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なぜかFランクの運び屋魔導士 ~大切なものをオッサンが届けます!~  作者: さとうはるか


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第一話 俺は運び屋   1 万年Fランクのオッサン

 俺が求めてるのは、ラクで危険度が低くて、高額報酬の仕事。

 ……なぁんて、そんな都合のいい仕事が転がってるわけもなく、俺は朝からブラブラとギルドの一角に陣取っていた。


「お、ロジ、今日も休みか?」


 冒険者の連中が通りすがりに声をかけてくる。


「ま、そんなところかな」

「おい、あんまり休んでると、酒代もなくなるぞ」

「そんときゃ一杯、奢ってくれよ」

「ハハハ、バ~カ。てめぇの酒代くらいてめぇで稼ぎな!」


 冒険者パーティーはそんな軽口を叩きながらクエストに出掛けて行く。

 まあ、仕事に行くんだろうが、こいつは危険がつきものだ。あんな軽口を叩いてた奴が、その日、帰ってこなかった――なんて事もそれなりにある。


 だから俺たち冒険者は日々をなるべく軽く、楽しく生きて行かないと――

 というのは、俺のモットーだ。まあ、なかには真面目な奴もいるだろうけど。


「今日は大したクエストも入りそうにないな。……仕方がねえ、呑むか」


 そうそう、これは仕方ないんだ。決して、怠けてるわけじゃあない。仕方ない、仕方ない。

 俺は鼻歌を唄いながら、ギルド奥の食堂へ向かう。ここにはもう、朝から呑んでる奴もいたりするわけだ。


「よう、ロジ。お前も今日は――待機任務か?」

「そういう事。待機、待機」


 俺は食堂のメイド、サリーを呼び止めてビールを頼もうとした。

 注文ついでに、サリーとちょっと話でもするかな。なんて考えてた俺に、声が聞こえてきた。


「――お願いします。どうしても警護の方が必要なんです!」


 女の声だ。まだ若そう――ちょっと切羽詰まってる感じ。

 それに対して、事務官のメリッサの声がする。


「そうは言いましても、この荷物量でこの地域では、最低三日、Dランク登録者三名の警護が必要です。と、なると必要経費は最低でも――このくらいはかかります」


 この奥のさらに奥に、依頼受付の事務所がある。そこの管理をしてるのがメリッサなんだけど――ドアを開けてるから、ここ結構、声が聞こえるんだよな。


「そんな額では……もう費用が残ってないんです。けど、この物資を村に届けないと……村のみんなが困るんです。お願いです、なんとかなりませんか?」

「なんとかと言われましても――私たちも危険を承知で低ランク冒険者を送るわけにはいきませんし、ランク上の冒険者には相応の報酬を払うのが必要条件です。なんとかお金を工面して……もう一度いらしてください」


 事務官のメリッサの声がそう言う。厳しいようだけど、それが正しい態度だな。

 ギルドは冒険者を守らなきゃいけないし、後続の依頼者のためにもちゃんと成功するプランでクエストを用意する必要がある。


「まぁ、自分でなんとか頑張るしかないでしょ」


 俺はそう呟くと、ミニスカで黒白メイド服のサリーを呼び止めた。


「はい、サリーおはようさん。今日もエロ可愛いねえ」

「おはようございます、ロジさん。今日――も、お休みなんですか?」

「なあに、待機任務だよ。で、俺にもビールを――」


 俺がそう言いかけた時、事務所からまた依頼者らしい女の声がした。


「薬の値段が思ったより上がっていて――お金が残らなかったんです……。けど、一刻も早く、この薬を村に届けないと――村のみんなの命に関わるんです」

「……それは確かに大変なことですが――。でしたら、ギルドからお金を借りてクエストを出しますか? 後に利子分まで払う必要はありますが、とりあえず荷物は届けられるのでは?」


 ――さすがメリッサ、いい判断だ。けど……


「ごめん、サリー。やっぱり、ビールは帰ってからにするわ」

「待機から出動、ですか?」

「そんなとこ」


 俺は軽く笑ってみせると、事務所の方に歩いて行った。

 開いてるドアをノックしながら、声をかける。


「もしも~し」

「あ――ロジさん。……もしかして、今の話を聞いてました?」


 俺に視線を送ったのは、眼鏡をかけてブラウンの髪をまとめている知的美人のメリッサ。と、その向かいに座ってるの声を主が振り返る。声の主は、栗色の髪でまだ少しあどけなさを残してる女の子。歳は――20歳前後か?


「わざと聞こえるようにしてたんじゃないの?」

「そんな事ありませんよ。で――何か御用ですか、ロジさん」


 俺は向かいに座る女の子に声をかけた。


「お嬢さん、言っておくが――」


 少し戸惑ってる女の子に、俺はここぞとばかりにキメ顔をみせた。


「――俺は安いぜ!」


 ビシィッ! ――と、親指で自分を指す。

 ――と、ポカンとしてる女の子に、俺はさらに言葉を続ける。


「なあに、Fランクの俺なら安く雇えるって話。それに俺なら――多分、二日で済む」

「……え?」


 女の子は驚いた顔をする。まあ、当然だろうな。


「あ、俺はあやしい感じかもしれないけど、実はあやしくない運び屋のロジ。どう? 俺を雇ってみる気――ない?」

「え……けどFランクって――それじゃあ、あなたが危険なんじゃ……?」


 女の子はそう言って、俺の方の心配をした。なんだ、見た目通りいい子だな。


「あ、大丈夫だよ、俺なら。――多分」

「多分?」


 心配そうに言う女の子に対し、メリッサが口を開いた。


「正直、納得しかねるところではありますが、ロジさんなら大丈夫です。――多分」

「そうそう! いいねぇ、メリッサ。さっすがぁ」

「いいですか! 私はあなたがFランクのままだなんて、本当は認めてないんですからね!」

「まあまあ、その話はいいじゃないの。――で、ギルドの腕利き事務官のお墨付きもいただいたところで、どう? 俺を雇ってみる気ある?」


 俺が再度そう言うと、女の子は椅子から立ち上がって、深々と頭を下げた。


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします! ロジさん」

「ん~、いい反応だぁ、可愛いなあ」

「え、何か?」


 あ、いけね。心の声が洩れた。と、女の子は気づいて口を開く。


「それじゃ、一人はロジさんという事で、あと二人Dランクの方を雇わなきゃいけないってことですよね?」

「あ~、それも大丈夫。多分、俺一人でなんとかなるよ」

「……え? どういう事です?」


 さすがに女の子が不審そうな顔で俺を見る。と、次にはメリッサに視線を移す。

と、メリッサは眼鏡を押さえて頭が痛いのを堪えてる――という素振りをみせた。


「まぁ……ロジさんなら、多分、大丈夫――でしょう」

「ほぅらね! というわけで、仕事は俺一人で請け負いますよ。メリッサ、いつもありがとう」


 俺はそう言って、メリッサに手を振った。

 メリッサは苦虫を噛み潰したような顔をしてる。


「毎回、特例ばっかり……まったくもう」

「それじゃあ、お嬢さん。急ぐんでしょ? 荷物を見せて」

「あ――はい! あ…あの、メリッサさん、色々ありがとうございました!」


 深々と礼をする女の子に、メリッサは微笑んでみせた。


「いいえ。こちらとしても、心苦しいところでしたから――よかったです。じゃあ、ロジさん、よろしくお願いしますよ」

「……うん、任された」


 俺は頷いてみせると、女の子と一緒に事務室を出る。


「さて荷物は何処かな? え~と……」

「あ、わたしはルーファと言います。荷馬車が裏手に停めてあるんです」


 ルーファはそう言うと、ギルドの裏手の庭に廻った。

 そこに一台の荷馬車が停めてある。中型の少し大きめのサイズで、一頭引き。


「なるほど、このサイズを一頭引きじゃあ、馬もちょっとキツいな。時間もかかる」

「すみません……けど、荷馬車が引ける馬が村にこの子しかいなくて。あ、村はミカナ村です。そこまでこの荷馬車を運びたいんです。――お願いできますか?」


 ルーファは不安そうな顔で、俺を見る。俺は軽く笑ってみせた。


「大丈夫さ。そして、俺なら三日かかかるところを二日で行く。お嬢さん――いや、ルーファが馭者をして運ぶつもりだったんだよな?」

「あ、はい、そうです」

「じゃあ、馬には乗れるな。問題なし、と。もう出発してもいいけど、食料・水なんかはもう積んである?」

「はい、もう積んであります」

「結構。ちなみに――荷物は見ていいのかい? 知られたくないなら見なくてもいいけど」

「いいえ、見てもらって結構です」

 

 ルーファがそう言うので、俺は幌の中を覗いた。

 野菜、穀物の袋、金属用品、そして――薬品と思しき木箱。


「一つ確認したいんだけど、この中に生物は積んでる?」

「いいえ」


 ルーファは首を振った。


「よし、じゃあ出発するか。ちょっと馬を荷馬車から、外すよ」

「え? それじゃあ、荷馬車が運べないんじゃ……?」


 当惑顔のルーファをよそに、俺は馬のいなくなった荷馬車に掌を向けた


「空間把握」


 俺の掌から光が出る。その光は直方体を形成する光の線で、荷馬車を包んだ。


「え? これ……魔法の光?」


 驚いているルーファの前で、俺はもう一言唱える。


「圧縮」


 光の直方体が急速に縮み、俺の指先でつまめる大きさになる。

 1cm角の光の立方体の中に、荷馬車が収まった。そして光は俺の手の中へ。


「え! ええぇぇ!?」

「ま、というわけさ。俺の魔法は空間を圧縮・膨張させる魔法で、これを利用して運び屋をやってる。運び屋専門の魔導士、ロジ。――よろしく」


 俺は、ちゃっと二本指を額のところで振ってみせた。


「す、凄いです! こんな事ができるなんて!」

「で、ルーファはその馬に乗っていく。俺は俺の馬があるから。ちょっと馬と一緒に来てもらっていいかな」


 俺はルーファと一緒に、ギルドの正面に廻った。

 そこに赤い身体、赤い毛並みの馬が一頭つないである。


「フレア、どうやら今日は仕事みたいだぞ」

「フルルル――」


 フレアが首を振って息を吐く。一日つながれてなくていいから、嬉しいらしい。


「こいつは俺の馬、フレイムホースのフレアだ。――美人だろ?」

「はい! とっても綺麗な馬です!」


 ル-ファは目を輝かせてそう言った。この子は馬が判る、と荷馬車の馬を見て思ったんだが、やっぱりか。


「そして、もう一人の俺の相棒――おい、今日は仕事だぞ」


 俺はフレアの腰にかけていた鞄に声をかける。


「びゃああぁぁぁ」


 眠そうな声を出して鞄から姿を現したのは、一匹の猫だ。

 青と白のトラジマで、起き抜けの不機嫌な面を思い切り俺に向けた。


「起こされたからって、そんな不機嫌面すんなよ。こいつはスノーキャットのザード」

「びゃああぁぁぁ」


 あくび代わりに、ザードが声をあげる。と、ルーファが笑った。


「うふふふ……可愛いですね」

「お、よかったなあ、ザード。可愛いってよ」

「びゃあぁぁ」


 俺は元荷馬車の光の直方体を出してルーファに言った。


「じゃあ、こいつは俺が持っていて、村に着いたら元に戻す。そういう手順で、大丈夫だろ?」

「はい! 凄いです、ロジさん。よろしくお願いします!」


 そうして俺たちは、二頭の馬で並んで歩き始めた。

 と、すぐにルーファが声をあげる。


「あ、やっぱり荷物がないから、足取りが軽いです」

「だろ? このペースで行けば、三日のところを二日でいける。ここのところは、別に魔法でもなんでもなくて、単なる計算上の結果」


 俺は馬上で笑ってみせた。

 するとルーファは、少し不思議そうな顔を見せた。


「あの……こんなに凄い魔法が使えるのに、どうしてロジさんはFランクのままなんですか?」

「ん……俺が最初に、馬車に生物がいるかって訊いたよね?」

「はい」


 俺はフレアの手綱を持って、ルーファに答えた。


「俺の空間圧縮は、生物は圧縮できないわけ。厳密に言うと、体長3cm以上の生物は、圧縮できないんだよ」

「はぁ……」

「あ、だから申し訳ないんだけどさ、仮に野菜に虫がついてても、それは一緒に運んじゃう。で、圧縮してる間は時間の流れが凍結してるから、虫も死なない。虫が殺せれば、殺虫サービスできたんだけどね~」


 ほんと、残念だよ。その点に関しては。


「あの……それがFランクのままって事と、どういう関係が?」

「つまりさ、俺の魔法はモンスター相手には使えないワケよ。アイアンベアーが襲ってきました、圧縮で一発――な~んて、都合よくいかないんだな」


 俺は軽く言ったが、ルーファはそれを聞くと、顔色を変えた。


「え!? それじゃあ、ロジさん、わたしたちが道中でモンスターに襲われたらどうするんですか? わたし――戦ったりは…ちょっと――」

「あ、その辺は準備があるから大丈夫。俺はね、地下迷宮に行ってモンスターを退治したりするのには不適切だけど、運び屋としては適切なの。だから厳密に言うと、俺のランクはF+」

「エフプラス?」


 ルーファは首を傾げる。


「そ。基本Fランクなんだけど、それにちょっとプラスアルファあるよ~的な? まあ、そういう訳だから、運び屋としての仕事はちゃんとやるから。大切な荷物を、確実に届ける――それが運び屋の仕事」


 俺はそう言って、にっと笑ってみせた。

 こんな説明で納得してくれるかな? 


「そうなんですかあ……なんだか、素敵ですね、ロジさん。自分の仕事に、誇りがあるみたいで」

「ハハハ、褒められたぞ、ザード。羨ましいだろ」

「びゃあぁ」


 うるさい、と言わんばかりに一鳴きすると、ザードは俺のフードの中に潜りこんだ。


「移動中は、こっちの方が寝心地がいいらしいんだ、こいつ」

「フフフ、可愛いですね」


 ルーファがそう言って笑った。

 ――こんな無垢な笑顔を見せてるが、ルーファは多分、凄く苦労して育ってきてる。

 

 小さな村で人手がなく、若い者もおらず、街で薬を買い付けるような危険のある仕事を、こんな娘が一人でやるというのは……よほどの事だ。

 馬を操る手綱さばきも慣れていて、その細い指は労働の痕で艶をなくしてる。村の危機を、一人で乗り越えようとしてる娘だ。


 ――こんな娘が大切なものを、大切な場所に運びたいっていうなら、それを届けるのが俺の仕事だろ。

 だから俺は自分から出ていって、この仕事を受けることにしたんだ。


 しばらく、ただっぴろい原野を二頭の馬で進む。

 もう夕方が近づいて来てる。――そろそろ、現れてもいい頃だ。


「ルーファ、手綱を持って、走る準備をしてくれ」

「あ――はい!」


 ルーファが表情を引き締めて、手綱を握りしめた。

 俺は周囲の茂みを警戒する。と――そこから数体の影が飛び出してきた。


「きゃぁっ!」


 ルーファが悲鳴をあげる。影はルーファの馬に襲いかかろうとしてる。

 飛びかかる黒い影――それは牙ジャッカルだ。


 下から伸びる二本の牙が異常に発達していて、群れで獲物を襲う獰猛なモンスターだ。単体ではEランク相当のモンスターだが、群れだとCランクパーティーが全滅したこともある。


 俺は腰のホルスターから、空間銃(スペース・ガン)を取り出した。

 銃口を牙ジャッカルに向けて引き金を引く。


 バン、と破裂音のような轟音が響くと――牙ジャッカルが空中で跳んだ。


「ギャンッ!」


 鳴き声をあげて、牙ジャッカルが地面に落ちる。

 俺はルーファに叫んだ。


「全速力で飛ばしてくれ!」

「はい!」


 ルーファの馬が駆け出す。なかなか、いい走りだ。

 俺はその後ろについて、茂みから現れて追いかけてこようとする牙ジャッカルを狙い撃ちにする。


「ギャンッ!」「ガグ――」「ギァクッ!」


 次々と俺の空間銃の弾丸を受けて、牙ジャッカルの身体が舞った。

 俺の空間銃は、前もって圧縮していた空気を引き金を引くことで元に戻し、その膨張力でアルミ製の弾丸を発射する魔道具だ。


 俺の空間魔法それ自体は生物に使うことはできないが、こういう工夫で武器が作れる。――ま、それが俺の準備というわけだ。


 とか思いながら牙ジャッカルを撃ってると、とんでもない事が起きた。

 何を思ったのか――ルーファがいきなり、乗ってる馬から飛び降りたのだ!


「ルーファ!? ――危ない!」


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