4 内通者
俺は村長の言葉に、思わず鋭い目つきを出した。
「瘴気毒病を――わざと発生させた?」
「はい。まったく鉱山と関わりのない家の者まで瘴気毒病にかかり、おかしいと思って調べたところ、床下に瘴石が置いてあったりしたんです」
……許せん。――外道のやる事だ。
「それで、その件に関して国に報告は?」
「群の太守はゴリス一家を野放しにする方策で、調査も何も入ってません。儂らは――泣き寝入りです」
村長は悔しそうに言った。けど、それをとりなすように、ルーファが言う。
「けど、村の巡回を交代でやるようになったし、とりあえず今いる患者はいなくなったから、これでなんとか頑張れるわ」
「けど、街道は通れないままなんだろう?」
俺がそう言うと、ルーファは笑った。
「また街に買い物が必要な時は、ロジさんに運び屋をお願いしますわ」
そう言って、ルーファは可憐な笑顔をみせた。
「ま、俺でよければいつでも引き受けるさ。なにせ俺は――安いからな!」
俺はビシッと、そこだけはキメといた。
宴も終わり、皆が片づけを始める頃、ルーファが俺に言った。
「ロジさんは、今夜はわたしのうちに泊まってください」
「君の家? わかった」
そうして先に歩いていくルーファについていく途中、俺は暗闇の中の気配に気づいて横を見た。
こちらを監視してた奴が、慌てて逃げていくのが判る。
俺は無言で走り出すと、逃げる奴を追いかけた。
その背中を見て、後ろの大腿部に向けて一発撃つ。
「ぐあぁっ!」
逃げようとしていた男が倒れる。男は40代くらいの冴えない感じの奴だ。
そこにルーファが駆け寄って来る。
「どうしたんですか、ロジさん。――あ!」
「知りあいか?」
「村民の……ゲスルドさんです」
俺は足を撃たれて動けなくなってるゲスルドに、一発パンチをお見舞いした。
「ぐはぁっ!」
「……お前だな、ルーファの買い付けを一家に知らせたのは? それに恐らく、各家の軒下に瘴石を置いたのも、こいつだ」
「そんな!」
「違う! 俺じゃない! 信じてくれ、ルーファ。俺はただ、お前に横恋慕して見てただけだ。それをいきなりこいつが撃ったんだ」
ゲスルドはそう言って言い逃れようとする。俺は言った。
「こいつの家は何処だ? 家探しすれば証拠が出るだろう」
ゲスルドの顔が引きつった。
その後、俺たちは村長たちとも一緒に、ゲスルドの家を家探しした。
バカみたいに物持ちの言い奴で、ゴリス一家からの依頼書や、瘴気が洩れないようにカプセルに詰めた瘴石まで出てきた。もう言い逃れはできなかった。
「――おい、一つ訊きたいんだが、ゴリス一家のアジトは何処だ?」
「……言わねえよ」
「そうか」
俺はその辺にあった壺を手にすると、ゲスルドの脚を払って仰向けにした。
「ここで問題だ。俺の能力は、物を圧縮したり膨張させたりする力だ。今、手に持っているこの壺を巨大化させたら、壺の重さはどうなると思う?
1、元の壺の重さ 2、巨大化した分の重さ 3、むしろ密度が薄まって軽くなる ――さあ、どれだと思う?」
そう言いながら、俺はゲスルドの真上で、壺を少しずつ大きくしていった。
もう直径が1mくらいにはなる。
「ひ……まさか、2? いや、むしろ3の可能性も――」
「さあて、正解はお前自身に味わってもらおう」
「判った言う! アジトの場所を教える!」
ゲスルドが恐怖に耐えかねてそう言ったので、俺は壺を元に戻した。
「チュゲン西南部にある、廃工場が奴らのアジトだ。目印は――渦巻く矢印だ」
「よーくできました。ちなみに正解は2な。荷馬車を圧縮すれば、その小ささに見合った重さになる。当然、逆も同じで、膨張させれば、その大きさに見合った重さになるぜ。よかったな、お前自身で味あわなくて」
ゲスルドは安堵のため息をつくが、俺は村長に言った。
「こいつを憲兵に突き出して、ゴリス一家の手口を証拠と一緒に提出することですね。運が良ければ、ゴリス一家にも査察が入るかもしれない」
「何から何まで――本当にありがとうございます、ロジさん」
俺は軽く笑うと、そこをルーファと出た。
「まあ、これで少しは気が楽になったんじゃないか?」
「はい! ロジさんのおかげです。じゃあ……我が家にいらしてください」
「そうさせてもらうよ」
ルーファの家は小さな小屋だった。
「狭い処ですけど……どうぞ」
ルーファが入っていくのに続いて、俺も部屋に入る。
と、ルーファが背中を向けて、立ち止まってる。
「どうした?」
その時不意に、ルーファが上着を脱いで床に落とした。
その背中が月明りに照らされている。
「おいおい……俺は依頼人には手出さない主義だって言ったろ?」
「けど――もう依頼した仕事は終わりましたから……。こんなに色々してもらったのに、十分な返礼もできなくて――せめて、わたしでよれれば……」
そう言うとルーファは、胸を腕に抱いたまま振り返った。
俺は頭を掻いた。
「そうしろって……村の長老あたりに言われたのか?」
ルーファの顔色が少し変わる。
「図星か――しょうがないな、本当に」
「いえ! けど、わたしは初めてなら――ロジさんがいいと思って……それで自分の意志です!」
ルーファは必死な顔で、俺の傍に寄ってきた。
俺は苦笑する。
「気持ちは嬉しいけどさ。君みたいな綺麗な子、俺にはもったいなくて何もできないよ。それにさ……君も、もっと自分自身を大事にした方がいい。村の事ばかり考えてないで」
「え……?」
戸惑うルーファに、俺は上着を拾って肩からかけてやった。
窓際になんとなく移動して、俺は口を開く。
「そもそもだけどさ、自分は椅子に座ったままで他人に危険なことをやらせる大人の言う事なんざ、信頼しちゃダメだ」
「けど……村のみんなのおかげで――わたしは育ってこれたんですし……」
「だから――言われるままに好きでもない男と寝ます? って、そんなのダメだろ。本当に君の将来を心配してる親なら、そんな事はさせない」
俺の断言に、ルーファは、はっとした顔をした。
「ほら、冷静になれば君もそう思うだろ?」
「けど……わたしは――好きでもない、なんてことじゃ…ありません」
「ダメダメ。依頼人として知り合って二日しか経ってないんだよ? 俺がどんな人間かなんて知りようがない。人を好きになるってのはさ……もっと時間をかけて、相手を理解した上で生まれてくる感情だよ」
俺がそう言うと、ルーファは必死になって言った。
「けど! 世の中には一目惚れというものがあるじゃなりませんか!」
「じゃあ、俺に一目惚れした? そうじゃないだろ。それに一目惚れなんて、勘違いか妄想だ。大事なのは、ちゃんとした理解」
俺がそう言うと、ルーファは自分の強弁に気付いたようで押し黙った。
「あ、君を責めてるんじゃないんだ。それに若い娘も利用しないと、村が存続できないっていう村の年寄りの気持ちも判る。あの人たちを責めたいわけでもない」
「じゃあ……」
「うん。恩義を感じるのは判るけど、自分の人生は自分で決めることができるんだ。君はもっと自分を活かす生き方――そういう道だってあるんだよ、って言いたかっただけ」
俺の後ろにそっと立つルーファを、俺は降り返った。
ルーファは胸を押さえて、月明りの中で俺を見つめている。
「わたしを――活かす道……? そんなものが、何処かにあるんでしょうか?」
「何言ってるんだ。君の身体強化魔法はかなり有用だぞ。君が働きたいです! って言ったら、何処だって君を迎えてくれるさ」
「そ、そうなんですか……?」
「そうだよ。もっと自分に自信を持っていい」
俺はそう言って、笑ってみせた。
「というわけで、俺はそっちのソファで寝かせてもらう。おやすみ、ルーファ」
「お……おやすみなさい」
俺がソファに横になると、ルーファは自分の寝室へと去っていった。
――そして深夜。
俺は一人起き出して……夜の闇を駆け抜ける。




