3 飛行走法
掌を向けて、光の線でできた立方体で石材を包む。なんとか5m×5m×5mに収まる容量か。
「圧縮」
俺はその山になった石材を一気に圧縮して、1㎤のキューブにしてしまう。
「お~、相変わらずすげぇなぁ、お前の魔法」
「これしかトリエがないからね」
感心する現場監督に、俺は笑ってみせた。
「それじゃあ、それをダンバー侯爵邸の作業現場へ持っていってくれないか」
現場監督は、報酬を俺に渡すととともにそう依頼した。
「了解だ。任せといてくれ」
俺は報酬を受け取ると、フレアに乗ってまた街へと戻る。
馬を並べたミュッセが言った。
「こんな仕事もしてるのか?」
「たま~にな。いつもやってるとアテにされすぎて抜けられなくなるから、たまにやるのがいい」
「あの量の石材は荷馬車で運べば、結構な運搬費用だ。これはそれなりの報酬を貰わないと、見合わないんじゃないのか?」
ミュッセの訝る顔に、俺は軽く笑って見せる。
「それなりに貰ってちゃあ、向うもお得感がなくなる。なにせ俺は――安さが売りだからな!」
ビシィッっとキメ顔をしてみせたが、ミュッセにはいまいちピンと来なかったらしい。
その後、石材を届けて俺はギルドに戻ってきた。
「あ~、働いた、働いた。もう今日は店じまいだな」
俺はそう言いながらギルドの食堂へ向かう。
サリーの今日のメイド服は、と――
「お、サリー、今日は白とピンクか。相変わらずエロ可愛いねえ」
「もう、ロジさんてば。今日はもう終わりですか?」
「ああ。ビール二つ頼むよ」
「は~い!」
向かいに座ったミュッセが、口を開く。
「二つってもしかして、私の分か?」
「もちろんそうだが、なんか問題か?」
「いや……まあいいが。ロジ――これがお前の仕事か?」
「そうだよ」
俺はサリーの持ってきたビールジョッキを掴むと、ミュッセに向けた。
「それじゃあ、旧交を祝してカンパーイ!」
「乾杯って……ロジ。真面目に言うが、あんな仕事では大した額にはなるまい。お前ほどの実力がありながら、あんな街の小遣いみたいな仕事をするのは――」
ミュッセが真面目顔で小言を言いそうな気配を見せた時、俺は懐の中で振動を感じた。
「む――ちょっと待て」
俺は懐から、シグナル受信機を取り出した。
それは小さな機械だが、その結晶が赤く光っている。
「赤か――まずいな」
「どうした、ロジスト?」
「悪いが野暮用ができた。一人で呑んでてくれ」
俺はそう言うと、駆け出した。
「あ、ロジ――何処へ行く!」
俺はもう答えずに、ギルドの外へ出る。
走る俺は、通りで気力を全身に満たしてさらに速度を上げる。そして――
「飛行走法!」
踏み足の下の空間を膨張させ、その膨張の反動を足場にする。
踏み出す足の下を次々と膨張させることで、俺は上空へと駆けあがった。
「お空を飛んでる~」
子供が眼下で驚きの声をあげる。俺は軽く微笑んでおいた。
「厳密には、お空を走ってるんだがな」
踏み足の下を一気に膨張させることで、一歩が5m近くに伸びる。
俺は街外れにある迷宮の入り口まで辿り着いた。
「――おい! 迷宮に入るのか!?」
後ろから声がするので振り返ると、ミュッセが魔法走法を使って走って追いかけてきていた。
「待ってろって言ったのに」
俺は苦笑するが、走りは止めない。
そのまま洞穴に入り込むと、洞穴の天井近くを駆け抜ける。
モンスターらしいのも出てくるが相手にはしない。
そのまま階下に降りる竪穴を降りて、どんどんと迷宮の下階層へと降りていく。
地下五階――六階。此処だ!
地下六階には俺が造った休憩所がある。そこに緊急信号で俺に知らせる、シグナル機械が置いてあるんだ。
「大丈夫か!」
俺は声をかけながら休憩所に入る。と、そこにいたのはカストルと、その仲間だった。
「ロジ! よかった、来てくれて」
「いつでも駆け付けるさ。で――」
見ると、休憩所の簡易ベッドに寝てるのは、あの女剣士レイカだ。
カストルが苦しそうなレイカに言う。
「しっかりしろ、ロジが来てくれた! もう、大丈夫だ!」
「……ウソだろ…ほんとに――10分で来るなん……て――」
レイカが薄目で俺を見ながら、声を洩らす。
俺は近づいて微笑んでみせた。
「安くて速いのが自慢でね。――で、どうしたんだ?」
「8階層で、本来遭遇するはずのないマンティコアに遭遇したんだ。それで――レイカが毒にやられた」
「そうか、判った」
俺はポーチからキューブを取り出す。
「圧縮解除」
圧縮解除すると、救急セットが現れる。俺はそれを開くと、中から解毒剤を取りだした。
レイカの上半身を起こして、口元に解毒剤を持っていく。
「これを呑むんだ」
「う……」
半開きになっているレイカの口に、なんとか解毒剤を流し込む。
と、解毒剤を呑みこんだレイカの顔色が、よくなってきた。
「他に怪我してる奴は? 治癒薬と回復薬もあるぞ」
「オレとライナーが少し怪我してる。貰っとくぜ」
カストルがそう言って、治癒薬と回復薬を持っていった。
俺は回復薬をとって、レイカに渡す。
「毒にやられた後は、体力も消耗する。回復薬も呑んでおくといい」
「あ……あぁ……」
レイカは少し赤くなりながら、回復薬を口にした。
「ん……少し体力が戻った気がする」
「そうか、それならよかった」
俺は微笑んで、上半身を支えていた腕を放す。
――と、追いついてきたミュッセが、息を切らしながら休憩所に入ってきた。
「ロジ……お前、いつもこんな事をしてるのか?」
「だから、待機任務だって言ったろ」
俺は笑ってみせる。
「此処のシグナル発信機が押されると、俺は10分以内に此処に駆け付ける。青の場合は危険性はなく、ただ狩ったモンスターなどの荷物が多いからその運搬を頼むだけ。赤のシグナルはメンバーに危機がある場合で、俺は普段から用意してる救急キットを持って駆け付ける。解毒や石化解除、麻痺回復や治癒、体力回復なんかをその場で施す。……まあ、そういう感じさ」
俺の説明に、レイカとミュッセが驚きの顔をしている。
と、そこにカストルが声をあげた。
「だから俺たち冒険者は、何かがあっても、この六階まで辿り着けば助かる――そう思って、なんとかこの六階まで這ってでも帰って来る。そういう訳で、このロジには、俺たちは一目も二目も置いてるわけさ」
「そう……だったのか――」
レイカが少し涙目になりながら、上目遣いに俺を見る。
「先ほどは……すまなかった。それに――助けてくれて、ありがとう」
「気にすんなよ。それに別にサービスじゃないからな、薬代はちゃんともらう」
俺はそう言って笑ってみせた。
その視線の先には、神妙な顔をしたミュッセもいた。




