78.ドラゴンゾンビアンデッド⑰
治癒魔法を出力させた金属バットで、ドラゴンゾンビアンデッドの本体にフルスイングを叩き込む。
命中した箇所が、治癒魔法の白い光に包まれる。
今までだったら、ここから光がぼんやりと全体を包んでいって、徐々にポロポロと崩壊するみたいに消えて行くわけだけど……。
……ダメだ、全然足りない。
金属バットが直接当たった場所は光に包まれている。
少しずつだけど、消滅をして小さな穴が空いていた。だから効いていないわけじゃない。他のアンデッドと同じようにちゃんと治癒魔法は効いている。
だけど。
治癒魔法の光はドラゴンゾンビアンデッドの身体全体を包み込んではいない。効果が出ているのは、せいぜい1メートル四方くらいだけだった。
これではとてもじゃないけど、全体を消滅させるには至らない。
私はもう一度治癒魔法を叩き込むべく、両足を肩幅に開いた。
バットを構えて、グリップを握り締め、治癒魔法を送り込む。
「んんんんんっ!(おりゃあああ!)」
先ほどよりも強くスイングして、ドラゴンゾンビアンデッドの身体を捉える。
バットの芯でしっかり捉えたおかげか、小さく空いていた穴が少しだけ広がった。その付近を包んでいた白く淡い光の濃さも、より濃くなっている。
でも、このペースでは遅すぎる。
全体を包み込むまでにどのくらいの時間がかかるか分からない。しかも、光が包み込んで治癒魔法が染みわたってから消滅は始まるから、トドメを刺すまではさらに時間が必要だ。
このままバットで殴り続けても、いつかは倒せるかもしれない。
けど、それよりも先に、ドラゴンゾンビアンデッドが復活して動き出すほうが早いかもしれない。
……それだけは避けないと。
かといって、バットで治癒魔法を使わないとなると、他に出来る方法は普通に手から治癒魔法を使う方法だけ。
だけど、これでは私とドラゴンゾンビアンデッドとの間に、どうしても空気が挟まってしまう。ドラゴンゾンビアンデッドに届くまでの過程で僅かにでも魔法にロスが生まれてしまうのだ。
だから、ロスが生じないようバットで直接攻撃をして治癒魔法を流し込んでいるわけで……。普通に治癒魔法を使うのなら、金属バットで攻撃をしたほうがマシと言える。
……いや、待てよ?
ドラゴンゾンビアンデッドに直接触れた状態で、治癒魔法を使えばいいのでは?
そうすれば、途中で魔法が空気中にロスすることもない。
どうして、もっと早くに思いつかなかったんだろう。
でも当然と言えば当然かもしれない。
魔物に直接触れるなんて発想は普通ない。どんな探索者でも武器や魔法で攻撃をするし、仮に魔物を触る機会があっても、それは倒した後だろう。
ともかく。
直接触れて治癒魔法を注ぎ込むのなら、バットを介さない分、より直接的に伝わるので威力は上がるはずだ。
いちいちバットをスイングする必要もないし、握力の心配もいらない。
直接触れて流し込むだけだから、細かな魔力や魔法の調整もいらない。
至ってシンプルな方法だけど、最も威力を発揮して効率もいい方法だった。
そうと決まれば、私は早速ドラゴンゾンビアンデッドの身体に両手をかざした。
そっと触れて、ぐっと力を入れる。
身体の内側から外に押し出すイメージで治癒魔法を発動させる。すぐに私の両手が白く淡い光に包み込まれて、その光はドラゴンゾンビアンデッドに伝わっていく。
治癒魔法を注ぎ込む。流し込む。
ただそれだけを意識して、額に汗をかきながら一心不乱に治癒魔法を出力し続ける。
少しすると、ようやく白く淡い光がドラゴンゾンビアンデッドの身体全体を薄っすらとではあるけど包み込んだ。
ようやくスタートラインに立てた。
ここから更に治癒魔法を注ぎ込んでいけば、身体の端っこから朽ちていくみたいに崩れて消えて行くはず。
私はもう汗でびっしょりだった。
顔中から汗が噴き出て、それが垂れては地面に落ちていく。
背中も汗がすごいし、胸もヤバい。いや、まじでヤバい。汗疹確定かもしれない。
やがて、ドラゴンゾンビアンデッドの足先や尻尾の付け根部分がポロポロと崩れ始めた。消滅が始まったのだ。
よしっ。
あと少し。
このまま押し切る!
バングルのおかげか、魔力には少しだけ余裕がある。
ミノタウロスアンデッドの時のように、魔力が底をつくことはなさそうだ。
もう一度気合を入れ直して手に力を込める。
そのときだった。
「――っ!?」
ポコっとドラゴンゾンビアンデッドの皮膚が小さく丸く隆起した。
え?
今の何?
見間違いではない、よね……?
眉をひそめていると、まるで沸騰したみたいに小さな丸い隆起が無数に起こった――。




