第47話 王都への道
ある日、クラリスがまた新しい依頼を持って二人のもとを訪れた。
「お姉様、紬様。今度は少しお時間が長めの護衛のお仕事なんですけれど」
「長めですか?」
「はい。王都のとある伯爵家がご自分の領地までお戻りになるとのことで。護衛を探しておられますの」
クラリスは依頼書を広げながら説明を続けた。
「まず、今の街から王都まで二日ほど。王都から領地までは、さらに一週間ほどかかりますわ」
「結構な長旅ですね」
紬が少し驚いた様子で言った。
「その分、報酬も通常よりかなり高めに設定されておりますの」
「王都、行ったことないですね」
「私も初めてです」
すずなも、その依頼書に目を通した。長旅にはなるが、報酬も経験としても悪くない話に思えた。
「受けてみましょうか」
「はい」
二人はその依頼を正式に引き受けることにした。
出発の日、二人はまず王都を目指して街道を歩き始めた。今の街から王都までは二日ほどの道のりだった。一日目の夕方、二人は道中の宿場町に宿を取ることになった。
「先輩、私が部屋、取ってきますね」
紬がそう言って、先に宿の受付へと向かった。すずなは最近ではすっかり油断していた。二台のベッドを確保することが、もう当たり前になっていたからだ。
「はい、お願いします」
しばらくして紬が鍵を持って戻ってきた。妙に上機嫌な足取りだった。
「取れました。行きましょうか」
案内された部屋の扉をすずなが開ける。そこには大きめのベッドが一台だけ、どんと置かれていた。
「……あれ?」
すずなは部屋の中を一周見回した。もう一台のベッドは、どこにもなかった。
「あれぇ、おかしいなぁ?」
紬がわざとらしく首を傾げた。
「なんでベッドが一台しか無いんですかねぇ」
「紬さん、その言い方」
「不思議です、本当に」
紬はまったく不思議そうではない顔で、そう言いながらニヤニヤと笑っていた。
「仕方ないなぁ」
「仕方ないなぁ、じゃないです」
すずなが、ため息交じりにそう返すと、紬は悪びれることなく肩をすくめた。
「まあ、こういうこともありますよね」
「絶対、狙いましたよね」
「気のせいです」
「毎回その台詞ですね」
すずなは、もうそれ以上追及する気力を失っていた。
「ベッドの数を確認しなくなってから、もう何ヶ月も経ってたので」
「油断してましたね、先輩」
「そう、みたいです」
一応、空きが無いか確認のため宿のカウンターまで戻ってみることにした。だがカウンターの前には複数のパーティーが部屋の交渉をしている最中でカウンターは人だかりが出来ていた。
しばらく待った後、やっと空いたカウンターに声をかける。
「すみません、二台ベッドの部屋まだ空いてますか」
すずなが、そう尋ねると宿の主人が申し訳なさそうに首を振った。
「あいにく今日は満室に近くてね。二台の部屋は、もう埋まってしまったよ」
「そう、なんですね……」
すずなは少し肩を落としながら部屋へと戻った。
翌朝、すずなはいつものように息苦しさで目を覚ました。腕が、しっかりとすずなの体に回っている。
「……また、ですか」
すずなは小さく呟いた。もはや驚く気力すら湧いてこなかった。
「紬さん」
「……ん、おはようございます」
「一台のベッドを狙って、朝にはこうなるの分かってましたよね」
「気のせいです」
すずなは、その台詞に思わず笑ってしまった。
翌日、二人は再び街道を進み、その日の夕方には王都へと到着した。
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