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第82話 マスターランク

 昼下がり、すずなの家の扉をエルフィが無言でノックした。


「お菓子が尽きた」


 開口一番そう告げる。


「温泉で買ったもの、もう無くなったのですか」


 すずなが少し驚いたようにそう言った。


「なくなった。深刻な問題だ」


 エルフィは真剣な顔でそう答えた。


「入ってください。ちょうど今、お菓子を作ってたところなので」


 すずながそう言って家の中へ招き入れた。

 リビングには、既に心春の姿があった。


「あ、エルフィさん。いらっしゃったんですね」

「心春も来ていたか」

「はい、お邪魔してます」


 心春はお茶を一口飲みながら答えた。


「良い匂いがする」


 エルフィがキッチンの方に鼻を向けた。


「エクレアを作ってたんです。もう少しで焼き上がるので良かったら召し上がっていきませんか」

「食べる」


 エルフィは即答した。


「即決ですね」


 心春が思わず笑ってしまった。


「お菓子に関しては迷いがない」


 エルフィはそう言いながら椅子に腰を下ろした。

 しばらくして、焼き上がったエクレアがテーブルに並んだ。


「どうぞ」


 すずながそれぞれの前に一つずつ置いていく。

 エルフィは早速一口かじりついた。しばらく無言で咀嚼してから静かに呟いた。


「このチョコとカスタードのバランス、絶妙だ」

「ありがとうございます」


 すずなが嬉しそうにそう答えた。


「甘さの主張が強すぎない。それでいて物足りなさもない」


 二口目にかじりつきながら、エルフィがそう続けた。


「エルフィさんの食レポ、いつも的確ですよね」


 心春がそう言って目を細めた。


 ちょうどそこへ紬も帰ってきた。買い出しの荷物を置きながら、テーブルに加わる。


「わーい!エクレアだ。私も食べます」


 紬も席につき四人でのお茶の時間が始まった。


 しばらく他愛のない話が続いた後、ふと紬が思い出したように口を開いた。


「そういえば、他のマスターランクの方のこと、全然知らないんですけど。他に九名いらっしゃるんですよね?」

「ああ、いる」


 エルフィがそっけなくそう答えた。


「どんな方たちなんですか」


 心春も興味深そうに身を乗り出した。


「色々だ」


 エクレアをもう一口かじりながら、エルフィが答えた。


「例えばどんな方が」


 紬がさらに聞いてみた。


「バルドという男がいる」

「バルドさん」

「筋肉と剣以外、あまり物を考えていない」


 その説明にすずなと紬は思わず顔を見合わせた。


「マスターランクなのに、そんな」

「強さだけなら私よりも純粋な力は上かもしれん」

「エルフィさんより強いんですか?」


 心春が驚いたようにそう聞いた。


「力の種類が違う。あいつは真正面から殴って全てを片付けるタイプだ」

「シンプルですね」

「本人はそれで満足している」


 どこか呆れたような表情を浮かべ、エルフィはそう言った。


「他にはどんな方がいるんですか」


 紬が続けてそう尋ねた。


「レインという男もいる。時空魔法を使う」

「時空魔法……?」

「時間や空間そのものに干渉する。あいつと話していると、たまに何を言っているのか分からなくなる」

「エルフィさんでも分からないことがあるんですね」


 心春が意外そうにそう言った。


「専門外だ。全属性使えるとは言え、時空魔法だけは系統が違う」


 エルフィはそう説明しながら紅茶を一口飲んだ。


「あと一人は」


 すずながそう促した。


「シェイラという女だ。精霊契約者」

「精霊契約者?」

「精霊魔法は、魔法ではなく精霊との契約によって得るものだ。普通の人間には後天的に習得できない」

「じゃあ生まれつきとか、特別な条件が必要なんですか」

「そうだ。あいつは幼い頃から精霊に気に入られていた。珍しい素質だ」


 少し遠い目をしながら、エルフィはそう語った。


「三人とも個性的な方たちなんですね」


 紬が目を丸くしてそう言った。


「まあ、十人もいれば色々いる」


 エルフィはそう言いながらエクレアの最後の一口を食べ終えた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


すずなたちの物語を、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。皆さんに読んでいただけることが、この物語を書き続ける力になっています。

もしよろしければ、ブックマークや評価もいただけると嬉しいです。

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