第40話 決意
ある晩、すずなの部屋で二人は静かに向き合っていた。
「紬さん、少し話したいことがあります」
「はい」
すずなは息を整えてから切り出した。
「私、やっぱりあちらで紬さんと一緒に暮らしたいです」
その言葉に紬はしばらく、じっとすずなを見つめていた。
「先輩、本気ですか」
「はい。ずっと考えてました。もう答えは決まってます」
すずなの声には迷いがなかった。紬はその表情を見て小さく微笑んだ。
「先輩のこういう真剣な顔、久しぶりに見ました」
「紬さんは、どうですか」
「私は」
紬は少し間を置いた。それからまっすぐに、すずなを見た。
「私もあちらで先輩と、一緒に冒険しながら暮らしたいです。ずっと、そう思ってました」
その答えにすずなは静かに頷いた。二人の中で、これまで少しずつ積み重ねてきた想いが、はっきりとした形を持った瞬間だった。
「でも先輩、こっちの生活、どうするんですか。仕事とか、この部屋とか」
「仕事は辞めようと思います」
すずなは迷いなく、そう答えた。
「もう決めてました。あちらでの生活の方が私にとっては大事なので」
「そう、ですか」
紬は少し複雑な表情を見せた。それでもすぐに笑顔を取り戻した。
「じゃあこの部屋は」
「引き払おうと思います。荷物も少しずつ片付けて」
「先輩、それなら」
紬が少し身を乗り出した。
「こっちに戻ってきた時は私の家、使ってください。あそこ親が買ったマンションで、家賃払ってるわけじゃないので。先輩の分の部屋代とか気にしなくて大丈夫です」
「そんな、甘えてもいいんですか」
「もちろんです。むしろ、そうしてほしいです」
紬の言葉には嬉しさが隠しきれずに滲んでいた。
「私も実は」
紬は少し照れくさそうに続けた。
「もうすぐ大学、卒業なんです」
「そう、だったんですね」
「はい。だからちょうど良いタイミングかもしれません。私の卒業と先輩の退職。それに合わせて、あちらでの生活、本格的に始めましょうか」
その提案にすずなは頷いた。
「はい。それが一番、綺麗な区切りかもしれません」
数日後、二人は異世界の家を訪れていた。
部屋の中は少しずつ、日本から持ち込んだ品々で埋まり始めていた。ランタン、クッション、使い慣れた食器、お気に入りの本棚。
「なんか本当に生活感、出てきましたね」
紬が部屋を見渡しながら嬉しそうに言った。
「はい。ただ」
すずなは少し苦笑しながら部屋の一角を見た。持ち込んだ小型の家電が、いくつか隅に置かれたままになっている。
「電気、通ってないので。これ飾りになってますね」
「そうですね。エアコンも、ドライヤーも使えないままです」
二人はその光景に、思わず笑ってしまった。
「まあ、なんとかなりますよね、多分」
「はい、きっと」
使えない家電が並ぶ部屋で、それでも二人は確かに、新しい生活の形を少しずつ作り上げていた。窓の外には、異世界の見慣れた景色が広がっている。もうすぐここが、本当の意味での二人の家になる。
その未来を、二人は静かに見つめていた。
最後までお読みいただきありがとうございました!続きが気になる方は、ぜひページ下部から【ブックマーク】と【ポイント評価(☆☆☆☆☆)】をお願いします。




