第42話 伸びしろ
すずなはエルフィから、この世界の魔法の属性について教えてもらっている。
「エルフィ様のように、適性があれば全属性が使えるようになるんでしょうか」
「いつも思うが、お前は硬すぎる。私に対して様は要らん」
「いえ、しかし……」
「では、エルフィさんと」
「……まぁ、いい」
エルフィは少し呆れたように、それでも話を続けた。
「もちろん適性があれば、全属性が使えるようになる」
「そうなんですね」
「が……」
エルフィはそこで一度、言葉を切った。
「お前は別だ」
「別というのは?」
「お前の試練であり加護でもある、Fable Unboundを乗り越える度に違う属性が使えるようになる」
「違う属性が、使えるように……」
すずなはその言葉を繰り返した。
「同じ属性の魔法でも加護が多くなれば、今より更に強い別の魔法が使えるようになるだろう」
エルフィはそう続けた。
「つまり五つの試練を全部クリアすれば」
「その分だけ多くの属性を扱えるようになる。今のMoon Returnだけでも時と闇の力を持っている」
すずなは自分の手をじっと見下ろした。あの夜、闇の力を使ったときの感覚が、まだ体のどこかに残っている。
「私、まだこんなに伸びしろがあるんですね」
「そうだ。だから焦る必要はない」
エルフィの言葉には、いつもと変わらないそっけなさがあった。それでも、その奥に確かな期待のようなものが滲んでいるように感じられた。
「先輩、それってつまり」
紬が隣で興味深そうに身を乗り出した。
「あと四つ試練をクリアすれば、先輩どんどん強くなっていくってことですよね」
「そう、なるみたいです」
すずなは少し複雑な表情を浮かべた。
「なんだか、まだ実感が湧きませんけど」
「実感なんて、後からついてくる」
エルフィが串焼きを頬張りながらそう言った。
「お前は、これまでもそうだった。気づいたら強くなっていた」
その言葉にすずなは小さく頷いた。思えば、ここまでの道のりも、いつも後から気づくことばかりだった。無自覚のままランクが上がり、レベルが上がり加護を得てきた。
「じゃあ次の試練は、いつ頃来るんでしょうか」
「それは私にも分からない」
エルフィは静かにそう答えた。
「試練はお前の物語に寄り添って形を変える。急いで探すものでもない」
「そう、なんですね」
すずなはその言葉を胸の中に、そっとしまった。焦らずそれでも着実に。これまでの半年間で身につけた感覚が、また一つ確かなものとして積み重なっていく。
「私は?私のLunar Sightも、更に強く、強力になっていくんですか」
紬が身を乗り出して、そう尋ねた。
「相手の能力が見えるようになったり、目からビームが出るようになったり」
「何だそれは。出るわけないだろう」
「え」
「お前のLunar Sightは、それで終わりだ」
「先輩は進化するのに。私はこれで終わりなんて」
紬は大きく肩を落とした。
「なんなんですかー!」
そのあまりにもテンプレ化したやり取りに、すずなは思わず声を出して笑ってしまった。窓の外、異世界の空は今日も静かに晴れていた。
「運が良ければ別の加護を得ることが出来るかもしれんが……」
エルフィのとても小さな呟きに、紬もすずなも気が付かなかった。




