第100話 南のギルド
南のギルドに転移すると、エルフィはすぐさま辺りを見回した。
「一緒に調査した奴らはいるか」
「あ、はい。ガレットさんたちを呼んできます」
そう答えると、すぐにその場を離れた。
「受付嬢、ギルド長を呼べ。あと部屋を貸せ」
エルフィの短く鋭い指示に、近くにいた受付嬢が息を呑み慌ててその場を離れていった。
「こちらへどうぞ」
別の受付嬢が、一同を案内する。案内された部屋は、応接用らしい落ち着いた造りだった。テーブルを囲むように椅子がいくつか並んでいる。
程なくして扉が開き、初老の男が姿を見せた。杖を手にした、いかにも魔法使いらしい佇まいだった。物腰は穏やかだが、こちらを見定めるような視線には長年この地を預かってきた者の重みがあった。
「これは、エルフィ様、シェイラ様、レイン様」
メイルはそう言いながら、丁寧に一礼した。デカゴンランクの一人として、この街のギルド長を務めている人物だった。
「メイル手を貸せ」
エルフィは挨拶もそこそこに、そう切り出した。
「お前も知っていると思うが、南の異変だ」
メイルの表情が一瞬で引き締まった。穏やかだった目元から、すっと柔らかさが消える。
「例の、封印のことですか」
「そうだ」
二人が短く言葉を交わす中、部屋の扉がノックされ再び開いた。心春とガレットたちが姿を見せる。
「心春、説明しろ」
エルフィがそう促した。
心春は一度深く息を吸うと、努めて落ち着いた声で順を追って語り始めた。
「発端は数日前の調査依頼でした。こちらのギルドから、周辺の魔獣に異常な動きがあるという報告があって。私は応援としてこちらに呼ばれました」
ガレットが隣で小さく頷いた。
「森の奥で発光する地面を見つけました。うっすらとした光で、一定の強さを保ったまま消える様子もなくて」
「その場所には、何か特徴的なものは」
「地面自体に、模様のようなものが見えました。詳しくは確認できませんでしたが、円形に近い形をしていたと思います」
心春の言葉にシェイラがわずかに目を細めた。
「魔法陣の残滓かもしれない」
その呟きに部屋の空気が、一段と張り詰めた。
「それと、もう一つ。最初に訪れた時は、周囲に魔獣がうろついていたんですが、二度目に向かった時には、その姿が完全に消えていました」
「消えた、というのは」
「気配すら感じられませんでした。まるでその場所から逃げ出したか、最初からいなかったかのような」
「魔獣が本能的に避けるような、強い異常が発生しているということか」
「私も、そう思います」
心春はそう答えながら、あの日感じた違和感を思い出していた。理屈では説明できないけれど確かに感じ取った、あの空気の重さ。
「正直、俺もあの場所には近づきたくなかった」
ガレットが低い声でそう漏らした。
「長年この街で依頼をこなしてきたが、あんな気味の悪い感覚は初めてだ」
「エルフィさんに相談したところ、すぐに皆さんを呼びに向かうことになりました」
心春が話を締めくくると、部屋の中にしばらく重い沈黙が落ちた。
「メイル、どう思う」
エルフィがそう水を向けた。
「この街のギルド長として、長年この一帯の異変には目を光らせてきたつもりです」
メイルは顎に手を添えながら、慎重に言葉を選んだ。
「魔獣が気配ごと消えるというのは、単なる縄張り争いや天候の変化では説明がつきません。それに、円形の模様というのも気になります。過去の記録にある、封印関連の術式に近い特徴です」
「お前も、そう見るか」
「はい。楽観できる状況ではないかと」
エルフィは小さく頷くと、静かにそう口を開いた。
「間違いない」
「あの場所は、昔、封じた扉のある場所だ」
その一言にガレットたちが、息を呑む音が聞こえた。
すずなは思わず紬と顔を見合わせた。心春もまた、自分が最初に感じたあの違和感の正体に、ようやく輪郭が与えられたことに、静かに息を詰めていた。
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