第44話 自由な時間
すずなは今まで住んでいたアパートを引き払った。少しだけ残った荷物は、既に紬の家に置かせてもらっている。異世界に行く際に、駅前のデパ地下の専門店で串焼きを買い込み、再び紬の家から異世界に転移した。
「エルフィさん、これお土産です」
すずなは串焼きの入った包みを差し出した。
「日本の専門店の串焼きです。色んな種類があるので、ぜひ召し上がってください」
エルフィは包みを開けると一本手に取って、口に運んだ。
「……これはこれは。やはり日本の食べ物は、こちらのものとは全然違うな」
「気に入っていただけて良かったです」
エルフィはもう一本手に取りながら、ぽつりと言った。
「次に帰る時は、私も連れていけ」
「え」
「買いたいものが沢山ある」
紬は大学を無事に卒業し、すずなも今は退職して時間の制約がなくなっていた。ギルドでの依頼も、以前より積極的に受けられるようになりランクもさらに上がっていった。
すずなは今、ペンタゴンランクとなり紬と同じランクになっていた。
「先輩、とうとう追いつきましたね」
紬が少し嬉しそうに、そう言った。
「はい。時間ができた分、色んな依頼を受けられるようになったので」
「これからは、もっとペースも上げられそうですね」
「はい」
二人はその後、ステータス確認用の水晶の魔道具の前で、レベルを確認し顔を見合わせて微笑んだ。もう宿の心配も、日本での仕事の都合も気にする必要はない。
「先輩、これからどんな依頼受けていきましょうか」
紬が掲示板を見ながら、そう尋ねた。
「そうですね。せっかく時間もできましたし。少し遠出の依頼にも挑戦してみたいです」
すずなは掲示板に貼られた依頼書を、一枚一枚確認していった。以前は日帰りできる範囲を優先していたが今はその制約もない。
「これとか、どうですか。数日がかりの調査依頼です」
紬が一枚の依頼書を指差した。
「面白そうですね。受けてみましょうか」
すずなはその依頼書を、受付カウンターへと持っていった。
「これ、お願いします」
「はい、確認しました」
受付嬢は書類に目を通しながら、すずなの両手をしっかりと包み込んだ。
「流石すずな様です。あっという間にペンタゴンランクまで昇格され、さらに大変な調査依頼まで、お受けになるなんて」
受付嬢はそのまま紬の方へ、ちらりと勝ち誇ったような視線を向けた。
「先輩、またですか……」
紬がジトリとした目で、すずなの手をすかさず取り返した。
「だから近すぎるんですって!」
「これは確認の一環ですのに」
「その確認、毎回長すぎませんか」
受付嬢は素知らぬ顔で、次の書類を準備していた。すずなはその様子に少し困ったように微笑んだ。
受付の前を離れながら、すずなは改めてこの生活の自由さを噛みしめていた。時間にも場所にも縛られない。それでも紬と一緒にいる、という一番大切なものだけは変わらずに此処にある。
「先輩、次の依頼楽しみですね」
「はい、本当に」
二人は並んでギルドの外へと歩き出した。異世界の空は今日も穏やかに晴れていた。
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