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【完結】おとぎ話の試練を全部クリアしたら、異世界が帰る場所になりました  作者: ごまだんご
第十一章 南の護り手

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第146話 急報

 あの夜から、数日が経っていた。


 夕食を終え、すずなが台所で後片付けをしていると、居間の長椅子から紬の声が飛んできた。


「ねえ、すずな。このお店、良さそうじゃない?」


 振り返ると、紬がスマホの画面をこちらへ向けていた。日本へ行った時に保存しておいたらしい店の写真が、ずらりと並んでいる。


「池袋のお店?」

「うん。エルフィさんが行ったところの近く。心春さんに似合いそうなのも、いっぱいあるの」

「いつにしようか。エルフィさん、近いうちにって言ってたし」

「明後日とか、どうかな。心春さんにも聞いて……」


 言いかけた紬の声を遮るように、玄関の戸が激しく叩かれた。


 すずなが布巾を手にしたまま戸を開けると、エルフィが立っていた。いつもの落ち着いた雰囲気は消え、その顔には焦りが滲んでいる。


「エルフィさん? どうしたんですか、こんな時間に」

「南で動きがあった」


 その一言で、すずなの背筋が伸びた。居間の紬も、スマホを持ったまま立ち上がる。


「メイルから、ギルド間の通信で知らせが届いた。南の森の綻びに、変化が出たそうだ」

「メイルさん……南のギルド長の」

「そうだ。詳しいことはまだ分からん。だが、のんびりしている時間はない。まずはギルドへ行く」


 有無を言わせぬ声だった。紬はスマホを懐にしまい、壁に立てかけてあった魔銃を手に取った。


「すぐ支度します」

「私は、心春さんに知らせてきます。エルフィさんと紬さんは、先にギルドへ」


 すずなは布巾を卓に置き、ローブを羽織った。


「無理しないでくださいね、先輩」

「はい。すぐに追いつきます」


 言い終わるより早く、すずなは家を飛び出していた。


 心春の家までは、走れば数分の距離だった。息を切らしながら扉を叩くと、すぐに心春が顔を出す。


「すずなさん、こんな時間にどうしたんですか」

「心春さん、緊急です。南で動きがあったって、エルフィさんが」


 心春の顔から、すっと表情が消えた。


「南、ですか……」


 その声には、母を奪った三十年前の侵攻を思い浮かべたような、硬い響きが滲んでいた。肩のあたりで、淡い風の輪郭が小さく縮こまる。


「ミハル、南、こわいよ。あそこ、やだ」

「大丈夫。一緒にいるから」


 心春は肩の上の風をそっと手で包み、それから顔を上げた。


「すぐ行きます」


 上着を羽織った心春と並んで、すずなはギルドへの道を駆けた。


 ギルドの扉を開けた瞬間、いつもとは違う張り詰めた空気が肌を刺した。受付の奥では職員たちが慌ただしく行き交い、先に着いていたエルフィと紬が、卓の前で報告書を囲んでいる。


「お待たせしました」


 息を切らして駆け寄るすずなと心春に、紬が小さく頷いた。エルフィは報告書から顔を上げると、近くにいた職員を呼び止めた。


「この内容を、至急王都ギルドにも伝えろ」

「はい、直ちに」


 職員が奥へ駆けていくのを見届けてから、エルフィは報告書を折り畳んで懐にしまった。


「エルフィさん。どれくらい深刻なんですか」


 紬が尋ねると、エルフィは短く首を振った。


「詳しいことは、まだ言えん。だが、悠長に構えていられる状況でないのは確かだ」

「具体的には、どんな変化があったんですか」


 心春の問いに、エルフィは一瞬、言葉を選ぶように黙った。


「地脈の乱れが、この数日で急に広がったらしい。メイルの報告では、監視の者たちが異様な気配をいくつも感じ取ったそうだ」

「いくつも、ですか……」


 心春の声が、わずかに震えた。


「今の段階では、確かなことは何も言えない。だからこそ、自分の目で確かめる」


 エルフィの言葉に、紬が魔銃の負い紐を握り締めた。


「わたしたちは、何をすれば」

「現地へ行く。百聞は一見に如かず、だ」


 エルフィの視線が、すずなに向けられた。


「すずな。南まで運べるか。着いてすぐに動けるよう、私は力を残しておきたい」

「分かりました」


 すずなは頷いて、皆の輪の中心に立った。紬と心春がそれぞれの得物に手をかけ、エルフィがすずなの隣に並び立つ。


「準備はいいですか」

「はい、いつでも」

「大丈夫です」

「行くぞ」


 エルフィの短い号令と同時に、すずなの足元から黒い霧が立ち上った。霧は瞬く間に四人を包み込み、ギルドの喧騒が遠のいていく。


 次に吸い込んだ空気は、喉の奥がかすかにひりつくほど乾いていた。枯れ草を踏む音が、足元でかさりと小さく鳴る。


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