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【完結】おとぎ話の試練を全部クリアしたら、異世界が帰る場所になりました  作者: ごまだんご
第十二章 北の魔女

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第155話 閉じぬ綻び

 すずなのRose(ローズ) Fall(フォール)が降らせた赤い光に、黒い蔓(つる)はほとんど消え去っていた。わずかに残った蔓の切れ端も、光の粒に触れるたびに崩れ、土に還っていく。


 それでも、亀裂の奥の綻(ほころ)びは閉じていなかった。奥から漏れ出す闇は依然として濃く、その縁からは異形の魔獣が這(は)い出し続けている。数こそ明らかに減っていたが、途切れる気配はまだなかった。


「蔓は片付いたが、こっちはまだか」


 バルドが剣を構え直しながら舌打ちする。


「Rose Fallが払ったのは、眠りの残滓(ざんし)だけだ」


 エルフィが亀裂を見据えたまま言った。


「綻びそのものを閉じるには、別の力がいる」

「別の力……」


 紬が息を呑む。すずなも、体の奥に残るだるさを抱えたまま、亀裂の奥を見つめていた。


「目を覚まして、蔓は消せました。でも、綻びはまだ開いたままなんですね」

「眠りはお前の内側で起きていたことだ。この世界に開いた傷とは、別のものと考えていい」


 エルフィの言葉に、紬が眉を寄せる。


「じゃあ、蔓を消しただけじゃ、根っこは何も変わってないってことですか」

「そうだ。だから、まだ気は抜けん」


 その時、亀裂の奥から一際大きな唸(うな)り声が響いた。


 地面がわずかに揺れ、縁にいた小型の魔獣たちが一斉に脇へ退く。その間を割るようにして、これまでとは明らかに桁の違う巨体が這い出してきた。全身を覆う漆黒の体表から粘つくような瘴気(しょうき)が絶えず立ち昇り、足を一歩踏み出すたびに、周りの小石がかすかに跳ねる。実力者たちの間に、目に見えて緊張が走った。


「あんな図体、今まで見たことないぞ」


 ガイルが得物を握り直しながら唸る。リンドウも、鋭い視線を巨体に向けた。


「動きに無駄がありません。力任せに暴れるだけの相手ではなさそうです」

「あれ、狙って当てられる気がしません〜」

「隙が見当たらないです〜」


 ミナとリナが、珍しく硬い声で呟いた。フィーネとセレアも、互いに顔を見合わせる。


「時空魔法での足止め、効くでしょうか」

「試してみる価値はあると思います。ただ、あの瘴気ごと止められるかどうかは分かりません」


 二人のやり取りを背に、バルドが巨体を睨みつけたまま、ゆっくりと前に出た。


「デカブツの相手なら、俺の得意分野だ。だが、甘く見るつもりはない」


 エルフィがその隣に並び立つ。


「あれが綻びを繋ぎとめている核だとすれば、倒さない限り綻びは閉じない」

「つまり、あいつを倒せば」


 紬が魔銃を構え直しながら尋ねた。


「本丸ということになる。だが、確証はまだない」


 エルフィは慎重に言葉を選んだ。


「倒してみて何も変わらなければ、また別の手を考える」

「時間との勝負、ということですね」


 心春の言葉に、エルフィは短く頷いた。


 心春の肩の上で、フィンがぶるりと身を震わせた。その隣では、小さな炎が落ち着きなく揺れている。


「フィン、バーニル。あの魔獣の気配、分かりますか」

「あいつ、すっごく嫌な感じ。ほかのより、ずっとずっと重たいもん」


 フィンは心春の髪の陰に半分隠れながら、巨体の方をちらりと覗いた。心春の胸の内には、バーニルの低い声が響いている。あの瘴気は周りの空気ごと歪めている、うかつに近づけば呑まれる、と苛立ったような口ぶりだった。


「バーニルも、近づきすぎるのは危ないと言っています」


 心春がすずなの方を振り返る。


「すずなさん、気をつけてください。あの瘴気に触れたら、何が起きるか分かりません」

「はい、気をつけます」


 すずなが頷くと、紬がそっと隣に並んだ。


「先輩、さっきまで眠ってたんですから。本当に、無理しないでくださいね」

「もう大丈夫です。眠っていた分、かえって体は休めましたから」


 紬は何か言い返そうとして口をつぐみ、照れ隠しのように魔銃を握り直した。


 エルフィが、改めて全体を見渡した。


「すずな、まだ動けるか」


 すずなは腰の剣に手をかけ、柄の感触を確かめるように握り直した。


「はい。まだ、やれます」

「なら、次はあれを片付けるぞ」


 エルフィの視線が、亀裂の縁で身を起こした巨躯(きょく)へと向けられる。周りの実力者たちもそれぞれの得物を構え直し、新たな戦いに備えて息を整えた。


 巨躯がゆっくりと首をもたげると、鼻を突く瘴気の匂いが一段と濃くなった。腹の底に響くような低い唸りが地面を伝い、すずなの足裏まで届いてくる。すずなは剣を抜き放ち、その切っ先を巨躯へと向けた。


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