第15話 乱戦
戦いはすぐに激しさを増した。すずなは弓を捨て剣を構え直す。矢で牽制できる余裕はもうなかった。
「紬さん、右!」
「見えてます!」
紬が迫ってきた山賊の一撃を、剣で受け止めた。刃がぶつかる金属音が、鋭く響く。押し返された相手が、体勢を崩したところにフィオナの槍が突き込まれた。
「フィオナさん、ありがとうございます!」
「油断しないで!まだ来るから!」
フィオナの言葉通り、次から次へと山賊が湧いて出てくる。数の多さがじわじわと囮組を圧迫し始めていた。
すずなは剣を握り直し、目の前の敵に向き合った。恐怖はまだ消えていない。それでも、体は、教わった通りに動いていた。
「うおおっ」
振り下ろされた斧を、すずなはかろうじて剣で受け流した。衝撃で腕がしびれる。
「先輩!」
紬の声が少し遠くから聞こえた。すずなは体勢を立て直し、相手の隙を突いて、剣を振るった。刃が敵の腕を掠める。相手が怯んで後ずさった。
その頃、拠点の裏ではシエルたちがさらに奥へと進んでいた。
「指揮官らしき奴、まだ見えないわね」
シエルが周囲を警戒しながら呟いた。
「拠点の一番奥、あの建物じゃないか」
ダーレンが砦の中心にある、一段大きな建物を指差した。
「行きましょう」
イオが静かに頷いた。四人は乱戦を縫うようにして、建物の方へと向かった。
一方、正面では囮組がなんとか敵の勢いを食い止めていた。しかし数はまだ多く、疲労も確実に溜まり始めている。
「フィオナさん、まだ増えます!」
「分かってる!」
その時だった。拠点の奥からひときわ大きな体格の男が姿を現した。
「なんだ、この騒ぎは」
低く地を這うような声だった。周囲の山賊たちが一斉に道を開ける。
「あれが、頭目みたいです」
フィオナが緊張した声で言った。
男は片手に丸太のような大剣を提げていた。歩くたびに、地面が微かに揺れる。
「女どもか。よくもまあ俺の縄張りに」
頭目の視線が、すずなたちをなめるように動いた。
「先輩、下がって」
紬がすずなの前に出た。フィオナも槍を構え直す。
「三人がかりでも、無駄だぜ」
頭目が大剣を軽々と振り上げた。
その一撃が、地面を叩き割る。土煙が勢いよく舞い上がった。
「くっ」
フィオナがかろうじて避けた体勢のまま、後方に弾き飛ばされた。
「フィオナさん!」
「大丈夫、まだ動ける……」
フィオナは立ち上がろうとしたが、足に力が入らない様子だった。着地の衝撃で足首を痛めたらしい。
頭目の視線が、次に紬へと向いた。
「次はお前か」
大剣が再び振り上げられる。紬は剣を構えたが、その一撃の重さはこれまでの敵とは明らかに桁が違っていた。
「紬さん、逃げて!」
すずなの叫びも間に合わなかった。
大剣が振り下ろされる。紬はかろうじて剣で受けたが、その衝撃に体ごと吹き飛ばされた。
「紬さん!」
すずなは地面に倒れた紬のもとへ駆け寄ろうとした。だが頭目の巨体が、その進路を塞ぐように立ちはだかる。
「お前が最後だな」
頭目が大剣をすずなに向けて構え直した。
すずなの視界の端で、紬が口から血を流しながら、朦朧とした様子でこちらに手を伸ばしているのが見えた。




