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【完結】おとぎ話の試練を全部クリアしたら、異世界が帰る場所になりました  作者: ごまだんご
第十章 理を束ねる者

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第123話 風の理

 翌日、すずなは再びガスコンロの青い火を思い浮かべながら、指先の炎に意識を集めていた。


 密度を高める感覚は、昨日よりも掴みやすくなっている。橙色の炎の中心に黄色が滲み、その奥から白みが広がっていく。昨日は一瞬で消えてしまったその色が、今日は指先に留まり続けていた。


 そして白の真ん中に、ほんの一瞬だけ、砂粒ほどの青がちらついた。


「今、青が……」


 声を上げた途端、青は白に溶けて見えなくなった。けれど白い芯は、消えずにそこにある。


「見えたな」


 すぐ側で炎を見つめていたエルフィが頷いた。


「昨日までとは別物の熱だ。感覚を掴んだな」


 大きさはそれほど変わらないのに、放たれる熱気は明らかに違っていた。炎の周りだけ、空気が陽炎のように歪んで見える。


「大きさを追うことと、密度を高めること。この二つを組み合わせられれば、火の基礎はほぼできたと言っていい」

「本当ですか」

「ああ。青を保てるようになるのは、実戦の中で磨いていけばいい」


 エルフィの言葉に、すずなの胸が高鳴った。


「お疲れ様でした、私」


 小さく呟くと、隣でエルフィが鼻を鳴らした。


「まだ早い。それは次の属性を終えてから言え」

「次、ですか」


 身構えるように背筋を伸ばしたすずなを前に、エルフィは腕を組んだまま、意味ありげに間を置いた。


「そうだな。やはり、闇にするか」


 すずなは黙ってエルフィを見つめた。前にも聞いた台詞なのに、今日のエルフィの目は少しも笑っていない。


「冗談、ですよね?」

「半分は本気だ。闇属性は使い手が少ない。扱えれば貴重な戦力になる」

「でも闇だと、どうしてもあの装束が浮かんでしまって」

「何を言っている」


 エルフィは怪訝そうにすずなを見上げた。


「お前は既に、闇の力を使っているだろう。忘れたのか」

「え?」

「Moon(ムーン) Return(リターン)。あの黒い霧は、闇と時の理が重なったものだ。お前の加護とはいえ、根にある力は紛れもなく闇だ」


 すずなは息を呑んだ。月の力を借りたあの夜に纏った黒い霧は、言われてみれば、闇そのものと呼んでいいものだった。


「そう言われると……」

「今さら拒む理由もないと思うがな」

「そういう問題じゃない気がします」


 こめかみを押さえて唸るすずなを、エルフィはしばらく眺めていた。やがてすっと視線を逸らし、独り言のように呟く。


「すずな、わたしもあの服装を……」

「え?」

「なんでもない」

「今、絶対何か言いましたよね?」

「聞き間違いだ」


 エルフィは珍しく早口で返し、わずかに顔を背けた。その耳の先が、心なしか赤く染まって見える。


「エルフィさん、もしかして」

「本題に戻るぞ」


 すずなの追及を遮るように、エルフィは強引に話を切り替えた。


「次は、風にする」

「風、ですか」

「お前の身のこなしを見ていて、思っていた。動きの速さを活かす戦い方をするなら、風との相性は悪くない」


 Fable(フェイブル) Unbound(アンバウンド)を軸にした自分の戦い方は、正面からの力比べよりも、身軽さを活かす場面の方が多い。レインに教わった加速とも、きっと噛み合う。次に風を学ぶのは、自然な流れに思えた。


「風の使い方は、大きく分けて二つある。一つは、自分の体の動きを底上げする使い方。もう一つは、相手を吹き飛ばしたり切り裂いたりする攻めの使い方だ」

「私は、どちらから」

「前者からだ」


 エルフィは即答した。


「動きを底上げする使い方は、ほかの属性と組み合わせやすい。火で攻め、風で動く。この二つが揃えば、戦い方の幅は格段に広がる」


 すずなが頷くと、エルフィは一歩前に出て向き直った。


「では、始めるぞ。まずは風を感じることからだ」


 すずなは目を閉じた。頬を撫でる風に、意識を向ける。


「ただ吹いているだけだと思うな。風には流れの筋がある。どこから来て、どこへ抜けていくのか、肌で辿ってみろ」


 言われてみれば、風は一様ではなかった。左の頬に当たる風と、髪をさらう風とでは、強さも向きもわずかに違う。足元の草をくぐる低い流れもあれば、耳の横を抜けていく速い流れもある。


「左から、少し上に向かって抜けています。足元にも、別の流れが」

「そうだ。それが筋だ」


 すずなはその筋を一本ずつ辿っていった。辿るほどに、風の形がおぼろげに浮かび上がってくる。


 けれど、ふと先ほどのやり取りが頭をよぎった。すずなは薄目を開けて、エルフィを見た。


「エルフィさん、ゴスロリって言葉、ご存じですか?」

「なんだそれは」

「闇の使徒より、もう少し華やかな感じの服なんですけど。今度日本に行った時に、見てみますか?」


 エルフィはしばらく黙ったまま、視線をあさっての方向へ泳がせた。


「べつに、興味はない」

「今、少し間がありましたよね?」

「気のせいだ。風に集中しろ」


 言い切る声は、さっきと同じくらい早口だった。すずなはそれ以上追及せず、もう一度目を閉じる。


 風の筋は、さっきよりもはっきりと感じ取れた。その流れの中で、隣に立つエルフィの方からだけ、落ち着かなげに揺れる気配が伝わってくる。


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