第87話 五日間の準備
レインとシェイラの元を辞去した後、すずな、紬と心春の三人は、さっそく計画を練り始めた。
「五日後……意外と時間、ないですね」
紬が指折り数えながらそう言った。
「エルフィさんの好きなもの、たくさん考えないと」
すずながそう言いながら、頭の中で候補を挙げていく。
「甘いもの以外にも、何か特別なものがあればいいですね」
心春もそう提案した。
翌日、すずなは日本へと転移し以前から気になっていた洋菓子店を訪れた。行列のできる有名店で、繊細な装飾のケーキが評判の店だった。
「エルフィさんなら、こういう見た目の華やかさも喜んでくれそうですね」
すずなはそう呟きながら、いくつかのケーキを見比べた。悩んだ末、選んだのはフルーツをふんだんに使った、宝石箱のようなホールケーキだった。
「これにしましょう」
その後の数日間、三人はこっそりと準備を進めた。
「エルフィさんに気づかれないようにしないと」
紬がそう言いながら楽しそうに笑った。
「エルフィさん、鋭いところありますからね」
心春もそう頷いた。
「大丈夫だと思います。お菓子のこと以外には、あまり関心を向けないので」
すずながそう言うと、三人は顔を見合わせて笑った。
そして五日後。
「エルフィさん今日は少しお時間いいですか」
すずながエルフィの家を訪ねてそう切り出した。
「構わないが何かあったか」
「実は、今日は特別な日なので」
「特別な日?」
エルフィが不思議そうに首を傾げた。
「今日、エルフィさんのお誕生日なんです」
紬がそう言うと、エルフィは驚いたように目を見開いた。
「誕生日……?私も忘れていたものをよく調べたな」
「レインさんとシェイラさんに協力していただいたんです」
心春がそう説明した。
「あの二人が……」
エルフィは複雑そうな表情を見せた。
「それよりこちらへどうぞ」
すずながそう言ってエルフィを家の中へ案内した。
テーブルの上には、宝石のように輝くホールケーキが置かれていた。
「これは凄いな……」
エルフィがそのケーキを見て、珍しく言葉を失った。
「日本の有名なお店のケーキです。とても評判がいいところなんですよ」
「わざわざ日本から」
「エルフィさんに喜んでもらいたかったので」
すずながそう言うと、エルフィはしばらく黙ってケーキを見つめていた。
「あとこれも」
紬がそう言いながら、値の張るシャンパンをテーブルに並べた。
「お酒もいけましたよね」
「飲める」
エルフィはそう即答した。
「せっかくなので、乾杯しましょうか」
心春がそう言いながらグラスを配った。四人分のグラスにシャンパンが注がれていく。
「お誕生日、おめでとうございます」
三人が声を揃えてそう言った。グラスが静かに触れ合う音が響いた。
乾杯の後、エルフィは早速ケーキに手を伸ばした。フォークで一口すくい口へと運ぶ。しばらく無言で咀嚼した後、ぽつりと呟いた。
「美味い」
「良かったです」
すずながほっとしたようにそう言った。
「甘さの層が幾重にも重なっている。果実の酸味が、それを引き締めている」
エルフィはそう言いながら、二口目、三口目と食べ進めていった。いつもより心なしか食べる速度が速い。
「気に入っていただけたみたいですね」
紬が嬉しそうにそう言った。
「今日という日覚えていてくれる者たちがいる」
エルフィがケーキを見つめながら、ぽつりとそう呟いた。
「それだけで悪くない」
その言葉にはいつものそっけなさとは違う、わずかな温もりが滲んでいた。すずなはふと、この人が今まで何度もこうした日を、一人でやり過ごしてきたのかもしれないと思った。口には出さず、ただその横顔を見つめた。
「毎年お祝いさせてください」
心春がそう言うと、エルフィは小さく頷いた。
「好きにしろ」
その返事はいつも通りそっけなかった。それでも、その口元には確かに小さな笑みが浮かんでいた。
シャンパンを飲み進めるうちに、場の空気も次第に和やかになっていった。
「エルフィさんお酒強いんですね」
紬がそう言いながら頬を赤らめていた。
「マスターランクだからな」
「それ、お酒には関係ないと思います」
心春が思わずそう突っ込んだ。
四人分の空いた皿とグラスだけが、テーブルの上に穏やかに残されていた。
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