4 ロジストとミュッセの過去
俺は立ち上がると、その場の皆に言った。
「それじゃあ、俺はその8階層のマンティコアを駆除してから行くから――お前たちは注意して戻ってくれ」
「な――」
カストルが驚きの声をあげる。
「おい! マンティコアはBランクモンスターだぞ! そもそもBランクモンスターは11階層から下にしか出現しない。8階層にBランクモンスターが出てくることなんてないから、俺たちもやられたんだ。……お前が行って、どうにかできるもんなのか!?」
俺は笑って、親指でミュッセを指さした。
「なあに、今回はこのミュッセ先生がいるからな! 楽勝だよ!」
ミュッセにカストルたちの視線が集まる。
「あ……いや――その…」
「な、ミュッセ先生!」
「先生はやめろ……」
ミュッセはそう言いながら苦虫を噛み潰したような顔をしている。が、俺は構わずにミュッセと一緒に、立ち上がる。
「そんな奴を放っておいちゃ、他のパーティーも被害に合うかもしれないからな。じゃあ、ちょっくら行ってくらぁ」
「あ――」
レイカが声をあげた。俺は振り返る。
「どうかした?」
「……いや――あたしも……連れていってくれないか。あのマンティコアを……あんたたちが、どう倒すのか――見たい」
俺はカストルを見る。
「カストル、リーダーはお前だろ。お前が判断しな――彼女をこの状態で連れて行って、危険性はないか。リスクを犯すだけの、学ぶ価値がそこにあるかどうか」
「……わかった。よし、全員で行こう。オレたちはまだCランクパーティーでレイカはまだ入ったばかり。今後の活動のために、しっかり見ておこう」
俺は頷いた。
「じゃあ――みんなで行くか!」
そう言って俺たちは、皆で八階層へと向かった。
しかしその途中の七階層でも、無論、モンスターは出現する。
俺は一番前を歩きながら、気配を探る。
狭い洞穴を進んでいると、突如、向うの曲がり角から気配を感じた。
「来るぞ、警戒しろ!」
「「おう!」」
曲がり角を曲がって現れたのは――ジャイアント・フロッグだった。
要は巨大カエルだ。ゲコゲコうるさい声をあげながら、群れでジャンプしながら現れる。
「まとめての方が早いな」
俺はホルスターから空間銃を抜くと、火炎弾のカートリッジを取り付けた。
「火炎弾!」
二、三発ぶち込むと、カエルの群の中で巨大な爆炎が出現する。
カエルがそれで、少し後退した。
「な――なんだ、あれは?」
「あれがロジの魔道具らしいんだ」
驚くレイカに、カストルが説明している。
しかし巨大カエルの群は、まだ怯むことなく進んでくる。
爆炎の中から飛び出てくる巨大カエルを、俺は通常弾で撃ち抜いた。
俺はミュッセに声をかける。
「取り逃がしは頼むぜ」
「わかった」
何匹か取りこぼすが、それをミュッセが魔法攻撃する。
「アーク・ナイフ」
光のナイフが飛んでいくと、カエルを一瞬で両断した。
カエルの群を片付けると、俺たちはさらに先へ進む。
やがて階下に降りる通路にたどり着き、俺たちは8階層まで降りていった。
しばらく進んでいたが、カストルが口を開く。
「オレたちがマンティコアに遭遇したのは、この先だ」
「よし、注意して行こう」
さらに歩を進める。と、俺たちは広い空間に出た。
その先には川が流れている。
その川のほとりに――奴はいた。
マンティコアだ。ライオンに似た獣の頭と胴体、コウモリの翼にサソリの尾。
奴もこちらに気付いた。
「グルルルル……」
唸っている。俺はミュッセに言った。
「行くぞ、俺が足止めしてる間に決めろよ!」
「おい、ロジ! ……ったく」
俺はミュッセの返事を聴く前に駆け出す。
――こんな感覚は久しぶりだ。俺の脳裏に、過去のことが思い浮かんできた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
五年前、ロジストとミュッセは二人で荒野を駆け抜けていた。
ただし駆け抜けると言っても、その速度は普通じゃない。
ロジストは踏んだ足の直下を膨張させる『飛行走法』で空中を走っていたし、ミュッセは電撃魔法で身体強化する『稲妻走法』を使っていた。
「――ロジスト、これで前線に間に合うのか?」
走りながらミュッセが口にする。それに対し、ロジストは真剣な面持ちで答えた。
「間に合わせるんだ――何があっても!」
ロジストの飛行走法がさらに加速し、ミュッセは慌ててそれに追いすがった。
やがて二人は戦場地帯に突入する。
「皆、生きてるか!?」
ロジストは声をあげた。
塹壕を掘り進んでいた前線の兵士が、ロジストの登場に沸いた。
「ロジスト少佐だ!」「少佐が来てくれたぞ!」
兵士たちは塹壕から戻り、ロジストを囲んだ。
「補給物資だ!」「治療薬も来たぞ!」
ロジストは兵士たちの前で、次々と光キューブを圧縮解除する。
「食料も治癒薬も充分にある。みんな、よく持ちこたえた!」
ロジストの声で、兵士たちが歓声をあげる。
と、そこに現地の指揮官であるガーナー中佐がやってきた。
「ありがとう、ロジスト少佐、それにミュッセ少佐。これでこの前線もしばらく持ちこたえる事ができる」
「戦況はどうですか?」
ロジストの問いに、ガーナー中佐が渋い表情を見せた。
「敵の遠距離魔法部隊の一斉掃射が厄介で、なかなか近づけません」
ロジストはミュッセを見る。その視線に、ミュッセは頷き口を開いた。
「救援物資が届き、戦意が高揚してる今が、進撃の機会でしょう。――一時間後に敵地の砦に突撃をかけましょう」
「しかし……敵の防衛攻撃がきつく――」
ガーナー中佐の言葉を、ロジストが遮った。
「俺とミュッセで、敵の攻撃を凌ぎます。隊はその機に進撃してください」
「二人が――? いや……判った」
ガーナー中佐は、二人の自信ありげな態度に頷いた。
そして一時間後、兵士たちは攻撃準備に入っていた。
「じゃあ行くか、ミュッセ。そっち半分は任す」
「判った――よし、行くぞ!」
ミュッセとロジストが、塹壕から飛び出す。
と、当然のように、二人に対し一斉攻撃が行われた。
火炎弾が雨のように降って来る。その中をミュッセはジグザグに走りながら、電撃の防御壁を形成した。
「サンダー・シェイド!」
稲妻のようにジグザクに素早く走るミュッセに、そもそも狙いが絞れていない。それでも数で当たる火炎弾を、ドーム状の電撃壁は完全に防いでいる。
かたやロジストが飛び出した先にも、火炎弾が雨のように降り注いだ。
ロジストはそれを、足を止めて見ている。
「ほぉ、やはり大した数だ」




