは、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
「子供扱い、されましたね」
紬が笑いを堪えながらそう言った。
「マスターランクだぞ、私は」
エルフィがそう抗議したが、その声にはいつもの迫力が感じられなかった。
「エルフィさんせっかくなので、何か買っていきますか」
「甘いものを、見繕おう」
エルフィは先ほどの動揺をすっかり忘れたように、菓子コーナーへと足を向けた。
棚に並ぶ色とりどりの菓子を、真剣な表情で吟味していく。その様子はいつもの落ち着いた雰囲気に戻っていた。
「これと、これと」
エルフィはいくつかの箱を次々と手に取り、紬の腕の中に積み上げていく。
「エルフィさん少し買いすぎじゃないですか」
紬が山積みになった菓子の箱を抱えながら、苦笑した。
「足りないよりはいい」
「その理論、いつも聞きますね」
すずなも思わず笑ってしまう。
賑やかな騒動の後、三人はフードコートに向かう。
「せっかくなのでアイスでも食べませんか」
と紬が二人に尋ねる。
「賛成です」
すずなも頷く。
三人でアイスクリーム店の前に並ぶと、エルフィが真剣な表情でメニューを見つめていた。
「私はもちろんダブルで」
エルフィはそう言いながら、満面の笑みを浮かべた。先ほどの子供扱いの動揺はすっかり消え去っていた。
「ダブルですか」
「じゃあ私はトリプルで!」
紬が無駄に対抗意識を燃やしてそう宣言した。
「では私はダブルのダブルにしよう」
エルフィが負けじとそう言い返す。
「じゃあ私はトリプルのトリプルで」
紬もさらに張り合おうとした。
「二人ともそんなのありません」
すずなが思わずそう窘めた。
「メニューにない注文はできませんから」
「くっ」
紬が悔しそうに肩を落とす。
「仕方ない。普通のダブルにしておこう」
エルフィもあっさりと矛を収めた。
「私も普通にトリプルにします」
「トリプルは、あるんですね」
すずなが思わず突っ込んだ。
結局エルフィが選んだのは、抹茶とキャラメルの組み合わせだった。受け取ったコーンを嬉しそうに眺めている。
「美味い」
一口食べた瞬間、エルフィはそう呟いた。
「良かったです」
三人はそれぞれのアイスを手に、近くのベンチへと腰を下ろした。
ベンチでアイスを味わっていると、少し離れた場所から、こちらを見つめている視線に気づいた。カメラを片手にした青年が、先ほどの写真撮影の一部始終を、食い入るように見つめていたらしい。
「銀髪、幼女......尊い......」
その呟きがすずなの耳に届いた。
「今、なんて」
紬もその声に気づいたのか眉をひそめた。
青年は、興奮した様子でスマートフォンに何かを打ち込んでいる。すずなたちの視線に気づくと、青年ははっとした表情を浮かべた。
二人の視線が一斉に青年に向く。
青年はそのまま何も言わず、逃げるようにその場を後にした。
残された三人の間に、なんとも言えない沈黙が流れた。
「今のは......」
すずなが口を開きかけて、言葉を止めた。
「見なかったことにしましょう」
紬がそう提案した。
「賛成です」
すずなもすぐに頷いた。
「何の話だ」
エルフィだけが状況を理解できていない様子で、二人を交互に見た。
「エルフィさんは気にしなくて大丈夫です」
紬がそう言いながら、エルフィの手をそっと引いて歩き出した。
「なんだそれは」
エルフィは釈然としない顔のまま、二人に連れられていった。
しばらくして、心春が実家から合流してきた。
「お待たせしました」
「心春さん、ご実家はどうでした?」
すずながそう尋ねると、心春は柔らかく微笑んだ。
「元気そうで安心しました。また今度ゆっくり顔を出すって、約束してきたので」
「良かったです」
その後、心春はテーブルの上に積まれた菓子の箱を見て目を丸くする。
「これ、全部エルフィさんのですか」
「足りないよりはいい」
エルフィがいつもの調子でそう答える。
「今日は着ぐるみと写真も撮ってましたよ」
紬がそう付け加えると、心春は驚いたように聞き返した。
「着ぐるみと、ですか」
「子供扱いされて」
「なんだそれは、私はマスターランクだぞ」
エルフィがまた同じ抗議を繰り返すがなんの威厳も無く、三人はしばらく笑い合った。
賑やかな一日は、そうして穏やかに幕を閉じていった。
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すずなたちの物語を、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。皆さんに読んでいただけることが、この物語を書き続ける力になっています。
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