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第51話 報告

 翌日、すずなたちは加護を使用して日本へと立ち寄った。行きつけの洋菓子店の前に立つと、ガラス越しに並んだ焼き菓子の数々が艶やかに輝いている。いつもの店員が笑顔で出迎えてくれるのも、すっかり見慣れた光景になっていた。


 買い物を済ませると、すぐにそのままエルフィの家へと転移した。手にした紙袋からは、まだ焼きたての甘い香りがふわりと漂っている。


「エルフィさん、お土産です」


 すずながお菓子の包みを差し出すと、エルフィは目を細めてそれを受け取った。包みの中身を確かめる仕草には、いつになく機嫌の良さが滲んでいる。


「ああ、ありがとう」

「あと、報告があります」


 すずなはそう切り出しながら、頭の中に浮かんだ表示をそのまま伝えた。この感覚にもすっかり慣れたもので、迷いのない口調だった。


Seafoam(シーフォーム) Fate(フェイト)、クリアしました」

「ほう」


 エルフィは少し目を細めた。


「試練の内容は」

「真実の想いを届けられなければ消滅する、というものでした。制限時間八時間で」

「厳しい試練だったな」


 エルフィはそう言いながら、早速お菓子を一つ口に運んだ。咀嚼する間も、視線だけはすずなの方に向けられている。


「加護は二つ得られました。Siren(サイレンズ)'s Grace(グレイス)と、Form Veil(フォーム ヴェール)です」

「見せてみろ」


 すずなは庭に出てSiren's Graceを、剣に発動させた。刃が淡い水色の光を帯び、水の粒子が周囲に舞う。朝の空気の中、その粒子が陽光を受けて小さく煌めいた。


「これは対象者の武器に、水属性を付与できるみたいです」

「なるほど。次はForm Veilを」


 すずなは意識を集中させた。目の前に薄い泡のような膜が盾のように展開される。表面が虹色に揺らめきながら、そこにあるだけで確かな存在感を放っていた。


「これは任意の対象に、防御の膜を張れるようです」


 エルフィはしばらく無言で、その様子を観察していた。値踏みするような視線、膜の輪郭を丁寧になぞっていく。


「悪くない。特にForm Veilは、汎用性が高い」

「そうなんですね」


 すずなはその評価に、ほっと胸を撫で下ろした。


「エルフィさん、あの」


 すずなが少しためらいがちに切り出した。


「魔法の方もう少し鍛えたいんですけど。何か良い方法ありますか」


 エルフィはお菓子をつまみながら、少し考える素振りを見せた。しばらく庭の景色に視線を漂わせた後、ゆっくりと口を開く。


「お前は支援・防御系に向いてる。攻撃より、そちらを伸ばした方がいい」

「支援・防御、ですか」

「ああ。魔力の伸びも、それを示している」


 エルフィは、そう言うと自分の懐から小さな包みを取り出した。だが開いてみると、中から出てきたのは明らかに懐には収まらないはずの大きなローブだった。ゆったりとした裾が庭の地面近くまで垂れ下がる。


「え?どっから、こんな大きいもの……」


 紬が驚いた様子で、そう呟いた。目の前で起きた矛盾めいた光景に、しばらく瞬きを繰り返している。


「このローブ、収納の魔法がかかってる」


 エルフィがそっけなく説明した。


「収納魔法って、そんなことまでできるんですね」

「マスターランクなら、大体何でもできる」


 すずなと紬は、その一言に、また揃って言葉を失った。何度聞いても慣れることのない規格外さに、二人は顔を見合わせるしかなかった。


「これをやる」


 エルフィは、そのローブをすずなに差し出した。深い緑色の生地に、細やかな刺繍が施されている。一目見ただけでも、只者ではない品だと分かる出来栄えだった。


「え」


 すずなは驚いた様子で、そのローブを受け取った。ずっしりとした重みの奥に、確かな魔力の気配が感じられる。


「これは……」

「魔力を増幅させる効果がある。私が若い頃、使っていたものだ」

「そんな大事なもの」

「もう使わない。お前が使え」


 エルフィの声には、いつもと変わらぬそっけなさがあった。だがその奥に確かな信頼が滲んでいるのをすずなは感じ取っていた。


 すずなは、そのローブを大切そうに両手で抱えた。生地の重みがそのまま託された想いの重さのように思えた。


「ありがとうございます」


 その様子を隣で見ていた紬が少し身を乗り出した。物欲しげな視線が、エルフィの手元へと向けられている。


「私には?私には何かないんですか?」


 エルフィは紬の方を、ちらりと見た。表情はいつも通り変わらない。


「お前は魔法使いじゃない」

「それだけですか!?」


 紬が思わず声を上げた。庭の静けさに、その声だけが響き渡る。


「なんなんですかー!」


 すずなはその様子に思わず笑ってしまった。手の中にあるローブの温もりと、隣で騒ぐ紬のいつもの調子が重なって、温かい気持ちになった。朝の庭にはそんな三人分の穏やかな時間が流れていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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