5 深夜の襲撃
夜、フレアを走らせた俺は、チュゲンの街に入る。
静まり返った街のなかで、俺は西南部にある廃工場を見つけた。
「これだな――渦巻の矢印」
壁に大きな渦巻の矢印が書いてある。
フレアを離れた場所で待たせて、俺は廃工場へと忍び寄った。
深夜だが灯りがついていて、まだ騒いでる連中がいる
俺はポーチから一つキューブを取り出した。
「圧縮解除」
キューブが、鉤のついたロープの束になる。
俺はそれを持って回すと、工場の屋根に向けて飛ばした。
うまくひさしに引っかかる。
そのロープを伝って、俺は上の方にある窓の傍へと登っていった。
「――まあ、今回たまたま物資が運べたって、ずっとそうできるわけじゃねえ!」
「だな。結局、通行料を払って泣きついて来る。そこでさらに通行料をあげて、村を財政難に落とせば、鉱山を売りに出すさ」
「そうすりゃあ俺たち、ひと儲けできるぜ!」
「瘴石も取れるしな。ありゃあ、使い方次第だ!」
ガハハハと、下卑た笑い声が響いた。
「……まったく同情の余地がないか。――安心したぜ」
俺はロープを降りて、地面に立った。再びロープを圧縮してしまう。
「じゃあ、自業自得という理を、思い知らせてやるぞ」
俺は銃を抜くと、ポーチから特殊弾丸のカートリッジを抜いて取り付けた。
「岩石弾!」
俺は立て続けに空中に向かって連射する。
――と、工場の上空で弾丸の圧縮が途切れ、5m×5m×5mサイズの岩石の塊が突如として現れた。
しかもそれは俺の発射した弾の数だけ現れる。
いきなりまず、5個ほどの巨大岩石が、工場の屋根に落下した。
轟音と共に、工場の天井が破壊され、その内部まで岩石が落下していく。
岩石群はあっという間に落下し、俺はさらに10発の岩石弾を空中に向けて発射した。
「――な、なんだ――」
「ギャアァァッ!」
轟音と悲鳴が、破壊されていく工場から響いて来る。
15発の岩石弾は工場の天井を完全に破壊し、その内部も崩壊させていた。
だが俺はさらに工場の入り口に向けて、別のカートリッジの弾丸を発射した。
「火炎弾!」
125㎥サイズの巨大な火炎弾が、工場の建物を襲う。
入口は完全に火の手があがり、もうそこから誰も出てくることはできない。
俺は打ち壊された工場に、くまなく火炎弾をぶち込んでやった。
破壊された上に火をつけられた工場が、業火をあげて夜を赤く照らしている。
「まあ……こんなところか」
俺は燃え上がる炎に呟いた。
こいつらを野放しにしておけば、結局、あの村は何も助かるところがない。
何より――こいつらは、俺の『荷運び』を邪魔しやがった。
それは許されない罪だ。
燃え崩れていく廃工場に入っていき、俺は巨大岩石を回収しにかかった。
「圧縮」
巨大岩石を回収する。
まだ燻っている工場跡には、ゴリス一家の連中らしい焼死体が幾つもあったが、俺は気にせず岩石を回収した。
その最後の一個を回収した時、その下敷きになってた男がいた。
黒髪を伸ばし、顔の右側に大きな傷のある男だ。ちょっと雰囲気がある。
「ん? こいつがゴリスか?」
「が……う…あ――」
驚いたことにまだ生きている。これだけの巨大岩石の下敷きになったら、普通死ぬだろ。なんてタフな奴だ。
「だ…れだ――お前は……」
「俺は通りすがりの運び屋だ。お前がゴリスか?」
「そうだ……礼はする――俺を…治癒士のところへ……運んでくれ」
ゴリスは血走った眼を見開いて、俺に懇願した。
俺は懐から、ある物を取り出してみせた。
「これが何が判るか?」
ゴリスは眼を見開いている。俺は指に持ったそれを、ゴリスの目の前まで突きつけた。
「これはお前らが荷運びを邪魔しようとした薬だ。まあ、今は空瓶だがな。お前たちは瘴気毒病を蔓延させ、街道を通れなくした上で村を要求に応じるように追い込んだ。――そうだな?」
ゴリスは何も言わず、恐怖に眼を見開いている。
「お前には判ってない……この薬の重みがな。お前がしたことのせいで、村人は病気に苦しめられ、既に3人は命を落としたと聞いている」
「た……助けてくれ――」
俺の話を聴いてるのか聴いてないのか――ゴリスはそう命乞いした。
「お前には、薬の重みを教えてやる」
俺はそう言うと、ゴリスの頭上に薬瓶を投げた。
その薬瓶が空中に浮かぶ中、俺は掌を向けて光の線で薬瓶を囲う。
「膨張」
薬瓶が急に巨大サイズに変わり、その大きさと重量でゴリスの顔に落下してくる。
「ヒッ――ヒィィィィィ……」
ゴリスの悲鳴は、その途中で巨大薬瓶によって潰された。
俺は掌を向けて、膨張を解除する。
潰れたゴリスの顔の傍に、薬瓶が転がった。
「少しは命の重みってもんが判っただろ」
俺はそう言いながら、薬瓶を回収する。
そしてフレアの処に戻り、何食わぬ顔でルーファの家に戻ってソファで寝た。
「――おはようございます、ロジさん」
「ん……あぁ、おはよう」
少し寝過ごしたらしい。俺が起きると、ルーファが朝食を作っていた。
白いエプロンが可愛らしい。
「朝ごはん、できましたよ」
「ん、いただこう」
テーブルの上にベーコンエッグとサラダが並んだ。温かいスープもある。
一口食べて、すぐに判った。
「美味い。ルーファは料理もなかなかだな」
「本当ですか!? 嬉しい!」
ルーファはそう言って、顔をほころばせた。
しばし俺は美味い朝食にありついていたが、俺を見ながらルーファが言った。
「昨夜、ロジさんに言われたこと、自分なりに考えてみたんです。……そもそも、わたしってどんな生き方がしたいんだろうって――」
「……結論は出たのかい?」
ルーファは首を振った。
「判りませんでした。わたし、この村で、ずっと言われるように生きてきたので――けど、そう思った時、ふっと湧き上がる気持ちがある事に気が付いたんです」
「なんだい?」
ルーファは俺の顔を真面目な眼で見つめた。
「村の外に出てみたい」
ルーファは俺に真剣に訊いてきた。
「ロジさんは運び屋さんだから、色んな処に行ったんでしょう?」
「まあ……そうだな」
「わたしは、この村しか知らない。だからまず、村以外の場所を知りたいなって――中途半端ですか?」
「いいや、全然」
俺は首を振って笑ってみせた。
「いいんじゃないか。君は何処にだって行ける」
「……村が落ち着いて流通ができるようになったら――わたし、村を離れてみようと思うんです。……いつになるか、判りませんけど」
いや、それは案外すぐだ。と、俺は思ったが、何も言わないでおいた。
「それまでは、ロジさんに荷運びをお願いしようと思ってるんです。――ご迷惑でしょうか?」
「大歓迎さ。ただし言っておくが――俺は安いぜ」
俺はコーヒーを飲みほした後に、そうキメ顔で言ってみせた。




