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【完結保証】おとぎ話の試練を全部クリアしたら無自覚最強の美女になっていました。~明日仕事なのに、独占欲の強い後輩女子に帰れない異世界へ連れて行かれました~  作者: ごまだんご
第六章 もう一人の異世界人

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第62話 黄色い石碑

 遺跡の中は、しばらく一本道の下りの階段が続いていた。松明の明かりだけが頼りの薄暗い空間を、一行は慎重に進んでいく。空気は湿り気を帯び、時折どこかから低い地鳴りのような音が響いてきた。


「先輩、Lunar(ルナー) Sight(サイト)使いますね」


 紬がそう言って目をわずかに細めた。暗闇の中でも輪郭がはっきりと見え始める。


「私も使います」


 すずなはそう言いながらForm(フォーム) Veil(ヴェール)を周囲の面々にも展開させた。淡い膜がそれぞれの体を薄く覆う。


「おお……」


 ダインが小さく声を漏らし、自分の体を包む膜を確かめるように見下ろした。強張っていた表情がわずかに緩む。


「防御用の加護です。少しでも皆さんの助けになれば」

「助かる」


 一行はその恩恵を受けながら階段を下り続けた。足音以外の音がしないことが、かえって不気味だった。


 降りきった先、道は二手に分岐していた。


「もう予定の時刻を大幅に過ぎてる」


 ダインが険しい表情でそう言った。拳が無意識に握りしめられている。


「トラップに巻き込まれてるなら時間がない」

「二手に分かれましょう」


 すずなが提案した。


「私と紬さんで片方を。皆さんはもう片方をお願いします」

「分かった。何かあれば、すぐに連絡を」


 そこですずなはふと思い立った。


「あの、念のため。皆さんの武器に水属性を付与してもよろしいですか」

「水属性を付与……?」


 ダインが片眉を上げた。意図を測りかねているのが表情に出ていた。


「魔物や魔獣の種類によっては効果が薄い場合もありますが、通常の攻撃力はそのまま発揮できます。逆に水属性が弱点の相手なら、かなり効果があると思います」


 ダインはその説明に目を見開いた。


「それはありがてぇ。頼む」

「はい、少々お待ちください」


 すずなはSiren(サイレンズ)'s Grace(グレイス)を発動させ、フォレストガードのそれぞれの武器に淡い水色の光をまとわせていった。剣、槍、斧、次々とその刃が輝きを帯びていく。


「これは……力みなぎる感じがするな」


 メンバーの一人が武器を握り直しながら、感触を確かめるようにそう呟いた。


「本当に助かる。恩に着る」


 ダインが深く頭を下げた。


「お気をつけて」


 すずなも丁寧に頭を下げ返した。生きて再び会えることを祈るような、いつもより長い一礼だった。


 一行はそこで二手に分かれた。ダインたちの松明の光が奥の暗闇に吸い込まれ、やがて完全に見えなくなった。


 すずなと紬が進んだ先には、光る石碑があった。異世界と行き来している石碑によく似ている。ただ、この石碑は鈍い黄色い光を放っていた。まるで内側で何かが今にも弾けようとしているかのような、不穏な明滅だった。


「先輩、なんか色が警告してるみたいで怖いです」


 紬が石碑を見つめながらそう言った。声にわずかな震えが混じる。


「何か既に発動してるのか、転移させられるのか……でも、進むしかありません」


 すずなもその不吉な輝きに緊張を隠せなかった。喉の奥がひどく渇いている。


「いざとなれば、Moon(ムーン) Return(リターン)で退避しましょう。別々の場所に飛ばないよう、しっかり手を握っててください」

「はい」


 紬がすずなの手をぎゅっと握った。指先が微かに冷たい。


 すずなは意を決して石碑に触れた。


 その瞬間、黄色い光が視界いっぱいに広がった。呼吸すら奪われるような一瞬の浮遊感の後、光が収まり、二人は小さな部屋の中に立っていた。すずなの頭の中にだけ、直接何かが流れ込んでくる。


 **Withering(ウィザリング) Rose(ローズ)の試練が開始されます**


 **試練を六時間以内に達成せよ**

 **達成条件:時間内での解放**

 **未達成時:全ての力の消失**


「先輩……? どうしたんですか、急に黙り込んで」


 紬が不安げにそう声をかけた。すずなの表情がにわかに強張ったことに気づいたようだった。


「今、頭の中に声みたいなものが聞こえて……試練が始まったみたいです」

「試練……? 私には何も聞こえませんでした」


 紬が眉を寄せてそう言った。すずなは一つ頷き、聞こえた内容を思い出しながら言葉にしていく。


「Withering Rose、って名前の試練だそうです。六時間以内に何かを解放しないといけないって。それと」


 すずなはそこで一度言葉を切った。伝えるべきかどうか、一瞬の迷いがよぎる。それでも紬に隠しておくわけにはいかなかった。


「達成できなかった場合……全ての力を失う、と」

「力の消失って……」


 紬が震える声でそう呟いた。


「まさか加護とか、そういうもの全部」

「分かりません。でも、そう読めました」


 すずなはその言葉の重みを、もう一度自分の中で噛みしめた。これまでの試練とはまた違う種類の代償が、そこに示されていた。心臓が嫌な速さで脈打っている。


「そもそも、何を解放するんでしょう」


 紬が首を傾げながらそう尋ねた。


「分かりません」


 すずなもその言葉の意味を、まだ掴みきれずにいた。


「先輩、絶対六時間以内に終わらせましょう」


 紬が強い口調でそう言った。


「はい。心春さんを助けることも含めて」


 すずなはその言葉に静かに頷いた。二つの目的が今、はっきりと一つの時間制限の中に重なっていた。刻限という言葉の重みが、じわりと肩にのしかかってくる。


「ん? これって……」


 紬が自分の手の甲を見て声を上げた。光る薔薇の紋章が浮かび上がっていた。すずなの手の甲にも同じ紋様が刻まれている。


「何だかすごく体が軽いです」

「私もです」


 二人はその変化に驚きながらも顔を見合わせた。歓迎すべき力なのか、それとも何かの前触れなのか、判断がつかない。


「この光る薔薇、なんでしょう」

「なんでしょうね」


 答えの出ないまま二人は小部屋の唯一の出口へと足を向けた。扉の先には、これまで見たどの通路とも違う広大な迷宮が広がっていた。奥から吹き込む風には、微かに花の腐ったような甘い匂いが混じっていた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


すずなたちの物語を、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。皆さんに読んでいただけることが、この物語を書き続ける力になっています。

もしよろしければ、ブックマークや評価もいただけると嬉しいです。

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