第78話 二十九歳と二十三歳
紬が主張し続ける、すずなの裏加護も無事に解けた心春は改めて三人で空き家巡りを再開する。
「今度こそ変なこと言わないので安心してください」
「はい。期待してます」
紬が笑って答えた。結局、心春が選んだのは最初に案内された家だった。
「ここに決めました」
心春がそう言うと、紬はぱっと顔を輝かせた。
「日当たりのいいところですね」
「はい。すずなさんたちの家からも、そんなに遠くないですし」
小さいけれど静かで居心地の良さそうな家で、庭には小さな花壇のスペースもあり、心春はそこに何を植えようか早くも考えを巡らせていた。
「お引っ越し、いつ頃にします?」
すずなが尋ねる。
「荷物自体は、そんなに多くないので。来週にはもう」
「早いですね」
「身軽なもので」
心春は自嘲気味に笑った。二年間、いつでも動けるように荷物を増やさないようにしてきた癖が、まだ抜けていなかった。
新居も決まり、転居に伴う拠点の変更とランク登録の更新のため、心春はすずなと紬に連れられてギルドへ向かう。
「せっかくなので、ステータスもちゃんと確認してみましょうか」
紬がそう提案すると、心春はそう言えばちゃんと見たことがなかったと呟きながら、ギルドの水晶に手をかざした。淡い光とともに文字が浮かび上がっていく。
**中村心春 レベル23**
体力:B
腕力:C
魔力:C+
俊敏:A-
器用:A+
加護
- Silent Step
- Flash Step
「サイレント、ステップ?」
すずなが聞き慣れない名前に首を傾げた。
「気配と足音を断つ加護みたいです。私、元々こっそり動くのは得意だったので」
「なるほど。それで遺跡の中でも、うまく隠れられてたんですね」
「はい。もう一つのFlash Stepは、瞬間的に距離を詰めたり離れたりできる加護です」
「二つとも、スカウトらしい加護ですね」
紬が感心した様子で言うと、心春は一人で活動するにはちょうどよかったのだと、誇らしげな表情を覗かせた。
手続きを終えたところで、受付嬢がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、心春さんのお誕生日まだ登録がお済みでないようですね」
「あ、そういえば」
「よろしければ、ここで登録できますよ」
心春が生年月日を伝えると、受付嬢がそれを水晶に打ち込んでいく。
「登録完了しました。ええと」
受付嬢が画面に表示された年齢を見て、目を丸くした。
「心春さん二十九歳でいらっしゃるんですね」
「えっ?」
紬が素っ頓狂な声を上げた。
「二十九歳?」
「はい、そうですけど」
心春は、きょとんとした顔で頷いた。
「て、てっきり私たちと同い年か年下だとばかり」
すずなも驚いたように目を見開いていた。
「よく言われます。童顔なので」
心春が照れくさそうに頬をかくと、紬はまだ信じられないという顔で呟いた。
「じゃあ、先輩なんてもんじゃなかったんですね。私たちより、六つも七つも上だったなんて」
「今更、敬語とか使わなくていいですよ。同じ日本人ですし」
「いや、確かにそれはちょっと。今更難しいです」
すずなが慌てたように首を振った。
「私も心春さんって呼び方、変えられないと思います」
「私もそう呼ばれる方が慣れてしまいました。無理しないでください」
心春が小さく笑うと、年齢を明かしたところでこれまでの関係が変わるわけではないのに、なんとなく空気が和らいだ気がした。
「そういえば、お腹すきましたね」
紬がお腹を軽く押さえながら言うと、すずなも時計を確認して、もうこんな時間だったのかと呟いた。
「良い店があるんです。心春さんの歓迎会も兼ねて行きませんか?」
「歓迎会だなんて、そんな」
心春が戸惑ったように手を振ると、紬とすずなが口々になだめた。
「いいじゃないですか。これから同じ街に住むご近所さんなんですし」
「紬さんの言う通りです。せっかくですから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
心春が小さく頷き、三人は連れ立ってギルドを後にした。夕暮れの街並みを歩きながら、紬が楽しそうに店の話をしている。
「そこ、お肉料理が美味しいんですよ。エルフィさんも気に入ってて」
「エルフィさんの好みは信頼できそうですね」
心春が思わず笑った。
「先輩、今日は何食べます?」
「紬さんのおすすめでいいです」
「じゃあ、決まりですね」
三人の足取りはどこか軽やかで、新しい街での新しい日常が少しずつ形になり始めていた。
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