第24話 あと五往復
金曜日の夕方、すずなはいつものように荷物をまとめながら、ふとコンビニ以外の店にも寄っていくことにした。
駅ビルの中にある洋菓子店の前で、すずなは足を止めた。
「エルフィさん、こういうのも好きかもしれません」
すずなはそう呟きながら、焼き菓子の詰め合わせと、いくつかの生菓子を選んだ。コンビニのシュークリームとはまた違う、少し上品な甘さのものを、と考えた結果だった。
会計を済ませ袋を鞄に入れると、すずなは少し得意げな気分になった。今日のお土産は、いつもより豪華だった。
駅前のロータリーに着くと、紬の車がすでに待っていた。
「先輩、今日は荷物、多いですね」
「エルフィさんへのお土産です。コンビニ以外のも買ってみました」
「先輩、最近、エルフィさんへのお土産に力入ってません?」
「そうでしょうか」
すずなは少し首を傾げた。自分では、あまり意識していなかった。
車はいつもの道を走り、石碑のある場所へと向かった。鍵を差し込み光に包まれると、見慣れた異世界の景色が広がる。
まず向かったのはエルフィの家だった。
「戻りました。今日は、これも」
すずなは洋菓子店の袋を差し出した。エルフィは袋の中を覗き込み、目を細めた。
「……これは」
「焼き菓子と生菓子です。日持ちしないものもあるので、早めに」
エルフィは早速一つ手に取り、口に運んだ。
「……これは、かなり美味いな」
その一言に、すずなは満足そうに微笑んだ。
「エルフィさん、あの、鍵のことなんですけど」
「ああ」
エルフィは少し表情を引き締めた。
「今、残りは、いくつでしょうか」
「五往復」
その数字に、すずなと紬は顔を見合わせた。
「五ですか」
「ああ、材料が、もう無い。これ以上は作れん」
その言葉の重みは以前にも聞いたはずだったが、改めて数字にされると、より、はっきりとした重さで胸に響いた。
「五回、大事に使わないと、ですね」
「……お前が、Fable Unbound、進めるしかない」
エルフィが静かに言った。
「Fable Unboundって、何ですか」
紬が初めて聞く単語に首を傾げた。
そういえば、あの時、紬はまだ意識を失っていたのだった。すずなは、エルフィから聞いた説明を、紬にもあらためて話した。五つの試練のこと、それに繋がるFable Unboundのこと、そして暴走してしまったPandora's Boxのこと。
話を聞くうちに、紬の目がみるみる輝き始めた。
「先輩、それ、めちゃくちゃすごいじゃないですか」
「そう、なんでしょうか」
「すごいですよ!なんですか、それ、かっこよすぎます」
紬は興奮した様子で、すずなの両手を握った。
「私には?私には、そういうの、ないんですか」
紬が期待に満ちた目で、エルフィを見た。
「『Special God』とか、そういうの、無いんですか」
「……何だ、それは」
エルフィが心底呆れたような顔をした。
「なんか、かっこいいやつです」
「……お前は、まあ、頑張れ」
「それだけですか!?」
紬が思わず声を上げた。
「なんなんですかー!」
その様子にすずなは思わず笑ってしまった。この流れはもう何度も見た気がする。
その後、二人はギルドへと向かった。掲示板の前に立つと、受付嬢がこちらに気づいて声をかけてきた。
「あ、楠さん、雨宮さん。ちょうど、いい依頼があるんです」
「いい依頼、ですか」
「はい。貴族のお嬢様の護衛依頼で。トライアングル以上のパーティー向けなので、今なら、お二人にも受けていただけます」
受付嬢はそう言いながら、一枚の依頼書を差し出した。
「伯爵家のご令嬢が、街への外出に、護衛をお求めなんです」
すずなはその依頼書に目を通した。報酬額も、これまでの依頼より明らかに高い。
「紬さん、どうしましょう」
「受けてみましょうか。ランクも上がったことですし」
紬がそう言うと、受付嬢はにっこりと微笑んだ。
「では、こちらで正式に受注しますね」
すずなは依頼書にサインをしながら、少し胸の高鳴りを感じていた。それが新しい依頼への期待からなのか、それとも、さっき浮かんだあの考えの続きなのか、自分でも、よく分からなかった。




