3 依頼の背景
夕食が終わると、ルーファは感心したように口にした。
「ロジさんて……生活力高いですねえ。結婚はされてるんですか?」
「いいや。俺みたいなオッサンには、ちょっと縁のない話かな」
「え! ロジさん、おっさんて感じじゃないですよぉ。それに……凄く…いいと思います」
ルーファはちょっと恥ずかしそうに言った。
「そう? 嬉しいね、お世辞でもさ。――じゃあ、俺はちょっと野営用の仕掛けを点検してくるから、ゆっくりしてて」
「はい……」
俺は外に出た。すっかり夜になっていて、星が瞬いている。
「ようフレア、隣の彼はどうだい?」
俺は馬小屋のフレアに声をかけた。
フレアが顔を寄せてくるので、撫でてやる。
「そうか。馬も飼い主に似て、いい奴か。よかったな。……あの子の荷物、確実に届けてやろうな」
「フルルル――」
俺はハウスに仕掛けた防御装置をチェックして、ハウスに戻る。
と、ルーファはクッションにもたれるように、うつらうつらしていた。
「おっと、ルーファ、お疲れだったんだろうな。気も張ってただろうし――ルーファ、ちょっとだけ起きてくれ」
「あ! わたし――寝てました…よね?」
ルーファが恥ずかしそうに、うつむく。
「何にしろ明日は早いから、もう寝よう。ルーファはそっちのベッドを使って」
「……いいんですか?」
「一応、そのためのベッドだからね。あ、安心して。俺は依頼人に手出したりしない主義なんで。それじゃあ、おやすみ」
俺はそう言うと、もう一つのベッドに入りこむ。
既にベッドに潜りこんだルーファから、声がした。
「ロジさん、おやすみなさい」
そう言った後に、すぐに寝息が聞こえてきた。
やっぱり、疲れてたんだな……。ゆっくり、おやすみ。
そして翌朝、俺たちは早めに出立した。
このペースなら、予定通り今日中にミカナ村に到着できる。
そう思いながら馬を進めていた俺たちに、突然、巨大な火炎球が降ってきた。
「――ルーファ、危ない!」
俺は降ってきた火炎球に掌を向ける。
「圧縮!」
火炎球が圧縮されて1㎤のキューブに変換される。キューブは自然に俺の元へと飛んでくる。
だが、火炎球はまだ次々と降りかかってきていた。
「圧縮、圧縮、圧縮、圧縮――」
俺はそれを片っ端から、圧縮しまくる。何処かに魔導士が潜んでいる。
飛んでくる火炎球の弾道を逆算すると――あの辺りの茂みか。
俺は空間銃を抜いて、特殊ホルスターを装着して一発撃った。
「火炎弾!」
その茂みに当たる直前、弾丸は巨大な5m×5mの火炎弾へと変化する。
茂みに着弾し、火炎球が爆散する。
これで――どうだ? と思ってると、俺の後方から気配を感じた。
「圧縮!」
振り返って、気配を圧縮する。それは飛来して来た矢だった。
それは斜め後ろの崖の上から射られたものだと思った。
「こっちにもいたのか」
そっちにも火炎弾をお見舞いしてやる。
崖の上で炎が立ちのぼったが、どうやらそれで敵は退散したらしい。
「どうやら攻撃は止んだようだな――」
「ロジさん……ありがとうございます!」
ルーファが頭を下げる。しかし俺は渋い顔をして言った。
「依頼の時は、対人間の危険がある、なんて話はしてなかったと思うが?」
「本当に申し訳ありません! ……けど、まさか――ここまでするなんて……」
ルーファも恐怖と当惑の色を隠しきれてない。
「……ま、しょうがない。とりあえず村はあと少しだ。荷物を運んでしまおう」
「は、はい」
やがて俺たちはミカナ村へと到着した。
適当な処で荷馬車を戻し、馬で引いてきた体にする。
ルーファが村に入ると、村人たちが駆け寄ってきた。
「ルーファ、おかえり! 荷物を――薬を持って帰れたんだね!?」
「うん。この中に積んでます。みんなで手分けして、患者の人たちに運んでください」
「わかった」
村人たちはそう言うと木箱を取り出し、まず薬を持って各家へ走り出した。
ルーファも薬を持って、一軒の家に入る。
「ベンゾさん、薬を持ってきましたよ」
ルーファが声をかけながら入ると、その家の女が駆けてきた。
「あんた、ルーファが薬を持ってきてくれたよ。これで――死ななくて済むよ!」
ルーファの差し出した薬を受け取ると、女は奥の部屋に寝かされている男にそれを飲ます。
「……やはり瘴気毒病かい?」
俺は顔色や息の感じを見て、ルーファにそう言った。ルーファが頷く。
「はい。村の山奥に魔晶石鉱山があるんですが……魔晶石の鉱脈傍にはかなりの率で瘴石鉱脈もあるらしく、大勢の村人が瘴気毒にかかってしまうんです」
「しかし……マスクなんかの予防策と、早めの対策で重篤化することはないはずだが?」
俺がそう疑問を口にした時、寝かされていた父親が、身体を起こした。
母親が持ってきたたらいに、大量の血を吐く。
「うむ……けど、すっきりしたぞ。多分、これで大丈夫だ」
「あんた、一応、もう一本」
もう一本薬を飲むが、もう血は吐かない。どうやら完治したようだった。
「ルーファ、ありがとう。お前さんは、村の救世主だよ」
「そんな――。ここにいるロジさんが、運んでくれなかったら、村まで薬を運ぶことはできませんでした」
「ありがとうございます、ロジさん」
俺は軽く笑って言った。
「俺は頼まれた仕事をしただけだよ」
その晩は、村をあげての騒ぎになった。
集会所に村人が集まり、薬を持って帰ったルーファと俺を、盛大に称えよう――というパーティーらしい。
村で獲れたという野菜や肉で出てきた料理は、どれも美味かった。酒もなかなかだ。病魔の危機が去り、村人の顔に明るい笑顔が輝いていた。
――こういう顔を見ると、この仕事も悪くない……そう思う。
だが、俺にはどうにも気に入らないことがあった。
「ルーファ、道中で狙って来た連中は何者だ? あたりはついてるんだろう?」
「それは……」
ルーファは言いよどんでいる。俺は別の言い方に質問を変えた。
「そもそもだが、街へ行くのに、危険な荒野を使わずとも、中間都市のチュゲンを抜ければよかったんじゃないのか? どうしてわざわざ危険な道を?」
「――それは、儂からお話ししましょう」
そう言って口を開いたのは、この村の村長、ガレッドだった。
「実はその街道を通るとすると、高額な通行料を請求されるのです」
「通行料? そんなこと国はやってないだろ?」
「はい、請求してくるのは、あの辺一帯を根城にしてるギャング、ゴリス一家です」
まあ、ある程度、予想はしていたが。
「で、そのゴリス一家の眼を盗んで、街に薬の買い付けにルーファ一人を向かわせたのかい?」
「村長を責めないでください。わたしから言い出したことなんです! わたし一人だけだったら、最悪、身体強化魔法で逃げ切れるので……」
なるほど。
「実は通行料というのも、嫌がらせの一つにすぎません。奴らの狙いは魔晶石鉱山なんです」
「鉱山を自分たちのものにしたがってる、と。それを拒否したら、通行料を取るという嫌がらせを始めた」
「実は……確証のないことではありますが、村に瘴気毒病の患者が増えたのも、それ以降です」
……なんだって?
村長の言葉に、俺の中に静かな怒りがたぎってきた。




