第13話 想定外
翌朝、まだ日も昇りきらないうちに、ダーレンが斥候から戻ってきた。息を切らしいつもの落ち着いた表情が崩れている。
「まずいぞ!多すぎる!」
その声に、野営地の空気が一瞬で張り詰めた。
「どういうこと」
シエルがすぐに詰め寄る。
「拠点の周り、見てきた。昨日よりさらに増えてる。少なくとも三十は超えてる」
「三十……」
誰かが息を呑む音がした。事前に受けていた依頼の情報では、山賊の数は十数人程度のはずだった。倍以上の誤差は明らかに異常だった。
「情報が古かったのか、それとも」
「もしかして、他の拠点から合流したのかもしれない」
イオが冷静な声で補足する。ダーレンが頷いた。
「拠点の裏手に見慣れない旗があった。この辺りの山賊のものじゃない」
場が一気に静まり返った。すずなは隣に立つ紬の表情が、いつもと違うことに気づいた。
「紬さん」
「大丈夫です。落ち着いて考えれば」
紬の声はいつもより硬かった。すずなは、その手をそっと握った。紬がはっと顔を上げる。
「先輩」
「私たちは、私たちにできることをしましょう」
その言葉に、紬は少しだけ表情を緩めた。
「そうですね」
シエルが地面に木の枝で簡単な図を描き始めた。
「作戦変えるわよ。この人数差だと正面突破は無理。数を分散させて各個撃破するしかない」
「囮を使う形ですか」
ダーレンが尋ねる。
「ええ。誰かが拠点の正面から目立って注意を引く。その隙に残りが裏から入って、指揮官を叩く」
「囮役は」
全員の視線が一瞬、宙に浮いた。危険度が明らかに高い役目だった。
「私がやります」
紬が真っ先に手を挙げた。すずなは目を見開いた。
「紬さん」
「私、足も速いですし、逃げるのも得意なので」
紬の声には、迷いがなかった。それでも、すずなにはその手が微かに震えているのが見えた。
「一人では行かせません」
すずなは、はっきりと言った。
「先輩」
「私も一緒に行きます」
シエルが、二人の顔を見比べて少し困ったように笑った。
「新人二人だけで囮って、危なすぎるんだけど」
「じゃあ私も付き合うわ」
フィオナがすっと手を挙げた。
「三人ならまだ動きやすいでしょ」
シエルは少し考えてから、頷いた。
「分かった。囮組はあなたたち三人。残りは裏から回る」
作戦が決まると、全員の顔つきがそれまでとは違うものに変わった。緊張と覚悟の入り混じった空気が野営地を包んでいた。
準備を整えながら、紬はそっと、すずなに耳打ちした。
「先輩、無理はしないでくださいね」
「紬さんこそ」
「私は大丈夫です。慣れてるので」
その言葉が噓であることは、すずなにも分かっていた。それでも今はその噓に、そっと乗ることにした。
「行きましょうか」
「はい」
朝日が、森の木々の間から差し込み始めていた。七人はそれぞれの持ち場へ向けて、静かに歩き出した。




