第12話 野営の夜
日が完全に落ちる頃、七人はそれぞれの役割に分かれて夜を過ごす準備を始めた。
「火の番、私やります」
紬が真っ先に手を挙げた。フラワークラウンのリーダーが面白そうに笑う。
「あら積極的ねえ。じゃあすずなちゃんと一緒にお願いしようかしら」
「はい、任せてください」
紬は素早くすずなの隣に腰を下ろした。焚き火の明かりが二人の顔を照らす。
「今夜冷えますね」
「そうですね」
紬はそう言いながらするりとすずなの肩に寄りかかった。
「紬さん?」
「寒いので」
「毛布ありますけど」
「これで十分です」
すずなは少し困った顔をしながらも寄りかかられたまま焚き火の番を続けた。少し離れた場所でフラワークラウンの三人がその様子を見てこそこそと囁き合っている。
「ねえあの二人付き合ってるの?」
「分かんないけど、あの距離感は絶対何かあるわよねえ」
声はしっかりと紬の耳にも届いていた。紬は聞こえていないふりをしながらさらにすずなの腕にしがみついた。
「紬さん、今日いつもよりくっついてくるような」
「気のせいです」
もう聞き慣れた台詞だった。すずなは笑いを堪えながら木の枝を火にくべた。
夕食の時間、ヴェルシュカの二人は鍋を囲んで慣れた手つきで料理を進めていた。
「昔はこういうの俺が全部やってたんだ。今はイオの方が上手くなっちゃって」
「あら今でもあなたの味付けも好きよ」
二人のやり取りにフラワークラウンのリーダーが茶化すように声をかける。
「そういうの若い子の前でやると当てられるわよ」
「あらいいじゃない見せつけても」
イオが悪戯っぽく笑った。すずなはその温かいやり取りを見ながらなんとなくこういう関係もいいものだなと思っていた。
鍋が出来上がると、フラワークラウンの三人が、すずなの周りに集まってきた。
「すずなちゃん、こっち座って。あったかいスープあるから」
「あ、ありがとうございます」
「はい、あーん」
リーダーが、スプーンを差し出した。すずなは、戸惑いながらも、口を開けた。
「美味しいです」
「でしょう?よかった、口に合って」
槍使いの女性も、負けじと、パンをちぎって差し出してくる。
「これも食べて。パン、焼きたてなの」
「あ、はい、いただきます」
魔法使いの女性は、すずなの隣に座り込み、膝掛けを肩にかけてきた。
「風、出てきたから。冷えるでしょう」
「皆さん、優しいですね……」
すずなは、三人からの世話に、たじたじになりながらも、嬉しそうにしていた。三人は、そんなすずなの反応を見ながら、ちらちらと、紬の方に視線を送っていた。
「ねえ、すずなちゃん、うちのパーティーに来ない?」
「大歓迎よ」
紬はその様子をじっと見ていた。表情には出さなかったが握った拳に力がこもっていた。
「見せつけてますよね、あれ」
誰にともなく呟いた声は、焚き火の爆ぜる音に紛れて消えた。
隣に移動してきた紬がますます体を寄せてくる。
「先輩、鍋こっちも取ってください」
「あ、はい」
すずなが手を伸ばすと紬はその手に自分の手を重ねた。
「重いので支えます」
「そんなに重くないですけど」
「念のためです」
すっかり定番になった言い訳をすずなはもう聞き流すことに慣れていた。
食事を終えると夜の間の見張りの順番が決められた。すずなは真夜中前の時間帯を任されることになった。
「私も一緒にいます」
「紬さん、明日も動くので休んでください」
「先輩と一緒にいたいので」
「それは理由になってないような」
「なってます」
結局紬も一緒に起きていることになった。焚き火から少し離れた場所で二人は並んで座り静かな森を見つめていた。
「こうしてるとなんだかキャンプみたいですね」
「紬さんはこういうの慣れてますもんね」
「はい大好きです」
紬はすずなの肩にまた頭を預けた。すずなはその重みを自然に受け止めていた。
しばらく二人は無言のまま森の音に耳を澄ませていた。
そのときすずなはふと違和感を覚えた。
「紬さん」
「はい?」
「さっきから虫の声聞こえないですよね」
紬ははっとした様子で体を起こした。
森は確かに静かすぎた。風の音も葉擦れの音もいつの間にか遠のいている。
拠点の方角、暗闇の奥に小さな明かりがいくつも動いているのが見えた。予定より明らかに数が多かった。
「紬さん、他の人たちを」
「はい」
紬はすぐに立ち上がり焚き火の方へ駆け戻った。すずなは暗闇の中の明かりから目を離さなかった。
数分後、フラワークラウンのリーダーが険しい表情でこちらに歩いてきた。
「本当ね……多いわ、思ってたより」
「情報と違うんですか」
「ええ。事前に聞いてた人数の倍近くいる」
ダーレンとイオも静かに合流した。全員の顔からそれまでの和やかな空気がすっと消えていた。
「明日の作戦、練り直しましょう」
リーダーの言葉に全員が頷いた。焚き火の明かりだけが七人の顔を赤く照らしていた。
すずなはまだ動いている遠くの明かりを見つめながら自分の胸の中に今までにない緊張感が広がっていくのを感じていた。




