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第79話 ファンクラブ

 心春の新居も決まり、心春はすずなと紬の家でお茶をご馳走になっていた。


「そういえば、今度クラリスちゃんが顔出すって言ってましたよね」


 紬がそう思い出したように言った。


「クラリスちゃん、というのは?」


 心春が聞き慣れない名前に首を傾げた。


「伯爵令嬢の子です。すずな様ファンクラブの会長をしてる子ですよ」

「ファンクラブ?」


 心春は紅茶を持つ手を止めた。


「すみません聞き間違いかもしれないんですけど。ファンクラブって、今」

「はい。すずなさんの裏加護に洗脳された人たちの集いです」


 紬が、あっさりとそう答えた。


「裏加護って、まだその名称有効なんですか?」


 すずなが困ったようにそう言った。


「有効です。会員数も着実に増えてますし」

「増えてる、んですか……」


 すずなが遠い目をした。


「そもそもファンクラブって。誰が入ってるんですか」


 心春が恐る恐る尋ねた。


「最初はクラリスちゃんとか、貴族のご令嬢たちだけだったんですけど」


 紬が指折り数えるように続けた。


「今はギルドの受付嬢さんとか、女性冒険者の人たちとか。街中のお店の女性店員さんとかも結構」

「そんなに広がってるんですか」

「はい。今、五十人以上になってます」

「五十人……」


 すずなが絶句したように呟いた。


「なんで紬さんは人数まで把握してるんですか」


 すずなが訝しむようにそう尋ねた。


「いや、えっと。その……」


 紬が珍しく言葉に詰まった。


「定期的な会合があるんです」

「会合?」

「はい。近況報告とか、その、色々」


 紬は、視線を微妙に逸らしながらそう答えた。


「紬さんも参加してるんですか?」


 心春がそう聞いた。


「参加、というか。副会長みたいな立ち位置で」

「副会長」


 すずなが頭を抱えるようにそう繰り返した。


「だって放っておいたら、皆さん暴走しそうで。ちゃんと監督する人、必要じゃないですか」


 紬が早口でそう弁解した。


「監督って言うより、それもう完全に運営側では……」


 すずなの声は次第に小さくなっていった。


 そんな話をしていると、玄関の方から勢いよく足音が聞こえてきた。


「お姉様ぁー!」


 扉が開くと同時に、クラリスが飛び込んできた。すずなに向かって勢いよく抱きつく。


「クラリスさん、いらっしゃい」


 すずなは慣れた様子でそれを受け止めた。


「お会いしたかったです、お姉様!」


 クラリスはそう言いながらすずなに頬を寄せていた。それから、ふと部屋の奥に座る心春に気づいた。


「あら、どなたですか」

「あ、あの、初めまして」


 心春は、慌てて頭を下げた。


「こちら、中村心春さんです」


 紬がそう紹介した。


「心春さんは、洗脳されてないので大丈夫ですよ」

「洗脳って」


 心春は苦笑いした。


「一応、一度はされましたけど」

「え」


 クラリスが、きょとんとした顔で心春を見た。


「今は、正気に戻ってますから」


 紬がそう補足した。


「そう、なんですね。それはよかったです」


 クラリスは特に深く追及することもなく、あっさりと納得したようだった。


「初めまして、クラリス・エルデグリーンです。お姉様のファンクラブ、会長をしております」


 クラリスはそう名乗りながら、心春に丁寧にお辞儀をした。


「あ、初めまして。心春です」


 心春はそのあまりの堂々とした自己紹介に、少し圧倒されながらも挨拶を返した。


「よろしければ、心春さんもファンクラブに入られませんか」


 クラリスが、にこやかにそう誘った。


「え、私もですか?」

「はい。会員は、いつでも大歓迎です」

「心春さんは先輩と同郷の方なので。お誘いするのも、ありかもしれませんね」


 紬がそう補足した。


「いや、私、洗脳解けたばかりなんですけど」


 心春がそう突っ込んだ。


「大丈夫です。ファンクラブは洗脳とは関係なく運営しておりますので」


 クラリスが真面目な顔でそう答えた。


「関係ないんですか」

「純粋に、お姉様の魅力を称える会です」

「それは、それでちょっと怖いです……」


 心春の表情が引きつった。


「私も最初はそう思ってました」


 紬が深く頷きながらそう言った。


「紬さんは副会長なのに、そう思ってるんですか」

「立場と本音は別なので」


 紬は悪びれる様子もなく、そう言い切った。


 すずなはその一連のやり取りを、複雑な表情で眺めていた。


「あの、私も一応この場にいるんですけど」

「お姉様は、黙って微笑んでいてください。それが一番、皆さんの活力になりますので」


 クラリスがきっぱりとそう言った。


「そういうものなんですか」


 すずなは諦めたようにそう呟き、大人しく口をつぐんだ。


「では、心春さんはどうされますか」


 クラリスが、あらためてそう尋ねた。


「うーん……」


 心春は考え込んだ。


「私、お二人にはたくさん助けてもらったので。私も加入させてください」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 クラリスが目を輝かせた。


「歓迎します心春さん」

「よろしくお願いします」

「新入会員、五十三人目ですね」


 紬が、すかさずそう記録するように言った。


「ちゃんと数えてるあたり本当に副会長ですよね、それ」


 心春が笑いながらそう言った。


「お姉様これで会員がまた増えましたね」


 クラリスが嬉しそうにすずなの方を見た。


「増えても、あんまり嬉しくはないです……」


 すずなは力なくそう呟いた。


「お姉様の魅力が広まっている証拠です。誇ってください」

「誇れる気が、あんまりしないんですけど」


 すずなの小さな抗議は、誰にも拾われることなく、その場の空気に溶けていった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


すずなたちの物語を、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。皆さんに読んでいただけることが、この物語を書き続ける力になっています。

もしよろしければ、ブックマークや評価もいただけると嬉しいです。

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