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【完結】おとぎ話の試練を全部クリアしたら、異世界が帰る場所になりました  作者: ごまだんご
第十二章 北の魔女

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第150話 新たな試練

 夜が明けきっても、亀裂から魔物が這い出してくる勢いは衰えなかった。


「くっ……」


 紬が膝をつきかけ、魔銃を支えにしてどうにか踏みとどまった。


 周囲を見渡せば、誰もが似たような有り様だった。バルドの大剣でさえ、振り下ろされるたびに少しずつ重さを増しているように見える。剣を振るう者の足はもつれ、詠唱の声は途切れがちになっていた。


「もう、限界が近いです」


 リエラが掠れた声で告げた。その後ろでは、フィーネとセレアが青ざめた顔のまま、それでも時を鈍らせる魔法を紡ぎ続けている。


「わたしたちも……そろそろ」


 ミナの声からは、いつものゆるさがすっかり消えていた。隣のリナも、黙って得物を握り直している。ガイルとリンドウも肩を並べて息を切らしながら、武器を下ろそうとはしなかった。


 エルフィは戦線を一望し、短く息を吐いた。


「このままでは押し切られる」


 誰にともなく呟いて、その視線をすずなに向ける。


「すずな」

「はい」

「南のギルドに戻り、東と西のギルドへ応援を求める知らせを出させろ。私たちだけでは足りない。行けるか」


 その声には焦りが滲んでいたが、それでも冷静さは失われていなかった。


「一番早く往復できるのは、お前だけだ」

「分かりました」


 すずなは即座に頷いた。夜通しの戦いのあいだに、転移の反動はどうにか引いている。皆から少し離れた場所へ移ろうとすると、紬が心配そうにその背中を見た。


「先輩、無理しないでくださいね」

「はい。すぐに戻ります」


 足元へ霧を呼ぼうとしたその時、頭の中に声が響いた。


『Thorn(ソーン) bound(バウンド) Fate(フェイト)の試練が開始されました』


 次の瞬間、全身から一気に力が抜けていった。


「え……」


 立っていられず、すずなはその場に片膝をついた。視界の端がじわりと滲み、抗いようのない眠気が、頭の上から覆い被さってくる。


「先輩!」


 紬が真っ先に駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか、何が……!」

「分かり、ません……」


 言葉を紡ぐのもやっとだった。瞼が鉛のように重い。心春も慌てて駆け寄り、傾きかけたすずなの体を支えた。


「すずなさん、しっかりしてください」


 その声が、薄い膜を一枚隔てた向こうから聞こえてくるように感じられた。剣の触れ合う音も、魔物の唸り声も、少しずつ遠のいていく。


 エルフィが目を見開いた。


「まさか」


 その視線が、亀裂の方へと向けられる。よく見れば、地面のあちこちから、黒く細い蔓のようなものが這い出してきていた。蔓には小さな棘が並び、枯れ草を絡め取りながら、じわじわとこちらへ伸びてくる。


「Thorn bound Fate。眠れる森の美女の試練だ」


 エルフィの声が、これまでにない緊張を帯びた。


「試練って……」


 紬が呆然と呟いた。


「五つのうち、まだ残っていた、最後の……」

「なぜ、今なんだ」


 バルドが亀裂を睨みつけた。


「この規模の異変そのものが、引き金になったのかもしれん。試練は、時と場所を選んではくれない」


 エルフィが低く答え、すずなの肩を強く掴んだ。


「すずな、聞こえるか。眠ったら、どうなる」

「分かり……ません。でも」


 朦朧とする意識の中で、すずなはそれでも声を絞り出した。


 霞んでいく視界の中に、紬の顔があった。泣き出しそうな目で、こちらを覗き込んでいる。何か言わなければと思った。大丈夫だと、すぐに戻ると、伝えなければいけない気がした。


「紬、さん……私……」


 その先を言い切る前に、瞼が完全に閉じてしまった。


「先輩!」


 紬の叫ぶような声が響いた。心春が慌ててすずなの体を抱きとめ、そっと地面に横たえる。


「息は、しています。ただ、まったく反応がありません」


 心春が震える声で告げた。紬はすずなの手を取り、指が白くなるほど強く握りしめた。握り返してくる力は、どこにもなかった。


「先輩、起きてください。先輩……!」


 バルドが亀裂の周辺を鋭く見渡した。


「蔓はまだ広がっている。他の連中にも、影響が及ぶかもしれん」

「全員、後退しろ。蔓には触れるな」


 エルフィが鋭く指示を飛ばした。冒険者たちが慌てて距離を取っていく中、紬はすずなの傍らから動こうとしなかった。


「先輩を、置いていけません」

「分かっている。だが、まずは状況を見極めなければならん」


 エルフィの声にも、これまでにない焦りが滲んでいた。


 すずなを取り囲むように、黒い蔓が少しずつその輪を狭めてくる。紬はすずなの手を握る指に、さらに力を込めた。離さないと決めた手を、今度は自分が離すわけにはいかなかった。


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