2 圧縮ハウス
先を走ってるルーファが、いきなり疾走してる馬から飛び降りた。
落馬したのか?
「ルーファ!」
俺は牙ジャッカルを撃ちながら声をあげる。こんなこと、想定外だ!
――が、本当の想定外はそれからだった。
ルーファは大地に降り立つと、そのまま馬と一緒に走り出す。
見ると、身体がオレンジの光を帯びている。
「身体強化魔法か!」
身体を強化したルーファは、馬より早く駆けていく。逆に馬の手綱をルーファが引っ張っているくらいだ。
呆気にとられた後に俺は、思わず笑い声をあげた。
「アッハッハ! こりゃあいいぜ、ルーファ。それなら、牙ジャッカルも追いつけないってもんだ!」
そう言いながら、追いすがろうとする牙ジャッカルの群を、俺は空間銃で狙撃した。
牙ジャッカルの数は多いが、銃は連射できる。
既に十五匹ほど仕留めたが、まだ群れは諦めてない。
「意外にしつこい連中だな」
俺は腰のポーチの中から、氷塊弾のカートリッジを取り出して銃にセットする。
「こいつを喰らいな」
引き金を引く――と、数m先で突然、125㎥サイズの巨大な氷塊が現れる。
これは前もって、俺が圧縮していた氷塊だ。
巨大な氷塊に押し潰されて、何体かの牙ジャッカルが一気に下敷きになる。
牙ジャッカルの悲鳴が、原野に響いた。
巨大な氷塊で、ジャッカルを押し潰した俺は、さらに引き金を立て続けに引いた。
「氷塊弾連射!」
5m×5m×5mクラスの氷塊が次々と現れ、壁を作る。
「ギャオウッ!」
「グウゥッ!」
瞬く間にできた壁に、牙ジャッカルたちは足止めされた。
氷壁の向うで、牙ジャッカルたちが唸り声を上げている。
「ま――これでもう諦めるだろう」
俺は苦笑して息をつくと、先に走るルーファに声をかけた。
「おぅい、ルーファ!」
走るルーファがスピードをゆるめ、俺はフレアで追いついた。
「足止めしといたから、もう大丈夫だろう」
「……ロジさん、凄いんですね。モンスターをなんだか――よく判らない魔法でやっつけてしまって――」
ルーファは驚いたように口を開いた。
俺は思わず笑った。
「おいおい、凄いのは君だろう? まさか身体強化の魔法を持ってるなんて――先に教えといてくれよ」
「あ……ごめんなさい。けど、戦ったりするのには使ったことなくて――。荷運びとか、逃げるのにしか使ったことないんです」
「なるほど」
俺は妙に納得した。――と、ルーファは自分のことより、俺の魔法に感心したようだった。
「それよりロジさん、なんか武器を使ってましたね? あれが大丈夫って意味だったんですね?」
「まあ、そういうこと。俺の魔法は空間を圧縮したり、膨張させたりする魔法だってのは話したよね?」
「はい」
俺は空間銃を取り出した。
「この空間銃はアルミ製の弾丸を発射する魔道具なんだ。前もって空間を圧縮しといて、その圧縮空間を弾丸の尻につける。で、引き金を引くと、魔法が解除される魔石が仕込まれていて、圧縮した空間が一気に膨張する力を利用して弾丸が発射される――という仕掛けなのさ」
ルーファは俺の説明を聞くと、目を丸くした。
「よく判らないけど……凄いんですねえ、ロジさんて――。あ、最後はなんか大きな氷の塊を出してましたね。あれも前もって圧縮しておいた物、ってことなんですね?」
「そうそう。実はさ、あの氷塊を造ったのは、このザードなんだ」
俺はフードの中でおとなしくしてるザードを振り返った。
ザードがフードの中で、あくびをする。
「びゃあぁぁぁ」
「なんか……モンスターがあんなにいっぱい出たのに――リラックスしてますね」
「ハハハ、こいつ大物だからねえ」
俺はそう言うと、にっと笑ってみせた。
するとルーファも安心したように微笑む。まぁ、よかった。やっぱり依頼人の安心感って大事だもんな。
それからしばらく行くと、さすがに陽が暮れてくる。
俺はルーファに言った。
「ルーファ、今日はもうこの辺で野営しないか?」
「あ……そうですね、そうしましょうか」
ルーファは馬を停めた、俺もフレアを停めた。
「じゃあ、野営の準備するから、ちょっと待ってて」
「あ、テントを張るんですか? お手伝いしますよ」
「いやぁ、大丈夫。そういうんじゃないから」
俺はそう言うと、ポーチから1cm角の光のキューブを一つ取り出した。
「この辺でいいかな」
光のキューブを放り投げながら、俺は魔法を使う。
「圧縮解除」
光のキューブが閃光を放ちながら一気に巨大化し――
――それは一つの小屋になった。
「えーっ!? え……? えぇぇぇっ!?」
「あ、これは俺の野営用ハウスね」
それほど大きくはないが、これも5㎥サイズの小屋で、壁は白塗りのこじんまりした小屋だ。
木製のドアと小さな窓がついている。
「あと、こいつもね」
俺はもう一つ、キューブを投げた。そっちは馬小屋で、フレア用だ。
三頭までは入れられるので、ルーファの馬もそこに入れる。
「さて、じゃあハウスへどうぞ」
俺は扉を開いて、片手を振りながらルーファを招いた。
ルーファはポカンとした表情のまま、ハウスへ入る。
「わぁ……」
中へ入ったルーファが、ため息を洩らす。
中はまあ、ちゃんと小奇麗にした部屋で、小さいながらもキッチンとリビング用のテーブル、そして対角の壁にベッドが二つ置かれている。
「凄い…ですね……。もう、ここで暮らせそう」
「まあ、一応、そういう想定でもあるからね。普段は使ってないゲストルームみたいなものだけど。まあ、その辺に座って」
俺はそう言って笑うと、ザードがフードから飛び降りた。
そのままトコトコ歩くと、ルーファの隣で丸くなる。
「お、ザードの奴、君が気に入ったらしいね。なかなか珍しいんだけど」
「そうなんですか? なんか嬉しい」
ルーファはそう言うと、ザードの喉を撫でてやる。
ザードの奴は、ゴロゴロと気持ちよさそうに、喉を鳴らした。
「少し待ってて、夕食作るから」
「え!? そんなことまでしてもらって――いいんですか?」
「こいつは俺のサービスね」
俺はそう言うと、笑ってみせた。
ま、実際、そうなんだけど。気に入らない依頼人は、ゲストハウスにあげたりしないし。
俺は手早くトマトソースのパスタと野菜スープを作ると、テーブルに出した。
「はい、召し上がれ」
「わぁ……いい匂い。凄く美味しそうです。いただきます!」
「はい、どうぞ」
俺も夕食にありつく。うん、我ながら悪くない。
「仕事中なんで酒はないけど――勘弁ね」
「あ、わたしは飲みませんから」
「いや、本当は俺が呑みたいんだよ」
俺はそう言って、苦笑してみせた。




