第61話 救援要請
ギルド内が慌ただしく動き始めた。受付嬢が掲示板に緊急の依頼書を叩きつけるように貼り出す。
「緊急救援依頼です! ペンタゴンランク以上のパーティー、対応可能な方は至急お申し出ください!」
その声に、談笑の余韻すら消え失せたギルド内で冒険者たちが次々と反応した。椅子を蹴倒す音、鎧の擦れる音があちこちで重なる。
「うちが行こう。フォレストガード参加する」
一組のパーティーがすぐに名乗りを上げた。
「他にいませんか」
受付嬢の切迫した声が響く。その声には焦りを隠しきれない震えが混じっていた。
すずなはその様子を見て迷わず動いた。
「紬さん、行きましょう」
「はい」
二人はすぐに受付へと駆け寄った。呼吸を整える間すら惜しかった。
「私たちも行きます」
すずなが申し出ると、受付嬢は少し戸惑った様子を見せた。
「あの……お二人のようなお若いパーティーには少し」
その言葉にすずなははっとした。急いでいたため自分たちのランクバッジを見せていなかったことに気づく。
「あ、こちら確認してください」
すずなは胸元のバッジを示した。ヘキサゴンの六角形がそこにあった。
受付嬢はそのバッジを見て目を見開いた。
「これは……失礼いたしました。ヘキサゴンランクのお二方でしたか」
「はい、対応できます」
「では、こちらの救援チームに加わっていただきます」
すずなと紬はフォレストガードのメンバーと共に遺跡へ向けて出発することになった。
「よろしく頼む。俺はフォレストガードのリーダー、ダインだ」
がっしりとした体格の男がそう名乗った。落ち着いた口調とは裏腹に、地図を握る指先には力がこもっていた。他の四人のメンバーもそれぞれ簡潔に自己紹介を済ませた。誰一人、無駄な言葉を発する余裕がないようだった。
「すずなです」
「紬です」
「ヘキサゴンランクの若手が加わってくれるとは心強い」
ダインはそう言いながら、すでに険しい表情で遺跡までの道のりを確認していた。
「遺跡までは、どれくらいですか」
すずなが尋ねると、ダインは地図を広げながら舌打ちに近い息を吐いた。
「馬で半日ほどだ。急ごう。二日も音信不通なんて尋常じゃない」
一行はすぐに馬を用意し遺跡へと向かった。道中会話はほとんどなく、誰もが唇を固く結び前だけを見つめている。時折誰かが手綱を握り直す音だけが、沈黙の中に小さく響いていた。
「先輩」
紬が小さな声でそう呼びかけた。
「はい」
「心春さん、無事だといいですね」
その表情はいつもの明るさが影を潜め、わずかに強張っていた。
「はい。絶対に助けます」
すずなの声には、迷いを塗り潰すだけの確かな決意がこもっていた。
半日後、一行は遺跡の入り口に到着した。古びた石造りの遺跡が、周囲の木々に埋もれるように佇んでいる。差し込む夕陽が、崩れかけた石壁に長い影を落としていた。あたりには不自然なほどの静けさが広がっている。
「ここから先は慎重に進むぞ」
ダインの指示に全員が頷いた。誰も口を開かなかったが、その沈黙こそが緊張の証だった。
すずなは剣の柄にそっと手をかけた。これから何が待ち受けているのか、まだ分からない。それでも心春を必ず救い出すという強い意志だけは揺るがなかった。
一行は遺跡の暗い入り口へと、息を潜めて足を踏み入れていった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
すずなたちの物語を、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。皆さんに読んでいただけることが、この物語を書き続ける力になっています。
もしよろしければ、ブックマークや評価もいただけると嬉しいです。




