第二話 待機任務 1 その名はロジスト
ここは国境の辺境の街ファーイット。中央からは遠く離れているが、俺は結構気に入ってる。
「――何より、酒が美味い!」
「どうしたんですか、ロジさん? っていうか、今日も待機任務ですか?」
白黒でミニスカすぎるエロいメイド服のサリーが、俺に話しかけてくる。
俺は笑顔で答えた。
「そう、待機任務。それよそれ」
「ほどほどにしてくださいよ、ロジさん」
「ありがとう、サリー。今日も可愛いよ」
「もちろんです!」
サリーはそう言うと、可憐な笑顔をみせて歩いていく。後ろ姿を見ると、もうキュートなお尻が見えそうなほどのスカートだ。
ほら、周りの連中も、やっぱり見てる。サリーもあれ、わざとやってるんだよな。
「そういや聞いたか、西の話」
「前線の方?」
「ああ。なんでもまた至近距離の攻撃演習があって、一触即発だったらしいぞ」
「やれやれ、戦争はやめてほしいな」
隣ではそんな話をクエストにあぶれた冒険者がしている。
ま、確かにね。そこは俺も同意だよ。
――とか思うけど声には出さず、俺はビールをあおった。
う~ん、朝から呑む酒は美味い! 他人が働いてると思うと、なお美味い。
と、そんないつものギルドの風景の中に、見慣れない人物が入ってきた。
高級魔導士服を身に着けた、品のいい感じの男――
「ヤバい……」
俺は慌てて視線を逸らす。
と、男はギルドの中を見回しているが、入り口の方にはお目当てはなかったらしく、奥へとやってくる。
「いらっしゃいませ~」
「すまないが……人を探してるんだ」
高級魔導士は、声をかけてきたサリーにそう告げた。
「このギルドに、運び屋をやってるロジという男がいると聞いてやってきたんだが――」
やばい。奴は、俺のことを探してる。
俺は背中を向けて、奴の方を見ないようにした。
「ああ、ロジさんですね。ロジさんならそこの席で、待機任務中ですよ」
ああ! どうして言ってしまうんだ、サリー! 君は可愛いが、ちょっとおしゃべりだぞ。
と焦ってる間にも、男はこっちに近づいて来る。
そして男は、俺の前の席に座った。
「――見つけたぞ」
男はそう言った。俺は観念して、奴の顔を見る。
さらさらな金髪と整った顔立ち。その着てる高級服も、ここには相応しくないほどの上質なものだ。
「……どなたですかね」
「忘れたとは言わせないぞ、ロジスト」
「あ~っっ!!」
俺は慌てて、声をあげた。
「サリー、勘定置いとくぞ、じゃあな!」
俺はテーブルに勘定を置くと、慌てて席を立つ。
「おい待て! 何処へ行く!」
「何処へ行こうと、俺の自由だろ」
「少し待て、ロジ――」
そう俺を呼び掛けた男の顔面を、俺は掌で抑える。
「うわっぷ! な、何をする!?」
「気安く人を呼ぶんじゃない。――黙って、ついてこい」
俺はギルドの外に出ると、街の中にある森林公園に足を運んだ。
その木陰のベンチに座ると、俺は息をつく。
「ふぅ……まったく、何だってんだよ――」
「それはこっちのセリフだ、ロジスト。いったい――」
「ちょっと待て!」
俺はまだ立って俺を見ている男に告げた。
「いいか。此処では俺のことはロジと呼べ。そうしないなら、何の話もしない」
「……ロジで通してる、というわけか。まあ、それならそうしてもいいが――お前がロジスト・ポーターズである事実は変わりはしない」
高級魔導士服の男は、俺に厳然としてそう告げた。
「お前のそういう頭の固いところが嫌いなんだよ。……俺に何か用か?」
「なにかようか……だと?」
端正な面立ちの男に、憤りが満ちてきた。
「お前をどれだけ探したと思ってるんだ、ロジスト! この三年間……私はお前を探し続けたが、ずっと何の手がかりもなかった――」
「それがどういう訳で、ここが知れたんだ?」
俺は疑問に思って、そう訊いた。男が答える。
「二週間前、この地方のギャング一家が一晩にして全滅したとの報告を受けた。眼を止めるような報告でもなかったのだが――なにか気になって、調べさせたのだ。全滅の経緯は不明だったが、そのギャングがやっていた悪行のなかに、興味深いものがあった。それがミナカ村への物資運搬の妨害、というものだ」
俺は黙って話を聴いている。
「その妨害を破るために、この地方では有名な運び屋のロジという男が、村に物資を見事に運んだ。ギャングが全滅したのは、その直後だったという。――これを読んでピンときた。こんな事をし、できるのは、ロジスト……お前しかいないと」
男はそう言って、俺の眼を見つめた。
「さあ……知らねえな」
「隠しても無駄だ、ロジスト。根っこが変わってないぞ」
そう言って男は、俺の眼を凝視した。俺は息をつく。
「……やれやれ。で、事の詳細を知るために、わざわざ宮廷魔導団、団長のミュッセ様がわざわざお越しですか?」
俺はそう男――宮廷魔導士団のトップ、ミュッセ・フォン・エリクラートにそう言ってやった。
ミュッセは俺を見つめたまま、息をつく。
「そんな事の詳細はどうでもいい。私の要件は判っているだろう。――ロジスト、宮廷魔導士団に戻って来てくれないか」
「断る」
「即答か!」
ミュッセは困り顔をした後、手で顔を抑えた。
「……どうしてだ、ロジスト。お前は宮廷魔導士として――もっとも輝かしい功績をあげ、トップの実力を持っていたんだぞ。それが何故、こんな辺境の街で朝から酒を呑むような生活をしてる? お前ほどの能力があるなら、他にやることがあるだろう!」
ミュッセは俺に、そう訴えた。その真剣さ――それに俺の事を思って言っている優しさが判って、俺は思わず苦笑した。
「笑ってる場合か、ロジスト!」
「ここじゃ、ロジって呼べって言ったろ。――俺はな、もう宮廷魔導士の仕事とか、名誉とか地位に興味がねえんだよ。そういう事は、そういう事に興味がある奴がいっぱいいるだろ? そいつらに任せとけよ」
俺がそう言うと、ミュッセは息を深く吐いて、ベンチの俺の隣に座った。
「そういう問題じゃないだろ、ロジスト。お前――こんな僻地で、朝から酒呑んで何もしないような人生を、これからずっと送るつもりか? それでいいわけないだろ?」
「別に酒だけ飲んでるわけじゃないぜ。これはあくまで待機任務だ」
「何が待機任務だ。別に何にも待機などしてないだろ?」
ミュッセは俺の顔を見ると、静かに息をついた。
「……別に、宮廷魔導士に戻らなくてもいい。お前が、お前なりに仕事し、そこで生活をしてるんなら、私もそれで納得できたと思う。しかし、今のお前は――過去から逃げてるようにしか見えないぞ」
ミュッセは真面目な顔で俺を見つめる。俺は軽く、息をついた。
「逃げずに戦えってか? それはそういうのが得意な奴に言ってくれ。俺はしがない運び屋なんだ。戦わずに逃げられるなら――それが一番いい」
俺はそう苦笑してみせる。だが、ミュッセは静かに言った。
「逃げ切れるものではないぞ、ロジスト……。私と一緒に――戻って来い」
「いやぁ……ちょっと無理だな。俺はこう見えても、色々仕事があってだな」
「酒を呑んでて、まったく仕事に行く気などないように見えたが?」
怪訝な顔をするミュッセに、俺は笑ってみせた。
「これから行く所だったのさ! じゃあ、ちょっくら仕事するかな~」
俺はそう言ってベンチを立つ。しょうがない、本当に仕事するか。
俺は街を歩いて行くが、その後ろをミュッセがついてくる。
やがて一軒の小さな食堂に俺は到着した。扉を開けて、俺は声をあげる。
「おやじさん、おばさん、調子はどうだい?」




