79.ドラゴンゾンビアンデッド⑱
……え!?
な、なにこれ!? 気持ち悪っ!?
私が直接手を触れて治癒魔法をかけている箇所の少し上。
そこにあるドラゴンゾンビアンデッドの皮膚がまるで沸騰しているみたいにブクブクと膨れ上がる。かと思うと引っ込む。それを何度も繰り返していた。本当にお湯が沸いた鍋の水面みたいだ。
良く見ると、上側だけではなくて左右の皮膚の表面も同じようになっていた。
ブクブクと泡が立つみたいに皮膚が膨らんだり引っ込んだりを繰り返している。
「…………」
ん~、これは一回離れたほうがいいのだろうか?
でもなぁ……。
今の状態のドラゴンゾンビアンデッドに反撃するだけの力が残っているとは到底思えない。執行さんと久遠さんにやられて、動くことさえままならない状態だ。それに私の治癒魔法によって20%くらいはすでに消滅している。
だとしたら、これはブラフ?
私を一時的に離れさせるのが狙いかもしれない。治癒魔法による攻撃を一旦でも止めさせて、その隙に何か仕掛けてくるつもりなのかもしれない。
……だったら。
ドラゴンゾンビアンデッドが何を考えているのか分からないけど、何かをする気なら、それまでに治癒魔法で消し飛ばしてしまえばいい。
私の決断は続行。
治癒魔法によるトドメは順調に進んでいるのだから、この機を逃すわけにはいかない。
もし、何か反撃的なことをしてきても、たかが知れているだろう。
「……んん!(えいっ!)」
ラストスパート、と私は身体の内側に力を入れて、更に治癒魔法の出力を高めた。
その瞬間。
パンッ!
と、沸騰していたドラゴンゾンビアンデッドの皮膚の表面が風船が割れるみたいに弾けた。音に反応して上を見る。
……え? え!?
頭上から汚い濃い紫色をした液体が降り注いできていた。
驚きのあまり、私は「ごくんっ!」と口に含んでいた解毒剤を思わず飲み込んでしまう。
しまった……と思ったけど、それが良かった。
まるで滝行をしているのか、と思うくらいの暴力的な水量の液体が私の身体に落ちてくる。色や臭いからして、この液体も毒。制御器官を失っているから、熱線や毒霧に比べたら有毒性は低いかもしれない。それでも間違いなく生身で受けてはいけない毒だった。
浴びる瞬間、たまたま解毒剤を飲み込んだおかげで助かった……。
万が一に備えて、口に含んでいたのが正解だった。
その判断のおかげで、あれだけの毒の水を喰らったにも関わらず無傷で済んでいた。
……ただ。
「く、臭っ!?」
毒の成分は解毒剤で分解できても、存在そのものを消せるわけじゃないから臭いや温度までは変わらない。
汗と毒の匂いが混ざって史上最悪な臭いになっていた。
今の私は地球上で最も臭いかもしれない。
しかも、両手をドラゴンゾンビアンデッドに触れさせているから顔の液体も拭えないし、鼻を塞ぐこともできない。本当に臭い。臭すぎる。生温いのも気持ち悪いし、服がびしょ濡れなのも気持ち悪い。気持ち悪い祭りが絶賛開催中だった。
……でも、悪いことばかりではなかったらしい。
破裂した皮膚のあった部分を見る。
沸騰していた部分だけでじゃなくて、半分以上の広範囲が破裂したことによって消滅していた。消滅の度合いとしては70%以上と言っても良いかもしれない。
そして、ドラゴンゾンビアンデッドの真っ黒い核が丸出しになっていた。
きっとドラゴンゾンビアンデッドの最後の抵抗だったのだろう。
核がむき出しになってでも、私を相打ちに持ち込むつもりだったのかも。
なんて奴だ。最後の最後まで殺意が高い。
でも、私は倒れなかった。
……めちゃくちゃ臭いけど。
負けなかったのだ。
「……よし」
ここまで来れば、核を直接叩いた方が良い。
私は金属バットを握り締め、治癒魔法を出力させて、真っ黒い核をフルスイングした。
「たあああっ!」
核にヒビが入って砕け散る。
瞬時に真っ白な温かい治癒魔法の光に包み込まれて、溶ける様に消滅した。
「お、終わった……」




