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【完結】おとぎ話の試練を全部クリアしたら、異世界が帰る場所になりました  作者: ごまだんご
第十二章 北の魔女

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第158話 封印

 クリスタに見据えられ、エルフィはすずなの肩から体を離した。ふらつく足取りで亀裂の前まで進み、凍りついた縁(ふち)に片膝をつく。


「クリスタ、氷をもう少し厚くできるか」

「できるけど、一つ必要なものがあるわ」

「なんだ」

「エルフィちゃんを膝に乗せないと、できないわ」

「嘘をつくな」

「本当よ」


 クリスタが、わずかに口の端を上げる。


「封印の性質に合わせる必要があるの」


 エルフィは疑わしげな目で見返したが、クリスタは涼しい顔を崩さなかった。


「本当に、要るのか」

「ええ」


 短い沈黙の後、エルフィは額に手を当てた。


「一度だけだぞ」


 渋々といった様子でエルフィが歩み寄ると、クリスタは再び氷の椅子を作り出して腰を下ろし、その膝にエルフィを収めて満足げに頷いた。


「よろしい」


 すずなたちは何とも言えない顔で、その光景を見つめていた。


「エルフィさん、さっきはあんなに逃げてたのに」


 紬が思わず口を挟む。


「うるさい」


 エルフィが低く遮った。心春はそっと口元を押さえ、肩の上のフィンは「エルフィ、ちっちゃい子みたい」と無邪気に笑っている。エルフィの眉間の皺(しわ)が、一段深くなった。


 クリスタが片手でエルフィを支えたまま、もう片方の手を綻(ほころ)びの方へ差し向ける。凍りついていた地面から、さらに分厚い氷の層が幾重にも重なって盛り上がっていった。透き通った氷が、綻びの縁を余すところなく覆い尽くしていく。


「これでどう?」

「それでいい」


 エルフィは懐から、小さな水晶のようなものを取り出した。手のひらに収まるほどの大きさだったが、内側からうっすらと光を放っている。


「何をするんですか」


 紬が問いかける。


「封印の術式を、この氷に重ねて刻む」


 エルフィは水晶を掲げながら答えた。膝の上という体勢のまま、器用に指先を動かしていく。


「クリスタの氷は、並の氷とは比べものにならないほど固い。この上に術式を定着させれば、ただ空間に刻むよりずっと崩れにくくなる」

「氷そのものが、術式の器になるということですか」


 リエラが感心したように呟いた。


「そういうことだ」


 エルフィが水晶を氷の中心へ押し当てるのを、すずなは息を詰めて見守った。その時、ふと、クリスタの手に目が留まる。エルフィの背に添えられたその手のひらから、淡い青の光がゆっくりとエルフィの体へ流れ込んでいた。さっきまで浅く速かったエルフィの呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


 すずなが顔を上げると、クリスタと目が合った。クリスタは唇の前に人差し指を立て、片目をつぶってみせる。


「起動する」


 エルフィが短く告げると、水晶から放たれた光が、氷の表面を這うように広がっていった。複雑な紋様が幾重にも描かれ、氷全体が淡く発光し始める。


 光が引いていくにつれて氷はさらに透明さを増し、内側に幾何学(きかがく)的な模様を宿したまま、明滅をぴたりと止めた。宙に残っていた闇の筋も、その奥に閉じ込められて見えなくなる。


「終わったぞ」


 エルフィが膝の上から降り、大きく息をついた。足取りはまだ重いものの、さっきのようなふらつきはない。


「数年は保つ。その間に、もっと根本から手を打たなければならんがな」

「数年……」


 すずなが呟く。エルフィは氷の奥を見つめたまま、それ以上は何も言わなかった。


 周りの実力者たちの間から、少しずつ安堵の声が漏れ始めた。ガイルがその場に座り込み、リンドウがその肩を叩く。ミナとリナは手を取り合い、「終わりました〜」「終わりましたね〜」と声を揃えた。バルドが大きく息を吐き、剣を鞘に収める。


「やれやれ。今回ばかりは骨が折れたな」

「ああ。本当に厄介なのは、ここからだ」


 エルフィの言葉に、バルドは黙って頷いた。


「よくやったわね」


 クリスタが、エルフィの頭にぽんと手を乗せる。


「クリスタ」

「今日だけは、素直に褒めさせて」


 エルフィは何か言い返そうとして口を開き、そのまま閉じた。頭に置かれた手を払いのけることもせず、氷の奥へ視線を逃がしている。


「嘘じゃないわよ」


 クリスタが、すずなの方を振り返って小さく笑った。


「膝に乗せないとできない、って話。半分はね」


 すずなは思わず小さく吹き出し、それからエルフィの横顔を見た。言い返す言葉を探しているのか、エルフィの唇がもごもごと動いている。その足元で、封じられた氷が冷たい気配を放ち続けていた。


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