第46話 新しい会員
誕生日会から数日後、クラリスから新しい依頼の紹介があった。
「お姉様、紬様。ぜひお受けいただきたい依頼がございますの」
「依頼ですか」
「はい。知り合いの子爵家から移動の際の護衛のご相談をいただいておりまして」
クラリスは依頼書を差し出しながら説明を続けた。
「奥様とお嬢様が別の街まで移動されるとのことで。すずな様たちでしたら安心してお任せできると、お伝えしておきましたの」
「私たちでいいんですか」
すずながそう尋ねると、クラリスは自信満々に頷いた。
「もちろんです。お姉様の実力は、わたくしが誰よりも存じておりますもの」
すずなと紬は顔を見合わせ、その依頼を受けることにした。
出発の日、子爵家の屋敷を訪れると奥様と幼いお嬢様が玄関で出迎えてくれた。奥様は二十四、五歳ほどに見える上品な女性だった。
「お噂は、かねがね。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
すずなが丁寧に頭を下げると、奥様の隣にいた幼い少女が、少し緊張した様子でこちらを見上げていた。
「ミレイユ、ご挨拶を」
奥様が優しく促すと、少女は少しはにかみながら口を開いた。
「……ミレイユです」
「ミレイユ様、よろしくお願いします」
すずなはそう言って、目線を合わせるように少し屈んだ。ミレイユは赤面し、そのままじっとすずなの顔を見つめていた。
道中、馬車の外をすずなと紬が交代で警戒しながら進んだ。休憩のたびにミレイユは少しずつ、すずなに近づいてくるようになった。
「あの……」
「はい、なんでしょう」
「剣、かっこいいです」
「ありがとうございます」
すずなが優しく微笑むと、ミレイユの表情がぱっと明るくなった。それから道中ずっと、すずなが馬車内にいる時は手を離さなくなった。
「先輩、すっかり懐かれてますね」
紬が少し苦笑しながら、そう言った。
「小さな子には慣れてないので。ちょっと緊張します」
奥様も、その様子を微笑ましそうに見つめていた。
「娘があんなに懐くのは珍しいんです。すずな様には何か特別なものが、おありなんでしょうね」
「そんな、大したことは」
「ご謙遜を。今日一日で、よく分かりました」
護衛の旅は十日ほどの日程だった。目的地の街に到着すると、すずなたちの仕事はひとまず完了となる。
「本当にお世話になりました」
奥様が深く頭を下げた。
「ミレイユ、すずな様たちに、ちゃんとお礼を言いましょうね」
「すずな様、紬様、ありがとうございました」
ミレイユはそう言いながら、すずなの服の裾をぎゅっと掴んだ。
「もう行っちゃうの……?」
「はい。私たちのお仕事は、ここまでなので」
すずなが、そう言うとミレイユは少し目に涙を溜めた。
「また会えますか」
「はい。きっと」
すずなが優しくその頭を撫でると、ミレイユは少しだけ安心したように微笑んだ。
奥様が、その様子を見ながら静かに口を開いた。
「実は十日後に、また街に戻る予定がございます。もしよろしければ、その際の護衛もお願いできませんでしょうか」
「私たちでよろしければ」
すずなが快く頷くと、奥様は嬉しそうに微笑んだ。
十日後、帰りの護衛も予定通り無事に終わった。ギルドに依頼完了の報告を済ませ外に出ると、クラリスがちょうどそこで待っていた。
「お姉様、紬様、お疲れ様でした」
「クラリス様、来てたんですね」
「はい。奥様とミレイユ様に、色々お話を伺っておりましたの」
クラリスはそう言いながら、少し得意げに続けた。
「実はお二人とも、無事にファンクラブの会員になっていただきましたわ」
「え」
すずなは思わず聞き返した。
「ファンクラブって、なんですか」
「あら、お姉様、ご存知なかったんですの?」
クラリスは少し驚いた様子で紬の方を見た。紬は少し気まずそうに目を逸らした。
「先輩、実は誕生日会の時に、クラリス様と少し、そういう話を」
「そういう話……」
すずなは、その説明にまだ状況が飲み込めていなかった。
「わたくしが会長を務めております。お姉様を応援するための会でございます」
「応援、ですか」
「はい。今は、わたくしと奥様、ミレイユ様の三人が会員です」
「三人も……」
すずなは少し頭を抱えたくなった。それでも悪意のない温かい気持ちから始まったものだと分かっているだけに、強く拒むこともできない。
「先輩、そんなに困らなくても。応援してもらえるって、いいことだと思いますよ」
紬が、そう言いながら少し笑った。
「そう、なんでしょうか」
すずなはまだ釈然としない表情のまま、それでも小さく頷いた。ファンクラブの輪は、すずなの知らないところで少しずつ広がり続けていた。
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