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【完結】おとぎ話の試練を全部クリアしたら、異世界が帰る場所になりました  作者: ごまだんご
第十一章 南の護り手

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第145話 写真鑑賞会

 夕食を終えると、四人は居間に移った。今夜は心春も泊まっていくことになっていて、まだ帰る気配はない。皿を片付け終えたすずなが長椅子に腰を下ろすと、待ちかねたように紬がその隣へ滑り込んできた。


「先輩。あの写真、もう一回見せてください」

「え、今ですか?」

「今です」


 卓の向こうで菓子をつまんでいたエルフィの肩が、目に見えて強張った。


「もう十分見ただろう」

「まだちゃんと見てません」


 有無を言わせぬ紬の様子に、すずなは困ったようにエルフィの方を窺った。


「それに先輩、さっきは、いつの間にか待ち受けに変わってたって言ってましたよね」

「はい……」

「スマホって、勝手に待ち受けが変わったりしませんよね」


 紬に真顔で問われ、すずなは観念したように目を伏せた。


「あまりにも可愛くて、つい……自分で、設定しました」

「分かります」


 紬が深く頷いた。長椅子の端では、心春までもが真顔で同意している。エルフィは何か言い返そうと口を開きかけたが、言葉が見つからなかったのか、そのまま菓子を一つ口に放り込んだ。


「他には? 他にもあるんですよね?」


 身を乗り出す紬に押し切られる形で、すずなはアルバムを開いた。


「えっと、実は……」


 画面に並んだ写真の数に、エルフィの目が見開かれた。白いドレスを纏って試着室の鏡を見つめる姿もあれば、黒いドレスで裾をつまんでいる姿もある。どれも、エルフィが鏡に見入っている間に、カーテンの隙間から撮られたものだった。


「待て。それは、いつ撮った」

「試着室で、エルフィさんが鏡を見ている間に……」

「家で一枚撮っただけだと思っていたぞ」

「すみません。どうしても、残しておきたくて」


 エルフィが手を伸ばすより早く、心春が画面を覗き込んでいた。


「わあ……」


 心春は、そのまま言葉を失ったように画面を見つめた。


「これ、本当にエルフィさんですか?」

「本当にエルフィさんです」


 紬が誇らしげに答える。まるで自分の手柄のような口ぶりだった。


 心春はしばらく画面を指先で送っていたが、やがて顔を上げた。


「この裾のフリル、細かいところまで丁寧ですね」

「そうなんです。お店の人も、エルフィさんにすごく似合うって言っていました」


 すずなが嬉しそうに補足すると、エルフィは余計に居た堪れなさそうな顔をした。


「この、片手を頬に添えてるの、可愛すぎませんか」


 紬が指差した一枚を、心春がまじまじと見つめた。


「本当ですね。エルフィさんのこんな柔らかい表情、初めて見ました」

「その一枚だけは消せ」


 エルフィが慌てて口を挟んだが、紬はすでに次の写真へと指を滑らせていた。


「あ、これは鏡越しですね。角度がいいです」

「そこまで解説しなくていい」

「エルフィ、かわいいね」


 心春の肩のあたりで、淡い風の輪郭がくるりと渦を巻いた。いつの間にか、フィンまで画面のすぐそばまで寄ってきていたらしい。


「フィン……」

「だって、ほんとにかわいいもん。ミハルも、そう思うでしょ」

「はい。思います」


 心春があっさりと頷くと、エルフィは菓子を口に運びかけた手を、宙で止めたまま固まった。精霊にまで面と向かって褒められたのは、さすがに初めてだったらしい。


「写真もいいですけど、実際に着ているところも見てみたいです」


 心春が画面から顔を上げて言うと、紬がすかさず続いた。


「わたしもです」

「それは、私からはお願いできないです」

「先輩は言えるじゃないですか。一緒に行ったんですから」

「それとこれとは、話が別です」


 すずなの言い訳めいた口調に、紬と心春がくすくすと笑う。エルフィだけが、逃げ場を探すように視線を彷徨わせていた。


「今度みんなで一緒に買い物に行く約束、しましたよね」

「した」

「なら、今日はその予行練習ってことで、少しだけ見せてもらえませんか」


 心春がそう言葉を重ねると、紬も勢いよく乗った。


「そうですそうです。予行練習です」

「なんだ、その理屈は」


 エルフィが呆れたように言い返す。だが三対の視線は、揃って揺るがなかった。


「一回だけです。一回だけ見せてくれたら、今日はもうしつこく言いません」


 紬が指を一本立てて念を押す。


「本当に、それで終わるんだろうな」

「はい」


 三人が声を揃えて頷くと、エルフィは長く息を吐き、諦めたように立ち上がった。


「黒い方だけなら」


 一度隣の家へ戻ったエルフィが、しばらくして黒いレースのドレスに身を包んで現れた。動くたびに、裾のフリルが小さく揺れる。


 居間が、一瞬で静まり返った。


「可愛い……!」


 紬が両手で口元を覆う。


「すごく綺麗です」


 心春も声を弾ませた。


「写真で見るより、断然いいです」


 紬が興奮気味に付け加えると、すずなも大きく頷いた。


「はい。実物は、また違った可愛さがありますね」


 三人の視線を一身に受け、エルフィはドレスの裾を握ったまま、どこに目を向ければいいのか分からないように立ち尽くした。


「もう十分だろう」

「まだ全然見足りません」


 紬の即答に、エルフィは天を仰いだ。


「今度日本に行く時は、白い方も着てみせてくださいね」

「いっそ、その格好のまま日本に行きましょう」


 心春が名案だとばかりに手を打つと、エルフィは絶句した。


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