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【完結】おとぎ話の試練を全部クリアしたら、異世界が帰る場所になりました  作者: ごまだんご
第十一章 南の護り手

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第138話 真の闇の使徒の加護

「そういえば」


 野営地へ戻る道すがら、すずなが思い出したように口を開いた。


「修行を終えてから、レベル測定してないですね」

「言われてみれば、そうだな」


 エルフィが足を止めて振り返った。


「時空魔法も属性魔法も、習得した後に測っていない。ちょうどいい機会だ。戻ったら、ギルドに寄っていくか」

「はい。お願いします」


 すずな、紬、心春の三人は頷き合った。


 野営地でリエラたちに別れを告げると、すずなの足元から黒い霧が広がり、四人を包み込んだ。霧が晴れた時には、見慣れた街のギルドがもう目の前にあった。中へ入って測定室へ向かうと、部屋の中央には淡く光る水晶の台座が据えられている。


「まずは心春からだ」


 エルフィに促され、心春が水晶に手をかざす。魔力が水晶に吸い込まれていく感覚があり、しばらくすると宙に光の文字が浮かび上がった。


【中村心春 レベル29】

 体力:C

 腕力:C+

 魔力:B

 俊敏:B+

 器用:B

 加護

 Silent(サイレント) Step(ステップ)

 Flash(フラッシュ) Step(ステップ)

 精霊術師の加護

 契約精霊

 フィン(風)

 バーニル(火)


「心春さんの伸び幅、すごいですね」


 すずなが驚いたように言った。


「精霊契約は、それだけ負荷の大きい修行だからな。数値以上に得たものは大きいはずだ」


 エルフィが解説した。


「では、すずな」


 エルフィに促され、すずなは水晶の上に手を置いた。


【楠すずな レベル33】

 体力:B

 腕力:B-

 魔力:A

 俊敏:B+

 器用:A

 加護

 Fable(フェイブル) Unbound(アンバウンド)

 Moon(ムーン) Return(リターン)

 Seafoam(シーフォーム) Fate(フェイト)

  Siren(サイレンズ)'s Grace(グレイス)

  Foam(フォーム) Veil(ヴェール)

 Withering(ウィザリング) Rose(ローズ)

  Twin(トゥイン) Bloom(ブルーム)

  Rose(ローズ) Ward(ワード)

 Midnight(ミッドナイト) Bell(ベル)

  Golden(ゴールデン) Hour(アワー)

 時空魔法

  加速/緩速/停止/軌道逸脱

 属性魔法

  火属性魔法

  風属性魔法

  闇属性魔法


「レベル33……」


 すずなはその数字と、体力・魔力・器用の伸びを見つめた。


「順当な伸びだ。特に魔力と器用の値が跳ねているな。属性魔法の習得がそのまま反映されている」


 エルフィが満足げに頷いた。


「ありがとうございます」


 すずなは少し照れながら頭を下げた。


「最後は、わたしですね」


 紬が水晶に手を置いた。心なしか、その手つきには自信が漲っていた。同じように光の文字が浮かび上がる。


【雨宮紬 レベル32】

 体力:B

 腕力:A+

 魔力:B-

 俊敏:A

 器用:A

 加護

 Lunar(ルナー) Sight(サイト)

 Echo(エコー) Sight(サイト)

 Withering(ウィザリング) Rose(ローズ)

  Twin(トゥイン) Bloom(ブルーム)

 真の闇の使徒

 狙撃技術

 Sniper(スナイパー) Shot(ショット)

 Night(ナイト) Strike(ストライク)

 Guided(ガイデッド) Shot(ショット)


「体力と魔力も少し上がってます」


 紬は嬉しそうにその文字を見つめた。


「Aが三つもあります」

「そうだな……ぐっ……」


 エルフィが突然、口元を押さえて息を詰まらせた。目が明らかに水晶の一点に釘付けになっている。


「えっ? どうしたんですか、エルフィさん」


 エルフィのその様子に、すずなが驚く。つられてその視線の先を追い――


「あっ……」


 そう言ったきり、すずなも顔を逸らした。両手で口元を覆い、目尻にうっすらと涙まで浮かべている。


「え? 何があったんですか、お二人とも」


 心春が二人の様子に驚くとともに、そちらを覗き込んで、同じように黙り込む。頬がみるみる赤くなっていく。


「えっ? 三人とも一体どうしたんで……あっ」


 紬も自分のステータスに目を走らせ、ある行でぴたりと視線を止めた。数秒の沈黙の後、その顔が朱に染まっていく。


「なんでこんな加護が……加護なんですか、あれ」


 紬は震える声で水晶に浮かぶ文字を指差した。声が完全に裏返っていた。


 エルフィはしばらく顔を背けて壁を眺めていたが、やがて一つ咳払いをして、ようやく真剣な表情を取り戻した。


「説明する」

「お願いします……!」


 紬が縋るような目で見つめる。


「加護というのは、本来、生まれ持った資質や、大きな試練を経て刻まれるものだ。だが稀に、別の形で定着することがある」

「別の形、ですか」

「本人が強く自己を定義した状態で、極限まで力を発揮し続けたとき。その在り方そのものが、加護として世界に刻まれることがある」


 エルフィは淡々とした口調で、それでも一語一語を丁寧に選ぶように語った。


「お前はクレアとの修行の間、片目を封じ、片手を封じた状態で、幾度となく極限の集中を強いられた。その状態で自らを『真の闇の使徒』と繰り返し定義し続けた」

「そ、それは、その……勢いで……!」

「勢いであっても、関係ない。魂に刻まれるほど繰り返せば、それはお前という存在の一部として、世界に認識される」


 エルフィの言葉に、紬は言葉を失った。両手で顔を覆い、指の隙間から絶望した目だけを覗かせている。


「つまり……もう、消せないんですか」

「消せない。加護は一度定着すれば、生涯その者について回る」

「そんな……!」


 紬は頭を抱え、その場にがっくりと膝をついた。すずなはその隣で、なんとも言えない表情を浮かべながら、紬の背中にそっと手を添えた。


「大丈夫、紬さん。加護があること自体は、悪いことじゃないと思うよ」

「先輩……でも、これ絶対に説明が面倒なやつです……!」


 紬は涙目になりながら、水晶の文字をもう一度見つめた。


「ちなみに」


 エルフィがそこで、少し声のトーンを落とした。


「この手の加護は、稀にだが実際の戦闘能力に影響を及ぼすこともある」

「え……」


 紬が恐る恐る顔を上げた。


「片目と片手を封じた状態での戦闘経験が長かった分、実は通常時よりも、その状態での命中率や反応速度が、わずかに高い数値を示している。参考記録として水晶に残っていた」

「つまり……」


 心春がおずおずと口を挟んだ。


「あの格好の方が、紬さん強いってことですか」

「そういうことになる」


 エルフィが頷いた。


 沈黙が測定室に落ちた。誰も、何も言えなかった。


「わたし、これからずっとあの格好で戦うんですか……」


 紬は消え入りそうな声で呟いた。


「必ずしもそうとは限らない。だが、いざというとき力を発揮しやすい形があるというのは、悪いことではない」


 エルフィの慰めにもならない慰めに、紬は深いため息をついた。


「わたしの人生、どこで、こんなことに……」

「紬さん、大丈夫。似合ってるから」


 すずなが優しく声をかけた。だが、その口元は隠しきれない笑みで緩みきっていた。


「先輩も笑ってる……!」

「わ、笑ってないよ……!」


 すずなは慌てて表情を取り繕おうとしたが、口元だけがどうしても言うことを聞かなかった。隣で心春も、両手で口を押さえて必死に笑いを噛み殺している。


 測定室の中に、しばらくの間、紬の情けない呻き声と、それを堪えきれない三人の忍び笑いが響いていた。


「まあ」


 エルフィが話を締めくくるように口を開いた。表情はもうすっかりいつもの無表情に戻っていたが、目の奥にはまだ微かな笑いの余韻が残っていた。


「加護は使い方次第だ。真の闇の使徒としての力も、いずれ南の脅威に立ち向かう際の、大きな武器になるだろう」


 その言葉に紬は複雑な表情のまま、それでも小さく頷いた。


「頑張ります。真の闇の使徒として」

「その意気だ」


 エルフィがあっさりと頷いた。


「なんなんですかー!」


 紬の叫びが、測定室の外に響き渡った。

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