第83話 終焉の導き手
「エルフィさんは、その方たちと仲が良いんですか」
心春がそう尋ねた。
「仲が良い、というほどでもない。だが共に戦ったことはある」
「共に戦った?」
すずながその言葉に反応した。
「昔の話だ」
エルフィは間を置いてそう言った。
「エルフィさんの二つ名。終焉の導き手でしたよね」
紬がふとそう口にした。
「二つ名?」
すずなが初耳の様子で聞き返した。
「エルフィさんにそんなものがあったんですか」
心春も驚いたように目を見開いた。
「知らなかったのか」
「初めて聞きました」
「私も聞いたことなかったです」
すずなもそう続けた。
「広域魔法が得意だからな」
エルフィはそっけなくそう言った。
「広域魔法って、何ですか」
紬が首を傾げた。
「見える範囲は、全てが対象になる」
エルフィが静かにそう答えた。
「え?見える範囲全部……?」
心春がその言葉の意味を測りかねるように呟いた。
「視界に入る場所であれば、街一つ分でも平原一帯でも。効果範囲に収める」
「それって」
すずなが声を落とした。
「規模で言えば、どれくらいなんですか」
「更地にしようと思えばできる」
エルフィはあっさりとそう言った。
「更地……」
紬が思わず絶句した。
「見える範囲、全部をですか」
「そうだ」
その返答に三人はしばらく言葉を失った。
「その侵攻を止めた時もそれを使ったんですか」
心春が恐る恐るそう尋ねた。
「使った」
短い答えの奥に、これまでにない重さが滲んでいた。
「異世界の別の場所から、扉のようなものが開いた。私や紬たちが行き来していた石碑とは違う、もっと不安定なものだ」
「不安定な扉?」
すずながそう聞き返した。
「向こう側から何かが押し寄せてきた。数も多く、力も強かった」
「何かって」
「詳しくは言わん。良い記憶ではない」
エルフィの声はいつもよりわずかに低かった。
「バルドやレイン、シェイラや他のマスターランク、デカゴンランク達と共に、その場に向かった。私は広域魔法で押し寄せてくるものを一帯ごと更地にした」
「一帯ごと……」
紬が震える声でそう呟いた。
「その後レインが時空魔法で扉の周辺を隔離し、シェイラが精霊の力を借りて扉そのものを封じた。バルドは隔離が完了するまで、最前線で持ちこたえた」
「皆さんで協力して」
すずなが呟いた。
「ああ。私一人では成し得なかった」
エルフィは静かに紅茶を一口飲んだ。
「その功績でバルドは破砕の剣王、レインは刻の観測者、シェイラは森羅の契約者。私はあの仰々しい二つ名をつけられた」
「なんでエルフィさんだけ、そんな目立つ二つ名が」
心春はぴんとこない様子で尋ねた。
「広域魔法での被害規模が一番大きかったからだろうな」
エルフィは複雑そうな表情でそう答えた。
「今、その扉はどうなってるんですか」
すずなが心配そうにそう尋ねた。
「封じたままだ。今のところ変化はない」
「今のところ……」
紬がその言葉に引っかかりを覚えたように口の中で反芻した。
「絶対に安全とは、誰にも言い切れん。だが私やシェイラたちが定期的に様子を見ている」
「そうなんですね」
すずなはほっとしたように、それでもどこか胸の奥に小さな不安を残しながら頷いた。
「まぁ今すぐどうこうなる話ではない」
エルフィはそう言って空になった皿を見つめた。
「それより、おかわりはあるか」
「エルフィさん、話の締め方が急すぎます」
心春が思わず笑ってしまった。
「重い話は、長く続けるものではない」
すずなの方をちらりと見ながら、エルフィがそう言った。
「まだ沢山ありますよどうぞ」
すずなが追加のエクレアを皿に載せながら言った。
「お土産にも、いくつかいかがですか」
「助かる」
エルフィは早速二つ目に手を伸ばし、何事もなかったかのように頬張り始めた。
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