84.これから②
「え、私たちが決めていいんですか……?」
私が尋ねると、津守さんは「あぁ」と優しく頷いてくれた。
「むしろ、これまでがイレギュラーだったんだ。事態の迅速な把握や調査のためとはいえ、君たちに頼らざるを得なかったから、随分と危ない橋も渡らせてしまった。だから、今がいい機会かなと思ってね」
これまでは迷宮保安庁の中でのみ対応……ってことだったから、私と執行さんだけでダンジョンに赴いてアンデッドの調査をしてきた。
でも、これからは探索者や探索者事務所にもアンデッド関連の依頼を出すと言っていたから、その必要も絶対ではない。
津守さんの言うみたいに危ない橋はたくさん渡って来たと思う。
ミノタウロスアンデッドとミノタウロス、それから先日のドラゴンゾンビアンデッド。
運が良かっただけで、次も同じような目に遭ったら生きて帰れる保証はない。
だから、ここで止めたいと思うのなら止めても良い、という津守さんの優しさゆえの問いかけなのだろう。
津守さんは本当に優しい。
私たちに無理強いをさせてしまった、みたいに言っているけど、そんなことはない。
一番最初の時から、津守さんは選ばせてくれた。
それはきっと執行さんも同じだろう。
私に顔を向けて、津守さんが口を開く。
「佐々貴君は仕事の範疇だと思っているかもしれない。たしかにアンデッドの調査や事態の把握は迷宮を管轄する迷宮保安庁の仕事と言える。だが、魔物の討伐や主の魔物を倒すといった迷宮の攻略は探索者の仕事であり、保安官の業務内容を超えたものと言っていいだろう」
それから、と津守さんは続いて執行さんに視線を向ける。
「執行君は言うまでもないね。短い期間だったかもしれないが学業との両立は大変だっただろう。来年からは受験生にもなるわけだから、自分の将来も考えた上で決めてほしい」
「……はい」
執行さんは小さく頷いて、思案をしているようだった。
私はどうだろう。
アンデッドの調査を命じられてから、これまでのことを振り返ってみる。
……そりゃあ、最初は「なんで私が?」と思っていた。
でも、姉のためだったし、津守さんや迷宮保安庁の役にも立てたし、何よりも一緒に執行さんがいてくれたから、今では前向きに取り組んでいた。
……。
…………。
うん。
私の心は決まった。というか、決まっていた。
でも執行さんは……?
津守さんが言うように執行さんは高校生だ。
私と違って、アンデッドの調査やダンジョンに行くことは仕事ではない。本分は学業だ。まだ先の話とは言え、来年に受験も控えている。
これまで何度も助けてもらったし、これからも一緒に居たい気持ちもある。
でも、私からそんなことを言っていいはずがない。
もし、自分のために止めたいといったら私も津守さんと同じように尊重してあげないと。
そう思っていると、執行さんが津守さんに尋ねる。
「あの、津守さん」
「ん?」
「これって、これ以上私が関わるのはお邪魔……ということでしょうか」
「いいや、そんなことはないよ」
津守さんが優しく否定する。
「もし、このまま続けてくれるのなら私も迷宮保安庁も大歓迎だ。だけど、さっきも言った通り無理強いはできない。特に執行君は、保安庁のことは考えなくていい。自分のことだけを考えて決めてほしい」
「自分のことだけを……」
「あぁ。我々に気を遣う必要は一切ない」
津守さんの言葉に執行さんは再び俯いて思案を始めた。
と思ったら、その顔が私に向けられる。
「佐々貴さんはどうするんですか?」
「私?」
「はい」
じっと、真っすぐに執行さんに見つめられる。
その質問は、私の答えによっては執行さんの答えも変化するってことだろうか?
私が続けるんだったら執行さんも続ける……みたいな。
だったら嬉しい。
嬉しいけど、迷宮保安官として、大人として、私の意見で彼女の選択を変えさせるわけにはいかない。
「……私の答えは関係ないよ。執行さんがどうしたいのかっていうのを優先しなきゃ」
「そうですけど……」
「ね?」
「……はい」
渋々といった感じで執行さんは引き下がる。
視線を俯けて、膝の上に乗せている両手の拳をぎゅっと握っていた。




