77.ドラゴンゾンビアンデッド⑯
う、嘘でしょ……!?
ふるふると小刻みに震えながら膨張しているドラゴンゾンビアンデッドの頭を見て、私は目を大きくさせた。
震えながら今もなお膨らみ続けていて、空気をたくさん含んだ風船みたいになっている。
いつ破裂しても不思議じゃない。
これは不味い。
本当に不味い。
ドラゴンゾンビアンデッドの頭は、毒の制御器官が2つも存在していた場所。
だから背中の制御器官が破裂したときよりも多量の毒を含んでいるだろうし、あの毒熱線を放っていたことも考えれば毒の強さも増しているはずだ。
実際、私は少量の毒霧を吸い込んだだけで一瞬で身体が動かなくなった。最悪の場合、ここにいる全員が戦闘不能状態に陥ってしまうだろう。
大慌てで執行さんと久遠さんに呼びかける。
「――二人とも急いで頭から離れて! 破裂するかもっ!」
私の声にはっと反応して、執行さんと久遠さんがドラゴンゾンビアンデッドの頭を見た。
二人とも全く気が付いていなかったのだろう。
膨張して小刻みに震えている頭を見て、ぎょっとした表情に変わった。いや、顔に出して明確にぎょっとしていたのは久遠さんだけで、執行さんの表情は変わっていなかったけど。それでも心の中ではぎょっとした部分があったと思う。
「執行ちゃん、こっちだ」
「はい」
久遠さんに促されて、二人は切断したばかりの尻尾の裏に回り込んだ。
今にも破裂しそうな頭を見て、逃げるのは間に合わないと判断したっぽい。でも、それでいいと思う。頭の大きさを考えれば、背中の制御器官が破裂した時とは比較にならないほど大規模な破裂になると思う。だとしたら、逃げている途中で毒を喰らってしまうかもしれない。
巨木のような太さと大きさの尻尾だから、頭が破裂して毒をまき散らしても、十分に防ぐことができるだろう。
それに二人とも解毒剤を持っているからたぶん大丈夫。
さて、問題は私だけど……。
と思っていると、隠れていた尻尾の陰から執行さんが顔をひょこりと出した。
「佐々貴さんも早くこちらに!」
「おい、執行ちゃん。危ねぇから顔出すなって」
「邪魔しないでください! 佐々貴さん!」
久遠さんに引っ張られて、執行さんの姿はすぐに見えなくなった。
でも、それでいい。
たぶんだけど、私が今いる場所から尻尾に向かっても間に合わない。
ちら、と頭を一瞥すると、ぷくぷくに膨らんで今にも弾け飛びそうだった。
……だとしたら、来た道を戻って距離を取るって方法だけど。
それをしても避けられるか微妙。
しかもドラゴンゾンビアンデッドから遠ざかってしまう。
頭がいつ破裂するのか分からないし、破裂して毒がまき散らされた後、どうななるのかも分からない。想定外のことが起きて手間取ってしまえば、ドラゴンゾンビアンデッドが復活して再び動き出してしまう可能性がある。
それは最悪すぎる。
せっかく二人がドラゴンゾンビアンデッドを動けない状態に、私が治癒魔法でトドメを刺せばいいだけの状態にしてくれたのに。
どうせ毒を避けられるか分からないんだったら、前進あるのみ。
執行さんには怒られるかもしれないけど、ここで一気にドラゴンゾンビアンデッドにトドメを刺して、消滅させてしまおう。
覚悟……というほどでもないけど、方針を決めて、私は解毒魔法を使いながらドラゴンゾンビアンデッド本体に向かって走った。
その途中、ポーチから解毒剤を取り出す。ふたを開けて、中身の液体を口に含んだ。
飲み込みはせず、口に含んだ状態のまま突っ走る。
これで、万が一に魔法が使えなくなってもすぐに飲み込めば大丈夫なはずだ。
むせて咳をしないようにだけ気を付けないと。
そして、ドラゴンゾンビアンデッドの頭の横を通過して、まもなく本体に近づける……というときだった。
視界の端でドラゴンゾンビアンデッドの頭が異常なほどに膨張して、ついに弾け飛んだ。
「――んんっ!?(うわっ!?)」
内包されていた毒が濁流のように押し寄せて、全身に浴びてしまう。
気持ちの悪い生温かさと臭いだけど、そんなのは無視だ。
全身毒まみれでびしょびしょになりながらも、解毒魔法のおかげで身体は動く。
口に含んだ解毒剤はまだ飲み込まず、解毒魔法を全力で使って身体に付着した毒を無効化していく。
ようやくドラゴンゾンビアンデッドの本体付近に到着して、
「んんんんんんっ!(おりゃああああ!)」
解毒魔法から治癒魔法に切り替え、フルスイングを叩き込んだ。




