81.アンデッドについて①
東村山ダンジョンでの調査及びドラゴンゾンビアンデッドの討伐から一週間後。
私は改めて津守さんの執務室に呼び出されていた。
来客用のソファに座っている私の正面に津守さんも腰を下ろして口を開く。
「――改めて。東村山ダンジョンの一件はご苦労だったね」
「いえ、執行さんたちのおかげです」
「そうかい? 私も映像を確認したけど、君がかなり無茶をしていたように見えたけどね」
「…………」
津守さんに苦笑を浮かべられて、私は言葉に詰まってしまった。
「別に責めているわけではないよ。ただ、無事で何より。あまり執行君を心配させないようにね」
「……はい」
「さて。前置きもこのくらいにして、佐々貴君をここに呼んだ理由についてだけど」
脚を組んで津守さんが言葉を続ける。
私は姿勢を正して、その言葉に耳を傾けた。
「あれから研究のほうも順調に進んでいるようでね。先ほど研究所から色々と報告があった。そこで君に良い知らせと悪い知らせがあるけど、どっちから聞きたいかな?」
「え……」
不意に映画みたいな二択を迫られて、すぐには答えられなかった。
研究所からの報告で私に伝えたいことっていうと、おそらく姉に関する話題だろう。でも、それが良い知らせなのか悪い知らせなのか分からない。
良い知らせだって信じたい。
だけど、これまでアンデッドを調査して倒してきても、特に進展はなかったのだ。
今回、ドラゴンゾンビアンデッドを倒したからと言って急に進展するとは思えなかった。
……悪い知らせだったらどうしよう。
そう思うと、なかなか答えに窮してしまう。
こういうとき、映画の登場人物たちはどっちを先に聞いてたっけ?
分からない。
ぐるぐると思案が巡っているからか、思い出せなかった。
私の悩む素振りを見てか、津守さんが苦笑する。
そして「あぁ、先に言っておくけど」と言葉を足してくれた。
「別に悪いと言っても、あくまで良い知らせと比較すれば、の話だから安心してほしい。受け取り方は佐々貴君次第かな」
「そう、ですか」
だとしたら、悪くても現状維持って感じかもしれない。
姉が目を覚ます手立ては、今回の東村山ダンジョンの調査結果を研究しても見つかりませんでした……みたいな。
残念ではあるけど、それだったら悪化はしていない。
悪い知らせに違いはないけど、大きく悲観する必要もないだろう。
津守さんの言葉のおかげで、少しだけ気が楽になった。
悪い方の覚悟はできたから、良い知らせから聞くことにしよう。
「……良い知らせのほうからお願いします」
「分かった」
頷いて、津守さんは足を組み替えた。
「君のお姉さんについてだが、目を覚ます可能性が出てきたらしい」
「ほんとですか!?」
驚きのあまり、私はテーブルに乗り上げる勢いで前のめりになった。
はっと我に返る。
津守さんの顔が目の前にあって、慌ててソファに座りなおした。
「現時点ではあくまでも可能性だけどね。ここから更に時間をかけて研究を積み重ねていかないといけないし、絶対に目を覚ますとは断言できない。それは分かっておいてほしい」
「はい、もちろんです」
ただ、それでも大きな前進だった。
今までは、どうして目を覚まさないのか分からない。だから目を覚ますかも分からない、と言われていたのだ。
何も変わらない状態と、僅かでも可能性がある状態では天と地ほどの差がある。
「津守さん、ありがとうございます」
「いやいや、まだお礼を言われる段階ではないよ。それにお礼を言う相手は私ではなくて、お姉さんが目を覚ましたら研究員たちに言ってやってくれ」
「あ、そうですね……」
「そういえば。今回の研究の進展に関して、研究所の奴らが君にお礼を言っていたよ」
「私ですか?」
首をかしげる。
何かお礼を言われるようなことをしただろうか?
「今回、アンデッドの研究が大きく進展したのは君のおかげらしい」
「え?」
「佐々貴君、ドラゴンゾンビアンデッドの体液を大量に浴びていただろう?」
「はい……」
「服に染み込んでいた液体のおかげで研究が捗ったそうだ」
「な、なるほど……」
アンデッドは治癒魔法で倒すと、何一つ残らず消滅する。
だから、これまではアンデッドに関するものは、骨も皮も毛も物質を何も持って帰ることができなかった。
故に研究が進まなかった。
でも、今回は私の服にドラゴンゾンビアンデッドが最後に浴びせた液体が染み込んでいた。それを分析や解析できた結果、色々と進展した。
ということらしい。
だったら、あの臭い液体を浴びた甲斐もあったかもしれない。
……もう二度とごめんだけど。
「これが良い知らせだね。では、もう一方の知らせだけど――」




