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第89話 贈り物

数日後、三人は再び本部ギルドを訪れた。


「あ、ボルクさんだ」


 紬がそう言って手を振った。


「今日も来たのか」


 ボルクがいつもの調子で軽く手を挙げた。


「今日はレインさんとシェイラさんにお礼の品を渡しに来たんです」


 すずながそう説明した。


「相変わらず律儀だな」

「お土産です、どうぞ」


 紬がそう言いながら焼き菓子の包みを差し出した。


 リンが手を伸ばしかけた瞬間、ボルクの手がまた先に伸びる。


「今日こそは」


 リンがそう意気込みながらも、結局包みはボルクの手に渡っていた。


「なんでですかー」

「早いもの勝ちだ」


 すずながもう一つ包みを取り出しながら、苦笑した。


「リンさんの分もちゃんとありますからね」

「ありがとうございます、すずなさん」


 資料室へ向かうとシェイラとレインが揃って本棚の整理をしていた。


「先日はありがとうございました」


 すずながそう声をかけると、二人が振り返った。


「またお前たちか」


 レインが驚いたようにそう言った。


「おかげさまで、エルフィさんの誕生日をお祝いできました。エルフィさんも喜んでくれました」


 すずながそう報告した。


「そうか、あのエルフィが喜んだか」


 レインが意外そうにそう呟いた。


「日頃の彼女からは、あまり想像がつかない反応だな」

「珍しくケーキを何度もおかわりしてました」


 心春がそう付け加えると、レインとシェイラは思わず顔を見合わせた。


「それは珍しい」


 シェイラが静かにそう呟いた。


「今日は、お礼の品を持ってきたんです」


 紬がそう言いながら二つの包みを差し出した。


「まずはレインさんに」


 すずなが懐中時計の入った包みを手渡した。


 レインは包みを受け取ると、興味深そうにそれを開けた。中から現れた懐中時計を見て、彼の目が、みるみる輝いていった。


「ほう」

「日本の、老舗の時計店で選んだんです」


 すずながそう説明した。


「日本製か。道理で」


 レインはそう言いながら、蓋を開けたり閉じたりを繰り返した。


「機構が実に緻密だ。歯車の噛み合わせに無駄がない。この国の時計技術は機械式でありながら、誤差を極限まで抑える工夫が随所に見える。特にこの、テンプの振動を制御する機構は単なる装飾ではなく、実用面でも極めて優れた設計思想に基づいている。時間というものを単に計測するだけでなく、いかに正確にいかに美しく刻むかという、職人の哲学がそのまま形になっているようなものだ。時空魔法を扱う私からしても、これほど精緻に『時』そのものと向き合った道具は、そう多くは目にしない」

「あの、喜んでいただけて良かったです」


 すずなが圧倒されながらもそう言った。


「うちにも似たようなものはあるが、これほど繊細な作りのものは初めて見る」


 レインはそう言いながら、懐中時計を大切そうに胸元にしまった。


「大事に使う」


 その一言は、いつもの早口とは違い静かで実感のこもったものだった。


「シェイラさんにはこちらを」


 紬がそう言いながら、もう一つの包みを差し出した。シェイラは静かにそれを受け取り、丁寧に包みを開いた。


 中から現れたのは小さな花や葉が閉じ込められた、透明なガラスのペーパーウェイトだった。シェイラの表情がふっと和らいだ。


「綺麗ですね」

「資料室でよく本を読んでいらっしゃるとお聞きしたので。机に置いていただけたらと思って選びました」


 シェイラはそれを両手でそっと持ち上げ、窓からの光にかざした。内部の植物が淡く輝きながら浮かび上がる。


「植物が閉じ込められている」


 シェイラはそう呟きながら、しばらくその光を見つめていた。


「精霊たちもこういうものを好む」


 その言葉と共に、彼女の周りに様々な色の鮮やかな光が、舞うように散り消えていった。


「今のは……」


 心春が思わず息を呑んだ。


「精霊たちが喜んでいるだけだ」


 シェイラはそう言いながら、静かに微笑んだ。


「そうなんですか」

「自然の一部が、形を変えて残されている。それを、大切に扱う心も伝わってくる」


 シェイラはそう言いながら、ペーパーウェイトを胸に抱くように持った。


「ありがとう」


 その声はいつもの淡々とした口調よりも、わずかに柔らかかった。


 二人の反応を見て、すずなたちはほっと胸を撫で下ろした。


「喜んでいただけて良かったです」


 すずながそう言うと、レインが早速、懐中時計を取り出して眺め始めた。


「シェイラこれを見ろ。この歯車の配置は」

「後で聞く」


 シェイラはそう言いながらも、ペーパーウェイトを机の上に、そっと置いた。


 すずなたちは、その二人のやり取りを眺めながら、顔を見合わせて笑った。喜んでもらえたという実感が、贈った側の胸にも、静かな満足として広がっていった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


すずなたちの物語を、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。皆さんに読んでいただけることが、この物語を書き続ける力になっています。

もしよろしければ、ブックマークや評価もいただけると嬉しいです。

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