第14話 突入
囮組の三人、すずな、紬、フィオナは、拠点の正面が見渡せる茂みまで移動していた。木々の隙間から、粗末な柵とその向こうに立つ砦が見える。人影がいくつも動いていた。
「合図と同時に目立つように動きます。大声出してもいいので」
フィオナが小声で説明した。
「向こうが気づいたら、そのまま少し引きます。深追いは絶対にしないでください」
「分かりました」
すずなは剣の柄に手をかけた。緊張で指先が冷たくなっている。隣で紬が小さく息を吐いた。
「先輩、私の後ろにいてください。前に出過ぎないように」
「紬さんこそ、無茶しないでくださいね」
「分かってます」
その返事は、いつもより硬かった。
一方、裏に回るシエル、ダーレン、イオ、ミレイの四人は、拠点の背後、切り立った崖沿いの道を進んでいた。足場が悪く慎重な歩みが続く。
「正面が動き出すまで、あと少し」
シエルが腕に着けた小さな魔道具に目をやりながら言った。時間を確認する仕組みらしい。
「イオ、裏の見張りの数は」
「二人。片方は居眠りしてるわね」
イオが遠くを見ながら答えた。長年の経験からか、その口調には迷いがなかった。
「ミレイ、援護お願いね」
「はい。準備できてます」
ミレイが静かに杖を構えた。魔法で遠距離から敵の動きを封じる役目を任されている。
「よし、こっちから仕掛ける。合図が来たら一気に叩く」
ダーレンが剣の柄に手をかけた。四人の間に静かな緊張が走る。
正面では、フィオナが片手を上げた。
「行きます」
その声を合図に、フィオナが茂みから飛び出した。
「おーい、こっちだぞー!」
大声とともに地面を蹴って走り出す。拠点の中から複数の怒声が上がった。
「敵襲だ!」
「数は!」
男たちが、次々と柵の外へ飛び出してくる。予想以上の数だった。
「先輩、今です」
紬がすずなの手を引いた。二人も茂みから姿を現す。
「女だけとはツイてるな!」
山賊の一人が、こちらに気づいて叫んだ。すずなは剣を構えながら、心臓が早鐘を打つのを感じた。
これまでの依頼とは明らかに違う。相手の数も、殺気も、桁違いだった。
「先輩、下がって」
紬が前に出て、迫ってくる山賊の一人と剣を交えた。金属同士がぶつかる音が森に響く。
すずなは剣を構えながらも、少し距離を取り背負っていた弓に持ち替えた。矢をつがえ迫る敵の足元を狙って放つ。
「くっ」
矢が一人の山賊の足を掠め、その動きがわずかに鈍った。すずなは続けてもう一本、矢を放った。
その頃、拠点の裏ではシエルたちが、でに動き出していた。
「行くわよ」
シエルの声とともに、三人は崖沿いの道から一気に飛び出した。見張りの二人が反応する間もなく、シエルの剣がその一人を打ち倒す。もう一人が慌てて武器を構えようとした瞬間ミレイの放った光の矢が、その足元を弾き飛ばした。
「侵入者だ!」
「裏だ、裏から来てる!」
拠点の中が一気に騒然となった。正面と裏二つの騒ぎが重なり、山賊たちの統率が、目に見えて乱れ始める。
「今よ!正面組、押していきなさい!」
シエルの叫びが遠くまで響いた。
すずなは剣を構え直した。目の前に二人の山賊が迫ってくる。逃げることはもう選択肢になかった。
「紬さん」
「はい」
「一緒に行きましょう」
「はい」
二人は並んで迫る敵に向かって、足を踏み出した。戦いが始まっていた。




