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【完結保証】おとぎ話の試練を全部クリアしたら無自覚最強の美女になっていました。~明日仕事なのに、独占欲の強い後輩女子に帰れない異世界へ連れて行かれました~  作者: ごまだんご
第八章 鐘の音が鳴る前に

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第93話 なぜそこまで知っているのか

エルフィの家を辞去した後も、すずなの頭からは、先ほどの言葉が離れなかった。


「マスターランクが数名手伝っても、足りるかどうか怪しい」


 あの一言の重みが、じわじわと胸に沈んでいく。


「そこまで厳しいものなんでしょうか」


 帰り道、すずなはぽつりとそう漏らした。


「私も正直ちょっと想像つかないです」


 紬が隣で腕を組みながら首を傾げる。


「マスターランクの人が数名がかりでも危ういって、どれくらいの規模なんですかね」


 二人はしばらく無言で歩いた。夕暮れの街並みが、いつもより静かに感じられる。


「それに気になったことがもう一つあって」


 すずながふと足を止めた。


「エルフィさんって、なんであんなに詳しいんでしょう」

「あ、それ私も」


 紬の声に驚きの色が滲む。


「試練のことあんなに具体的に語れるものなんですかね」


 考えてみれば、そもそもエルフィは異世界人だ。すずなの持つFable(フェイブル) Unbound(アンバウンド)は、こちらの世界特有の力のはずだった。それなのに、まるで内部事情を知っているかのような口ぶりだった。


 結局、二人はその足でエルフィの家へと引き返すことにした。

 扉を叩くと、少し間を置いて顔を出したエルフィは、意外そうに眉を上げた。


「戻ってきたのか」

「すみません、もう一つ聞きたいことがあって」


 すずながそう切り出す。


「なんだ」

「エルフィさんは、どうしてThorn(ソーン) bound(バウンド) Fate(フェイト)について、あんなに詳しいんですか」


 エルフィの表情がわずかに変わった。普段のそっけなさとは違う、何かを測るような間があった。


「入れ」


 短くそう言うとエルフィは扉を大きく開けた。

 案内されたのはこれまで通したことのない、家の奥の部屋だった。棚には見慣れない古い書物や、小さな道具が並んでいる。埃をかぶった空気には、他の部屋とは違う、時間の止まったような静けさが漂っていた。


「ここは……」


 紬が物珍しそうに辺りを見回した。


「昔集めたものをしまってある場所だ」


 エルフィはそう言いながら、一冊の古びた本を棚から取り出した。表紙には掠れた文字で何かが記されている。


「これは」


 すずなが目を凝らす。


「過去に発生した試練の記録だ。私が挑んだものではないが記録として、目を通したことがある」


 エルフィはそう言いながら、古びた本のページをゆっくりとめくっていった。


「この試練を実際に乗り越えた者がいる」

「乗り越えた……?」


 すずなが思わず身を乗り出す。


「お前たちと同じ日本から来た者だ」


 その一言に紬とすずなは顔を見合わせた。すずなの中で、これから自分が挑むはずの五つの試練という言葉が、急に輪郭を持ち始めた。


「日本人が、Thorn bound Fateを?」

「ああ。ずっと昔の話だ」


 エルフィはそう言いながら、ページの一点に視線を落とした。指先が、そのページの端を無意識になぞっていた。


「私もその現場にいた」


 部屋にしばらく沈黙が落ちた。


「その人は、今も……」


 すずなが恐る恐る尋ねる。


「もういない」


 エルフィの声はいつもより低かった。


「試練は乗り越えたが代償が大きすぎた。生き延びはしたが、長くは持たなかった」

「そんな……」


 紬が思わず声を詰まらせる。すずなは何も言えなかった。乗り越えたのに、生き延びられなかった。その言葉が、これから自分が挑む道の先に、静かに横たわっているような気がした。


「だから私は詳しい」


 エルフィは静かに本を閉じた。指先がまだ、表紙の上に置かれたままだった。


「あの試練がどれほどのものか、身をもって知っている者の数少ない一人だからだ」


 その声には、これ以上踏み込ませない硬さがあった。すずなも紬も、それ以上は何も聞けなかった。棚の隅で、古い本の背表紙だけが、静かに埃をかぶっていた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


すずなたちの物語を、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。皆さんに読んでいただけることが、この物語を書き続ける力になっています。

もしよろしければ、ブックマークや評価もいただけると嬉しいです。

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