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【完結保証】おとぎ話の試練を全部クリアしたら無自覚最強の美女になっていました。~明日仕事なのに、独占欲の強い後輩女子に帰れない異世界へ連れて行かれました~  作者: ごまだんご
第二章 パンドラの箱

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第20話 もう慣れました

朝、すずなが目を覚ますと隣に紬の温もりがあった。


「またですか」


 すずなは小さく呟いた。二台のベッドを確保したはずなのに、朝になるとなぜか同じベッドに紬がいる。もう何度目のことだろう。


 それだけでなく、最近は抱きつかれているような気もする。今も腕がしっかりとすずなの腰に回っていた。


「気のせいなんでしょうか」


 すずなは天井を見上げながら、独り言のように呟いた。気のせいにしては、随分とはっきりとした重みだった。


「ん」


 紬が身じろぎした。すずなの肩口に顔をうずめたまま、まだ眠っている様子だった。すずなはしばらくその寝顔を眺めていた。起こすべきか悩む。それでも朝の光の中で見る紬の顔は、いつもより無防備で幼く見えた。


「紬さん起きてください」

「……ん、あと五分」

「もう。何度もその五分聞いてる気がします」

「……気のせいです」


 寝ぼけたままの声でいつもの台詞が返ってきた。すずなは思わず笑ってしまった。


「紬さん、ちゃんと自分のベッドあったはずですけど」

「寝相です」

「もう慣れましたけど、さすがにこれだけ毎回だと」

「先輩の隣が落ち着くので」


 その一言ですずなは、何も言えなくなった。紬はまだ薄目のまま、すずなの肩にさらに顔を寄せてくる。


「紬さん、あの」

「もう少しこのままで」


 すずなは諦めたように、小さく息を吐いた。腕時計を見るとまだ起きるには早い時間だった。


「あと五分だけ、ですよ」

「……はい」


 紬は満足そうに目を閉じた。すずなはその頭をそっと撫でた。紬が小さく身を縮めたが、目は覚まさなかった。


 朝食を済ませると、二人は身支度を整え石碑の場所へ向かった。鍵を差し込み、光に包まれると、見慣れた現実の山道が広がっていた。


「運転、大丈夫ですか」


 すずなが心配そうに尋ねた。


「はい、平気です。ちゃんと元気なので」


 紬はそう言いながら、駐車場までの道を軽い足取りで歩いていった。すずなはその様子を見て安心した。


 車に乗り込むと、紬はいつも通りにハンドルを握った。


「先輩、今日は荷物も多いので家まで送りますね」

「あ、ありがとうございます。助かります」


 車が走り出してしばらくすると、紬が小さく咳をした。


「ごほっ」

「紬さん、大丈夫ですか」

「あ、大丈夫です。ちょっと喉が」

「本当に大丈夫ですか?まだ本調子じゃないんじゃ」

「いえ、平気です。平気です」


 そう言いつつも、紬は顔色が優れないように見えた。すずなは心配そうに、その横顔を見つめた。


 家に着くと、すずなは荷物を下ろしながら紬の様子をもう一度確認した。


「紬さん、本当に大丈夫ですか」

「あの、実は少し頭が」

「やっぱり、無理してたんですね」


 すずなは眉をひそめた。


「水曜日までお休みなので、良かったら泊まっていきますか」


 その言葉に紬の表情が一瞬で輝いた。


「え、いいんですか!」

「はい、その方が様子も見られますし」

「じゃあお言葉に甘えて……」


 紬は満面の笑みで車から荷物を降ろし始めた。動きはとても具合の悪い人間には見えなかった。


「紬さん、動き随分と元気ですけど」

「あ、いえ無理してるんです。多分」

「多分って」


 すずなが玄関の鍵を開けながら、そう返すと紬は思い出したように、また咳き込んだ。


「……ごほっ、ごほっ」

「その咳、さっきよりわざとらしくなってません?」

「気のせいです」


 紬は澄まし顔でそう答えたが、内心では見抜かれていることも分かっていた。それでも、素直に白状するには、もう少しだけ先輩と一緒にいたい気持ちの方が勝っていた。


 すずなは、もう聞き慣れた台詞に思わず笑ってしまった。


「じゃあ上がってください。お茶でも淹れますね」

「はい。ありがとうございます」


 紬は軽い足取りで玄関に入っていった。すずなはその後ろ姿を見ながら、小さくため息をついた。


「本当に具合、悪いんでしょうか」


 誰に聞くともなく呟いた声は、玄関の扉が閉まる音にかき消された。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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