第81話 引っ越しの日
引っ越し当日、すずなと紬そしてエルフィ南の街にある心春の家に集まっていた。
「暇だったから、来てやった」
エルフィがそっけなく言いながら、部屋の中を見回した。
「エルフィさんも、ありがとうございます」
心春が頭を下げた。
「暇つぶしだ。礼はいい」
エルフィはそう言いながらも、さっそく荷物を運ぶ手伝いを始めていた。
「荷物、思ったより多いですね」
紬が、木箱の数を見てそう言った。
「二年分の生活用品なので」
心春が照れくさそうに答えた。
「収納鞄、使えば楽ですよ」
すずながそう言いながら自分の鞄に次々と荷物を詰め込んでいった。木箱一箱分があっという間に吸い込まれていく。
「私も試してみます」
紬が意気揚々と自分の鞄に本を詰め始めた。一冊、二冊、三冊、四冊、五冊。
「見てください、五冊入りました!」
紬が誇らしげに鞄を掲げた。
「それくらい普通に袋に入れるのと変わらんだろう」
エルフィが冷静にそう突っ込んだ。
「なんなんですかー!」
紬がいつもの調子で声を上げた。
「魔力、まだCランクのままなのか」
「そうですけど! そこ、突っ込まなくていいですから!」
「あの、その鞄。見た目からは想像つかないくらい入るんですね」
心春が感心した様子で言った。
「エルフィさんが、以前くださったんです」
すずなが説明した。
「なんでもありなんですね」
心春が感嘆したようにそう呟いた。
「マスターランクだからな」
エルフィがいつもの口癖でそう答えた。
「その一言で大体片付くんですね」
心春が思わず笑ってしまった。
「便利な言葉ですよね、それ」
紬がまだ悔しそうに鞄の中を見つめながらそう呟いた。
「悔しいなら、魔力を鍛えるしかない」
「分かってますよ、それくらい」
荷物を鞄に収め終えると、四人は加護を使って新しい街へと転移した。空き家だった心春の新居に、次々と荷物が運び込まれていく。
「思ったより、あっという間でしたね」
心春が鞄から取り出した荷物を並べながら言った。
「収納鞄様々です」
紬がそう言いながらも、まだ少し鞄への未練を引きずっていた。
一通り片付いたところで、心春が四人分のお茶を淹れた。
「まだ家具もほとんどないんですけど」
心春はそう言いながら床に直接座布団を並べた。
「十分ですよ。落ち着く空間です」
すずなが腰を下ろしながら言った。
「新しい生活、始まりましたね」
紬が湯気の立つカップを両手で包みながら言った。
「はい。ここまで来られたの皆さんのおかげです」
心春が改めて頭を下げた。
「頭、上げてください。もう十分聞きましたから」
紬が笑いながらそう言った。
「困った時は、いつでも呼んでください。すぐ近くなので」
すずなもそう付け加えた。
エルフィはその様子を静かに眺めながら、紅茶を一口飲んでいた。それから、ふと思い出したように懐へ手を入れた。
「そういえば、お前にも渡しておく」
そう言って差し出されたのは、すずなや紬のものと同じ、小さな鞄だった。
「え、私にもですか」
心春はそれを見つめたまま、しばらく言葉が出てこなかった。
「父親には世話になった。その礼だ」
「そんな、こんな貴重なものまで」
「くどい。受け取れ」
心春は恐縮しながらもその鞄を両手で受け取った。
「ありがとうございます、エルフィさん」
「試してみますか」
すずなが提案した。心春は頷いて近くにあった本を鞄に詰め始めた。一冊、二冊、三冊。次々と、吸い込まれるように収まっていく。
「わぁ、結構入りますね」
心春が目を丸くした。そのまま何冊も試していく。
「十二冊、入りました」
「十二冊……」
紬が愕然としたようにその数字を繰り返した。
「私、五冊だったのに」
「魔力の差だ」
エルフィが、あっさりとそう言った。
「なんなんですかー!」
紬の声が部屋に響いた。四人分の笑い声が、まだ物の少ない部屋の中に軽やかに溶けていった。
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