第70話 新しい加護
限界寸前の体を引きずりながら、すずなと紬は心春のもとを訪れる。日本から来たことを告げ、心春の父・中村さんに会ったことを伝えると、心春は涙を流す。「無理に帰ってこなくていい、いつでも待ってる」という父の言葉に、心春は声を殺して泣いた。
すずなは「いつでも手伝える」と行き来の手段があることを伝え、心春に希望を残す。その直後、頭の中にWithering Rose達成と新加護獲得の知らせが響くが、すずなも紬も、それを噛みしめる余力すら残っていないほど疲弊しきっていた。すずなは意識が遠のくのを感じながら、長く濃密な一日の幕を閉じる。
目を開けると、見慣れない天井があった。
薄い布地の天幕越しに、朝の光がぼんやりと差し込んでいる。体を起こそうとして、体中の筋肉がひどく重いことに気づいた。
「先輩!大丈夫ですか?」
すぐ隣から紬の声がした。振り返ると、簡易ベッドの脇に座り込んだ紬が、心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。目の下には隠しきれない疲労の色が残っている。
「……ここは」
「救護キャンプです。あのまま先輩、気を失っちゃって。私も、少ししてから同じように」
紬はそう言いながら、少し照れくさそうに笑った。
「丸一日近く、眠ってたみたいですよ」
「そんなに……」
すずなはゆっくりと体を起こした。関節の一つ一つが軋むように痛む。それでも、頭の中の霞は少しずつ晴れていくようだった。
「体、大丈夫ですか」
「はい、なんとか。紬さんは」
「私も平気です。ちょっと足腰、まだ本調子じゃないですけど」
紬はそう言いながら、すずなの手をそっと握った。
「本当に、心配しました。あのまま目を覚まさなかったらって」
その声には、いつもの軽やかさとは違う、切実な響きがあった。
「ごめんなさい、心配かけて」
「謝らなくていいです。先輩が無理してくれたおかげで、心春さんも助かったので」
すずなはその言葉に静かに頷いた。まだ体は鉛のように重かったが、それでも、確かにやり遂げたという実感が胸の奥にじんわりと広がっていく。
その日は救護キャンプでさらに静養し、翌日全員でギルドに戻った。ダインたちも心春もそれぞれ依頼完了の報告を済ませることになった。
「本当にお世話になりました」
心春があらためて深く頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。無事で良かったです」
すずなが答えると、心春は少しはにかんだように笑った。
「またゆっくりお話しさせてください。行き来する手段のことも」
「はい、ぜひ」
依頼完了の手続きのため、すずなたちは受付カウンターへと向かった。
「確認しました」
受付嬢は書類に目を通しながら、すずなの両手をしっかりと包み込んだ。
「あの時は緊急時だったため気が付きませんでしたが……あの有名な、すずな様だったんですね」
「え、あ、はい……」
「今回の救出、流石です! 心春さんを無事に救い出されるなんて」
受付嬢はそう言いながら興奮気味にすずなの手をさらに強く握った。
「出た! 裏加護!」
紬が、すかさずそう叫んだ。
「まだ言ってるんですか、それ」
「言いますよ、絶対何かあります」
紬はいつものように受付嬢の手から、すずなの手を取り返した。
「先輩、ギルドにいるので加護の詳細とか確認しましょうか」
「あ、はい。そうですね」
切り替え早いな、とすずなは思った。
一連の手続きが終わると、すずなと紬はステータス確認用の水晶の魔道具の前に移動した。すずなが水晶に手をかざすと、光る文字が浮かび上がった。
**楠すずな レベル28**
体力:B-
腕力:C+
魔力:A-
俊敏:B
器用:A
加護
Fable Unbound
- Moon Return
- Seafoam Fate
- Siren's Grace
- Form Veil
- Withering Rose
- Twin Bloom
- Rose Ward
「レベルまた上がってます」
すずなはその数字をじっと見つめた。魔力がAマイナスまで伸びている。
「Twin Bloomと、Rose Ward……新しい力、どんな効果なんでしょう」
紬も興味深そうに画面を覗き込んだ。続けて自分のステータスを表示させる。
**雨宮紬 レベル28**
体力:B-
腕力:A+
魔力:C
俊敏:A
器用:B+
加護
LunarSight
Echo Sight
Withering Rose
- Twin Bloom
「あ、私も上がってます!」
紬が自分の数値を見ながら嬉しそうに声を上げた。
「腕力、Aプラスまで来ました」
「本当ですね。俊敏もAになってます」
「私にもWithering Roseの下にTwin Bloomって出てます」
「本当ですね。紬さんにも」
すずなはその表示に少し感慨深いものを感じた。二人の手の甲に揃って薔薇の紋章が浮かんだのは偶然ではなかったらしい。
「あと、Echo Sightっていうのも増えてます」
紬が自分の項目をじっと見つめながらそう言った。
「これ多分、遺跡で見えたあの光の足跡と関係ある力ですよね」
「そうだと思います。あの時、無意識に使ってましたし」
二人はそれぞれの新しい力に、改めて驚きと期待を感じていた。
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