第71話 もう一人の異世界人
南の街のギルドで依頼完了の手続きを済ませると、すずなと紬は加護を使い一旦、自宅へと戻った。
「先輩、まずはエルフィさんに報告しましょうか」
「はい」
その足で二人はエルフィの家へと向かった。
「エルフィさん、報告があります」
すずながそう切り出すと、エルフィは鞄から残り少なくなったお菓子の包みを取り出し、頬張りながら視線だけをこちらに向けた。
「何」
「Withering Rose、達成しました」
「そうか」
エルフィは少し間を置いてから続けた。視線がすずなの全身を、値踏みするようにゆっくりと辿る。
「怪我は」
「え……あ、大丈夫です。もう治りました」
「無事だったか」
その一言だけ、いつもより一拍長く間があった。
「はい。おかげさまで」
すずなはそう答えながら、これまでの経緯を簡単に説明した。遺跡での救出劇、花びらが少しずつ散っていった緊張の時間。そして無事に心春を救い出せたこと。話すうちに、エルフィのお菓子を食べる手が止まっていることに気づいた。
「あと、新しい加護も獲得しました」
すずなはそう言いながらTwin BloomとRose Wardについて説明した。
「Twin Bloomは紬さんと二人揃った時だけ発動する一時的な超強化みたいです。Rose Wardは状態異常や呪いを防ぐ力で」
「私にも、Twin Bloomと、Echo Sightっていうのが増えました」
紬も得意げにそう付け加えた。
「先輩と二人揃った時だけ使える力があるなんて、なんか特別な感じがします」
紬はそう言いながら少し胸を張った。
「どうですか! 私、すごくないですか? 超進化です!」
「別に特別でもない」
エルフィがそっけなくそう返した。
「私は全属性使えるマスターランクだからな」
「なんなんですかー!」
紬が思わず声を上げた。
「せっかくいい感じに話してたのに」
「事実を言っただけだ」
エルフィはそう言いながら、また視線をお菓子に戻した。それでも、その口の端がほんのわずかに緩んでいるのを、すずなは見逃さなかった。
「だが、よくやった」
その一言は短かったが、いつもより少し柔らかい響きを持っていた。すずなはその声色に、確かな安堵の色を感じ取った。
「あのお菓子、そろそろなくなりそうですね」
すずながその包みを見ながらそう言うと、エルフィは少し名残惜しそうな表情を見せた。
「温泉、また行くか」
「はい、その時、また沢山補充しましょうね」
「あぁ」
そう答えたエルフィの視線が、ふと、すずなの手の甲へと向いた。もう痛々しい様子は残っていない。それを確かめるようなその一瞥に、すずなは何も言わずただ小さく頷いた。
その後、三人は加護を使い南の街へと戻った。ギルドに着くと受付にいた職員たちが、エルフィの姿を見て一斉に驚いた表情を見せた。
「エルフィ様……!?」
「本物ですよね……」
ざわめきが広がっていく。マスターランクという、その存在自体がこの街でも珍しいものらしい。
「……騒がしい」
エルフィはそっけなくそう呟いた。
「先輩、ギルド中大騒ぎですね」
紬が少し面白そうにそう言った。
すずなたちはその視線をかき分けるように、ギルド内の食堂へと向かった。心春はすでにそこで待っていた。
「あ、すずなさん、紬さん」
心春がこちらに気づいて席を立った。それから隣に立つエルフィの姿を見て少し目を丸くした。
「こちら、エルフィさんです」
「私達の師匠です」
すずなと紬がそう紹介すると、心春は丁寧に頭を下げた。
「初めまして。中村心春です」
「お前の父親には世話になった」
エルフィのその一言に、心春は驚いた様子で顔を上げた。
「え? もしかして父をご存知なんですか」
「ああ。長い付き合いだ」
その言葉に心春はしばらく言葉を失っていた。
「そんな……父がそんな繋がりを持ってたなんて」
「詳しい話は、また今度しましょうか」
すずながそう提案すると、心春は大きく頷いた。
「はい、是非!」
四人はそれぞれの繋がりを確認しながら、これからのことを少しずつ話し始めていた。




