5 そして……ロジの日常
ロジストはそう呟くと、両手を広げた。と――
飛んでくる火炎弾の一つ一つを包むように、光のキューブが現れた。
「圧縮」
一瞬で――数多くの火炎弾が、光の小さなキューブへと変わる。
光のキューブは手の中に収まるように集まっていき、それを納めながらロジストは駆け出す。
まだ飛来してくる火炎弾を、ミュッセとロジストはぞれぞれの方法で突破しながら砦へと接近する。二人は高く、厚い城壁へとたどり着いた。
「ミュッセ、少し防御頼む」
「判った」
ミュッセが電撃防壁を張る中、ロジストは城壁に向けて掌を向ける。
城壁そのものに、5m×5m×5mの光の立方体を入れ込む。
「圧縮」
突如、城壁に綺麗に切り取られたような空間が開く。
切り取られた城壁の空間は、圧縮されてロジストの手の中に収まった。
城壁の向うに、驚いた敵兵が見える。
ロジストはその敵兵に向けて、光のキューブをばら撒いた。
「お前たちの火炎弾だ――返すぜ」
投げたキューブが圧縮解除され、火炎弾になって敵兵へと飛んでいく。
「な――なんだ!」
「どうして、城壁が!?」
驚く中、敵兵を幾つもの火炎弾が襲う。
そこにさらに、ミュッセが電撃の範囲魔法を轟かせた。
「ボルト・スパーク!」
電撃にやられた敵兵たちが、バタバタと倒れる。
そこに進軍してきてきた軍が、空いた城壁の隙間から砦内部へと突入した。
砦の内部は一気に混戦状態となる。ロジストを狙って斬りかかって来る兵士もいた。しかしロジストは、斬りかかって来る兵士に掌を向ける。
光の立方体が、振り上げた剣を包んでいる。
「圧縮」
すると兵士の剣が、柄の上から圧縮されて消えた。
「あ! ――け、剣が!」
「悪ぃな」
ロジストはそう言うと、兵士を前蹴りで蹴とばす。
しかしさらに別の兵士の一団が接近してくる。ロジストはその空間に手を向けた。
「膨張」
急激にそこの空気が5m×5mほどに膨張し、向かって来ていた兵士たちがその膨張に跳ね飛ばされた。
「うわぁ!」
そして床に転がった兵士たちは、ロジストたちの友軍が襲い掛かる。
形勢は明らかに友軍優勢で、戦いはほどなくして終わった。
投稿する者、傷ついた者――そして命を落とした者。
周りが戦いの勝利に沸く中、ロジストはボゥッと独りで、戦場を見つめていた。
「――どうした」
そこにミュッセがやってくる。
「戦いに勝ったというのに――うかない顔だな」
「勝利というのが、大勢の敵兵の死によって成立するものなら……」
ロジストはミュッセの方は見ずに、独り言のように呟く。
「勝利というのは、悲惨と裏表だ」
ミュッセは神妙な顔をして、ロジストに言った。
「前線で失われる兵士の命を救いたい――そう言って、今回の作戦を決めたのは、お前だぞ」
「味方を救うということは、敵が救われない……そういう事が見えてない、ガキの考えだったよ」
ロジストは自嘲気味にそう言うと、その場を離れた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
あの時よりは、少しマシな大人になってるのだろうか?
……そんな事は判らない。むしろ、無責任になった分、悪くなってるかもしれない――。
「ロジ、来るぞ!」
少し物思いにとらわれてる俺に、ミュッセの声が飛ぶ。
見ると、マンティコアが口から火炎弾を幾つも吐き出していたのだった。
俺は掌をかざした。火炎弾の数は24。
その全てに、光のキューブをつける。
「圧縮」
火炎弾の全てが圧縮されて消える。
「え……?」
「な――なんだそりゃ!?」
後ろでカルストとレイカの声がする。……そういや、ここまで見せたことはなかったか。
「ミュッセ先生、後は頼むぜ!」
俺が景気よく言うと、光魔法を指先にともしたミュッセが、その指先をマンティコアに向けた。
「ディバイディング・ブラスター!」
凄まじい熱量の光線が発射されたかと思うと、マンティコアの右半分が消し飛んだ。まったく――抵抗する暇もなかっただろう。
「え……瞬殺?」
「だから、ミュッセ先生は凄いって言ったろ?」
俺は唖然とするレイカに、そう笑ってみせた。
* * *
ギルドに戻り、ミュッセが帰る時間になった。
「じゃあな、ミュッセ」
「ロジスト……」
俺は少し怪訝な顔を見せたが、まあ許すことにした。
「最初は、縄で縛ってでもお前を連れて帰るつもりだったが……」
「俺が意外に、この暮らしを楽しんでるって判ったろ?」
俺の言葉に、ミュッセは苦笑した。
「お前がこの暮らしを楽しんでるかどうかは……私には判らない。ただ、お前がこの街の人々に必要とされてることはよく判った。それを無断で奪うというのは……街の人にも酷だろう」
ミュッセはそう言うと、真面目な顔に戻った。
「しかし『変幻の魔将』と呼ばれたお前の働きを――国の中央部も求めてる。それはお前も理解しておいてくれ」
「一部が求めても、一部は煙たがる……そういうのが、国の政だろ?」
俺はそう、うそぶいて肩をすくめてみせた。
「そうかもしれん……だからこそ――私には、信用できる友が必要なのだ」
ミュッセが俺を見つめる。
俺は軽く笑った。
「……お前、くどく相手を間違えてるぞ」
「なに?」
「相変わらず、独り身なんだろ。着てるもので判る。相変わらず、他人に触れさせない完璧な着こなしだ」
ミュッセは俺の言葉を聴くと、急に顔を赤らめて咳き込んだ。
「わ、私の話はどうでもよかろう!」
「せっかく来たついでだ、少し女性に声かけたらどうだ? あのメイドのサリーなんて、オススメだぜ」
俺が言うと、ミュッセが少し、食堂で動き回るサリーを見る。
「なかなかの……美形だな」
「いいだろ? あれでアラフォーには見えねえよな」
俺がそう言うと、ミュッセが激しく咳き込んだ。
「な! な! なんだと! ――お前、知ってて……」
「なんだよ、ちょうどいいつり合いじゃないか」
「バ、バカ! この……大馬鹿者め! ――もういい、お前なんかにはつきあっておられん! 帰る!」
ミュッセはそう言うと、踵を返した。
ギルドを出て、馬に乗って帰るミュッセの後ろ姿を見送る。
「じゃあ、ミュッセまたな~」
「もう来ぬわ!」
ミュッセは振り返りもせずに去っていった。
「フフ……やれやれだ」
俺は少し笑うと、ギルドの食堂に戻り今日の疲れを癒す一杯を頼もうとした。
「おおい、サリー! こっちにビールくれ!」
大きな声をあげたが、サリーはなんだか冷たい顔だ。
あれ? これ、ヤバい奴か。まさか、あの距離で聞こえてたのか?
と、サリーがつかつかと歩いて来る。
「ロジさん。なんか、余計なこと言ってませんでした?」
「いや……あの…ビールを――はい、自分で注いできます。すいませんでした!」
俺は睨むサリーから逃げるように席を立ち、厨房へと駆けこんだ。




